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銀行の硬直的人事にフィンテックの影響で変化の兆し

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“事件”は三菱東京UFJ銀行を舞台に起こった――
Photo by Takahisa Suzuki

 奇妙なことが起きている――。三菱東京UFJ銀行の中で、それが判明したのは去年の初夏のころだった。実は、三菱東京UFJ銀行が別々の部署で同時期に実施していた、まったく異なる二つの選考において、同一人物が勝ち残っていたことがわかったのだ。

 その選考の一つとは、三菱東京UFJ銀行が開催した「フィンテックチャレンジ2015」というコンテストだ。ここ数年で銀行業界において急速に台頭してきた、金融とテクノロジーの融合を意味する「フィンテック」。それに関する独創的な金融サービスのアイディアを公募して、優れたアイディアについては発案者と共に事業化を検討しようという試みだ。

 そして、もう一つの選考というのが、人材の中途採用だった。こちらも同じく、フィンテックを担当する部署での求人で、コンテストの案件募集と人材募集の時期がたまたま重なっていたのだ。

 その「同一人物」は見事にコンテストの最終選考にまで勝ち進み、それと同時並行で何段階にも及ぶ中途採用の面接試験をくぐり抜け、この時点で中途採用の内定を得る。さらに、コンテストの最終審査会では、優れた親子向け金融教育サービスをお披露目し、なんと大賞まで受賞した。

 三菱東京UFJ銀行はフィンテック人材の獲得において、結果的に「ダブル合格」を出した人物を採用することとなったのだ。

 その人物というのが、三菱東京UFJ銀行のフィンテック部隊である、デジタルイノベーション推進部に採用されることになった林奈津美調査役だ。

 彼女は金融系コンサルティング会社などの職歴を歩み、「フィンテック」という言葉が使われるようになる前から、その分野に興味を募らせていた。

 その理由は大きく二つある。

 一つは、「社会人になって、モバイル端末上で展開されるサービスが世界を変えていくと思っていたが、現時点では全員が同じようなサービスを提供している金融業界には、まだまだ変わる余地があるのではないか」と考えたからだ。

 そして、もう一つは、「お金はすべての人に関わるものなので、よりよいサービスや優れた体験を提供することができれば、社会的なインパクトが大きいと思った」という理由だ。

 そこで、銀行業界の中でいち早く「フィンテック」という言葉で積極的に情報発信していると映った、三菱東京UFJ銀行の「二つの選考」へ同時に応募したのだという。

 コンテストでは、広島県に住んでいたときの小学校時代の友人とチームを結成した。林調査役がサービスの内容を企画し、友人がアプリケーションの作成を担当。無料インターネット電話サービスのスカイプを通じて、現在も広島在住の友人とアイディアを煮詰め、その努力の成果が大賞受賞という結果につながったのだ。

硬直的な銀行人事に変調

 この話は、「ダブル合格」を得た人材を獲得したという点では特異な事例だ。しかし、それと同時に、銀行業界の新たな人材採用の潮流についても物語っている。

 日本の銀行業界では、業界内の人材流動性はいまだに極端なほど低い。しかし、他業界からの登用については、徐々にではあるが増えてきている。その象徴が、フィンテックの分野なのだ。

 というのも、今、銀行業界はフィンテックを切り口に攻める立場であると同時に、それ以上に国内外のテクノロジー企業から攻め込まれる立場にもある。そして、“黒船”の外圧にさらされた結果、自らも“異分子”の人材を取り込み、変わらざるを得ない状況に追い込まれているのだ。

 そのため、3メガバンクのフィンテック担当部署では、人員の3分の1から半分くらいが異業種からやって来た中途採用組で占められている。年功序列や減点主義など、硬直的な人事慣行が色濃く残る銀行業界においては、これは注目に値する変化だ。

 その一方で、銀行内にも興味深い変化が生じつつあるようだ。

 三菱東京UFJ銀行では、銀行内での情報共有や意識改革、アイディア募集も兼ねて、役員から現場の従業員に至るまでフィンテックに関する勉強会を定期的に開催している。そして、その成果もあって「異動の社内公募で、われわれの部署に手を挙げてくれる人が増えてきている」(戸枝裕隆・デジタルイノベーション推進部次長)という。

 メガバンクや地方銀行を含めて、既存の金融機関によるフィンテックの取り組みが成功するかどうかについては、懐疑的な意見が常につきまとう。その代表例が意思決定の遅さや保守的な体質だろう。例えば、大手銀行のフィンテック担当部署では、何か新しいことをやろうとすると、10を超える関連部署から事前チェックを求められるという。

 銀行業界は規制業種であり、信頼や安全性が求められることから、一定程度は保守的な姿勢に目をつぶる必要があることは確かだ。しかし、フィンテックの台頭で銀行業界が「蚊帳の外」にならないためには、人事制度だけでなく、こうした仕事の進めかたなどの社風や文化にも切り込んでいかなければいけないはずだ。

 銀行業界による人材活用の多様化は、フィンテックへの取り組みの過渡期にあることを象徴している。その真の成否は今後に懸かっている。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木崇久)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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