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日米両国で「実感なき長期景気拡大」が長期間続く理由

文● 高田 創(ダイヤモンド・オンライン

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 みずほ総合研究所がこのほどまとめた「内外経済中期見通し」では、米国の景気回復期間が今年7月に97ヵ月となり、2019年7月には過去最長の120ヵ月を抜いて、過去最長の景気拡大となるとの予想だ。同様に、日本も今年9月には戦後2番目に長い景気拡大局面になり、このままでは過去最高の景気回復期間になる可能性がある。

 だが日米ともに、今回の局面が、歴史的にも力強い景気回復かというと、そこまでの実感はなく、「実感なき景気回復」と言った方がいい。どちらも、物価や金利は低いままの「低温経済」。だがそのことが実は景気拡大を長持ちさせている秘密だ。

米国の景気拡大
「過去最長」も視野に

 図表1にあるように、米国ではそれまでの景気拡大の最長期間は1990年代初めから2000年代初めの「ITバブル崩壊」までだ。

 米国の過去の長期回復期間の終焉は、1990年代初めの「不動産バブル崩壊」、2000年代初めの「ITバブル崩壊」、2007年夏の「サブプライムブーム崩壊」と、どれもバブルが起きるほどの景気の過熱や市場の高揚感に対して、FRB(米国連邦準備制度理事会)が急ピッチの利上げをしたことによるものだった。

◆図表1:1980年以降の米国の景気循環

(注)網掛けは景気後退期。
(資料)米国商務省、NBER(全米経済研究所)より、みずほ総合研究所作成) 
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 だが今景気拡大局面で、2015年から始まったFRBの利上げは、2016年、2017年と今のところ年に1〜2回のペースの緩やかなものにとどまっている。

 そのため今日、米国経済は、自動車販売の鈍化や銀行貸出の停滞等の兆しはあるものの、景気後退を示すほどでもない。そもそも、過去の景気拡大局面で見られたバブルが生じるほどの過剰な信用膨張であるレバレッジの積み上がりは、不動産や自動車ローン等についても生じていない。

 だから利上げによる急ブレーキがかかりにくい分、景気拡大も長持ちしやすいことになっている。

 さらに、当初はトランプ大統領が大統領選で掲げた「大減税案」への期待から過熱が予想されたものの、最近ではトランプ政権の政権運営や政策の混迷から、財政面からの十分な需要効果は期待しにくいのが実情だ。

 その結果、本来ならプラス効果は少ないにもかかわらず、物価や金利がそう上がりそうにないことから、逆説的に過去最長の景気拡大も視野にあるというのが我々の見通しだ。

日本も「いざなみ」超えで
戦後最長の可能性

 同様の長期回復は日本にも当てはまる。

 以下の図表2に示されるように、日本の景気拡大期間は、今年9月、「いざなぎ景気」(1965年11月〜1970年7月、57ヵ月)を超える58ヵ月となり、戦後2番目になる。

◆図表2:日本の成長率と景気循環

(注)網掛けは景気後退期。 景気回復期の名称は通称。
(資料)内閣府「国民経済計算」、「景気基準日付」より、みずほ総合研究所作成) 
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 2017年4-6月期の実質成長率は1次速報の前期比+1.0%から2次速報で同+0.6%に下方修正されたが、底堅い回復が続くとみられる。

 このまま回復が続けば、2019年1月には「いざなみ景気」(2002年2月―2008年2月、73ヵ月)を超える74ヵ月となり、戦後1番になる可能性もある。

 過去の長期にわたる景気拡大期間の終焉は、

 「いざなぎ景気」(1971年):ニクソンショック

 「いざなみ景気」(2008年):リーマンショック

 と、どれも「海外発」の大きなショックが加わった時だっただけに、今回、日本の長期景気が続くかどうかは、先に示したように米国の景気拡大が続くかにも大きく依存する。 そうした点から見れば、日米景気は一心同体と考えることもできる。

物価や金利は低位安定
株式、債券相場は「程よい状況」

 昨年は世界的に「3L」(3低)(低成長、低インフレ、低金利)が話題になったが、今年、そのなかの「成長」はそこそこの水準に改善している。

 ただし、他の2つの「L:低い」である「インフレ率」と「金利」は依然、続いている。

 以上の状況が続くとなると、低インフレのもとで、先述のように利上げペースが緩やかにななることで、米国の景気拡大期間が長引くことに繋がりやすい。

 景気拡大―企業業績アップは株式相場を押し上げるサポートになるだけでなく、低インフレ、低金利状態で債券相場にも優しい、「ゴルディロックスの状況」になりやすい。 経済が過熱せず冷めすぎていもいないなかで、市場環境も程よい状況が続く。

 つまり長期金利の低位安定(債券相場の高値安定)と株高の背景には、現在の日米の異例の、長期にわたる景気拡大期間と、それにもかかわらず物価や金利が上がらない「低温経済」の状況があると考えられる。

米国、株価調整はあっても
景気拡大が長持ちする要因に

 確かに、金融緩和基調が続けば、いまの株式市場や債券市場の居心地の良い状況が維持されるから、トランプ大統領も2018年2月に任期を迎えるイエレン議長の後任には低金利を好む議長を望んでいると言われている。

 ただし、こうしたなかでの過度な期待の高まりは株式市場でバブルを生みやすい。

 既に米国株式市場のPER(株価収益率)は18倍程度と、割高な水準に達している。 みずほ総合研究所は年初から 「7の付く年のジンクス」として、例年、秋にかけての金融市場の波乱を挙げてきた。今年も、そのリスクを念頭に置く必要もある。このジンクスは、87年のブラックマンデー、97年のアジア危機、2007年のサブプライム問題と、金融市場を大きく揺るがす事件が10年おきに起きたことを指す。しかもその時期もいずれもが夏から秋にかけてだった。今年はそのジンクスにあたる年で、時期もまさにこれからだ。

 ただし、今日の米国経済の環境は本質的なレバレッジの高まりがないだけに、株価下落によって実体経済が大幅に落ち込むリスクはも少ない。

 むしろ、一時的な株価下落が生じた方が、株式市場の過熱感が薄れ、年末にかけての利上げも回避されて、景気拡大が長持ちしやすい面もある。

(みずほ総合研究所 専務執行役員調査本部長/チーフエコノミスト 高田 創)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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