このページの本文へ

中国で広まる「シェアEV」に試乗して感じた“中国らしさ”

2017年10月05日 06時00分更新

文● 江口征男(ダイヤモンド・オンライン

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

中国政府はなぜEV普及に
力を入れているのか?

中国では自転車だけでなく、電気自動車(EV)のシェアリングも日常ですでに広く利用されている

 電子マネーや自転車シェアリングが急速に普及している中国。最近では日本でもメルカリやDMMがそのビジネスモデルに追従するほど、中国は世界のシェアリングエコノミー先進国となっています。そして今、中国はさらにその先に進もうとしています。

 なぜなら中国では自転車だけでなく、EV(電気自動車)のシェアリングも、すでに日常で広く利用されているからです。中国では近い将来、世界に先駆けてEVや自動車シェアリングが当たり前の世界が来るかもしれません。そこで今回、上海駐在歴10年の筆者が、「EVシェアリングサービスの試乗レポート」という形で、中国の最新事情を紹介します。

 中国では政府主導で、EVの普及に力を入れています。表向きの理由は大気汚染防止やCO2排出量の抑制といった環境保護ですが、本当は自動車分野を輸出産業にしたいという思惑があります。

 ガソリン車で日米欧の自動車メーカーの後塵を拝した苦い経験のある中国は、試行錯誤を繰り返しながら、先進国の自動車メーカーにとって脅威となるような力を付けてきました。それでも満足していない中国は、これから横一線でのスタートとなるEVこそ、世界で覇権を握りたいと考え、バッテリーや電子機器などEVの中核技術を手がける企業を多く育ててきました(参照記事:「中国が突然「ガソリン車禁止」を打ち出した本当の狙い」)。

 ところが、中国政府がEV普及の旗を振っているにもかかわらず、中国国内でEVがなかなか浸透しません。ハイブリッド車(PHV)を含めた新エネ車を合計しても、2016年の中国国内販売シェアはわずか2%にすぎません。「EVへの販売補助金」「(大都市ではなかなか手に入らないナンバープレートの)EV購入者への優先配布」など消費者向けのEV優遇策を実施しても、上手くいきませんでした。

 そこで中国政府が考えた(と思われる)のが、中国ビジネスの基本「他力を利用する」という作戦であり、その作戦は2つあります。

「他力を利用する」という
ビジネスの基本はシェアEVにも

 利用する他力の1つ目が「外資系自動車メーカー」。中国政府は来年にも、外資系自動車メーカーのEV参入規制を緩和するようです。なぜならこれまで中国では、外資系自動車メーカーの出資比率は最大50%でしたが、自由貿易区に限り全額出資のEV生産会社設立を認める方向で検討していると言われているからです(テスラがこの政策に合わせて中国に生産拠点設立を検討中)。

 もう1つの他力が「民間の創業力」です。中国で大衆向けに新たなサービスを普及させるためには次の手順で行う“鉄板の方程式”があります。すなわち、次のようなブレーキとアクセルを上手く踏み分ける作戦です。

(1)新たなサービスを提供する会社を金儲けが好きな中国人にたくさんつくらせる(カネ余りの中国では有望な新規事業にはカネがたくさん集まる)。

(2)これらの企業にコスト度外視の低価格競争をさせて、消費者に新サービスを普及させる。

(3)体力のない企業が脱落し、勝ち組が決まってきた段階で初めて規制をかけて体制を整える。

民間企業を活用した中国特有の“鉄板の方程式”で、自転車シェアリングは大衆向けに一気に普及した

 中国はタクシー配車アプリ、電子マネー、自転車シェアリングなども、この方程式で急速に普及させてきました。EVについても、「民間のEVシェアリングサービス」の普及を含めて、その方程式通りに作戦を進め、中国国内のEVシェアを高めようとしているのではないかと思います。

 EV普及には急速充電ステーションの設置が必要となりますが、それをEVシェアリングサービス会社同士の自由競争で勝手に増やそうと考えているはずです。

 そんな中国政府の思惑通りに、現在、中国では以下の主要プレイヤー3社を含む100社以上がEVシェアリングサービスを運営しています。

主要プレイヤー5社(EVCARD、TOGO途歌など)を含む20社がEVシェアリングサービスを運営している。EVCARDは現在中国29都市で運営され、100万人の会員を持つ最大手だ 拡大画像表示

 筆者が今回試乗したのは、最大手の「EVCARD」。現在中国29都市で運営され100万人の会員を持つ最大手のEVシェアリングサービスのEVCARD社は、1日あたり平均2.5万回利用されています。利用できる車種は、奇端(中国自動車メーカーの「ビッグ5」のうちの1社)、江淮といった中国メーカーの車のほか、BMWもあります。

 EVCARDを利用するためには、まずアカウントを登録する必要があります。携帯の番号、名前、住所を記入し、本人確認がわかる写真付きのパスポートと中国運転免許証をEVCARDにメールで送ると、30分ほどで登録が完了します。

 そしてアリペイ(中国のアリババ社が提供しているモバイル決済サービス)かWechatペイ(中国のテンセント社が提供しているモバイル決済サービス)で1000元のデポジット(預り金)とチャージ金額をいくらか払い込めば、すぐに利用できるようになります。

いざ、試乗を開始!
タクシーよりもかなり割安

 さて、準備が整ったので珍しく快晴の上海でEVCARDの試乗へGO!

上海科学技術館の近くに絞ってみると、空車が4台ある拠点を発見!(左) 利用料金は1分約10円、1時間で600円、約6時間利用すれば元がとれる計算だ(右) 拡大画像表示

 まず、弊社上海オフィスの近くで空車がある場所を探します。上海市内に絞って見てもこれだけ利用できる車があります(緑の中の数字は利用できる車の台数)。オフィスから5km圏内の上海科学技術館の近くに4台空車がある拠点を発見!

 この拠点で利用可能な4台の一覧の中から、十分充電されていて、2日前に車内清掃済みの車を選択して予約。利用料金は1分あたり0.6元(約10円:1日の最大料金が219元=約3600円)。タクシーに乗るよりも、かなりおトクな料金設定になっています。

 現場に到着すると、もちろんEVCARDのスタッフは近くにいません(無人です)。アプリ上では4台あると表示されていたのに現場にあるのは3台、しかも奥の1台は「前の車を動かさないと出せないじゃないの……」という言葉を飲み込んで、運良く一番左側の出しやすい位置にあった予約車の鍵をアプリで解錠して、車に乗り込みます。

予約車の鍵をアプリで解錠する

 車の中に入ると、運転席は普通の車と同じ。少しドキドキしながらエンジンをかけてシェアリングEVの運転をスタート!

 そういえば、私が中国で車を運転するのは、今回が初めてでした。10年前に中国の運転免許証を記念で取得し、昨年更新したものの、中国のカオスな運転マナーを見ていると、とても運転する気にはなれなかったのです。だけど今回はよい機会ということで、初チャレンジしました。

 そういう意味でもドキドキしながら運転開始。5km先のオフィス近くのEVCARD拠点を目指します。

入力が面倒なカーナビよりも
スマホのナビ機能のほうが便利

 中国で運転する際の必需品「百度地図のナビ機能」をもちろん使います(この百度地図のナビは本当に便利です)。中国でも日本のようにカーナビがついている車もありますが、目的地の住所の入力が(スマホと比べると)かなり面倒なため、スマホのナビ機能を使う人の方が多いのが現状です。

指定場所に車を停めた後、充電器を車に装着する

 多少ドキドキはしながらも、問題なく快調に運転は続きます。途中交差点で、反対車線の左折車(複数)が、青信号で直進している私のことは全く気にせず何台も左折をしていくという中国ルールの洗礼を浴びながらも、目的地に無事到着。指定の場所に駐車した後、充電器を車に装着します。

 アプリ上で運転完了を登録して支払い処理に移ります。料金42元のところ、20元の割引券を使ったので、実際の費用は22元(約360円)。22元をアリペイで支払い、最後に利用体験を5段階で評価して手続きが完了です。無事、シェアEVの試乗体験が修了しました。

アプリ上で、運転完了を登録した後、アリペイで支払う。最後に利用体験を5段階で評価して手続きが完了する 拡大画像表示

 実際にシェアEVを利用してみて、料金も安くて便利なので、今後中国で普及する可能性は十分大きいと思いました。しかし一方で、実際に利用して見て、中国らしい“イマイチ”なところも少なからずありました。

 まずは「車がボロくて汚いまま放置されている」ということ。今回試乗した車も横がかなり凹んだままになっていたり、車内にゴミがそのまま残っていたり、座る座席もキレイではなかったりしていました。「自分の家は自分のものなのでキレイにするけれど、自分のものではないシェア自動車も含めた“外”は、自分が使い終わった後のことなどどうでもよい」という中国人気質の感じが、よく出ている気がします。これでも「2日前に清掃済み」の車なんですけどね。

 2つ目は、シェア自動車を配置している拠点がわかりにくいということ。地図上で一応それらしい場所が出てきますが、施設が駐車場の中だったり、住宅団地の中にあったりするので、初めて利用する人はどこにあるのか非常にわかりにくいと感じるでしょう。

今回最後にシェアEVを返却したのは、小区(オフィス団地)の中。初めての人には全くわからない場所だろう

 たとえば、今回最後にシェアEVを返却したのは、小区(オフィス団地)の中(実際には下の写真の奥)。これは初めての人であれば全くわからないと思います。この小区に入るためには、守衛がいる門で、駐車カードを取って中に入らなくてはなりませんが、この守衛さんにEVCARDの駐車場は中にあるかどうかを尋ねても「わからない、たぶんない」という答えでした(実際には中にありました)。

 しかも、この小区の駐車場は1時間10元なので、次のEVCARDの利用者が小区から出発するときに、膨大な駐車料金を払わないと外に出られないのではないかと、老婆心ながら心配になりました。

サービスレベルは何点?
シェアEVに感じた「中国らしさ」

 このシェアEVは、恐らく配置拠点をよく知っている人が同じ拠点で多頻度利用するもの、しかもタクシーよりも安い移動手段として、車の汚さも気にしない人が利用するものではないかと思います。

 たとえば、上海の郊外から市内の職場まで通勤するとき、「地下鉄やバスなどの公共交通機関に乗るのは混んでいてイヤだ」「タクシー通勤はコストが高すぎる」「自家用車通勤なら、オフィス近くで駐車スペースを毎日探すのも煩わしいし、駐車料金を毎日払うのも馬鹿にならない」という人が、第三の選択肢としてシェアEVを使うのではないかというのが筆者の仮説です。

 実際に、昼間は上海市内にシェア自動車がたくさん停まっていますが、夜になると郊外の家に帰る人が利用するため、市内の車の台数が極端に少なくなっています。

 日本であれば、サービスレベル60点くらいのシェアEVは普及しないと思いますが、逆にこのレベルであっても気にせずに需要拡大を続けているのも、良い意味で中国らしいと思います。

(智摩莱商務諮詞(上海)有限公司(GML上海)総経理 江口征男、取材協力/座間広之)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

カテゴリートップへ

最新記事
最新記事

アスキー・ビジネスセレクション

ASCII.jp ビジネスヘッドライン

ピックアップ