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草間弥生展も!なぜ「撮影フリー」の美術館が増えているのか

2017年09月29日 06時00分更新

文● 森 江利子(ダイヤモンド・オンライン

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美術館内では、スマホの電源をオフにする…そんな常識はもう古い。最近は、スマホで撮影OKという展覧会が増えている。撮った写真はSNSにアップするという新しい美術館の楽しみ方が広まっている、その背景とは。(清談社 森 江利子)

盛況の草間弥生展
SNSへのアップも多数

撮影OKにしたところ、Twitterで2万を超えるリツイートがあり、口コミ効果で当初想定の何倍も来場者が訪れた作品。[国立新美術館10周年「NACT Colors」インスタレーション(イメージ) デザイン:エマニュエル・ムホー]

 今年2月から5月にかけ、東京・六本木の国立新美術館で『草間彌生 わが永遠の魂』が開催された。

 日本を代表する前衛芸術家・草間彌生の作品を過去最大級の規模で展示した同展は、会期中に51.8万人を越える来場者を記録し、大盛況のうちに幕を閉じた。

「草間彌生展では、作品をお貸し出しいただいた草間スタジオから許諾を受け、一部の展示作品を撮影可とする運びになりました」

 こう語るのは、国立新美術館(以下、新美)の学芸課長だ。

 同展では、スマホを片手にした来場者が、写真を撮りながら作品鑑賞を楽しむ姿が多く見られた。TwitterやInstagramなどのSNS上には、作品や展覧会の様子を伝える写真が多数アップされている。

 新美は、3月~6月に開催した『ミュシャ展』でも、メイン展示の「スラヴ叙事詩」の一部を撮影フリーにしたことでも話題を呼んだ。

「ほかの美術館やギャラリー、コレクターからお借りした作品を展示する“企画展”で撮影を行うには、著作権の問題をクリアすることや、コレクターからの許諾が必要になります。一方、所蔵作品を展示する“コレクション展”は独自の判断で撮影を認められるので、とくに海外では撮影できる美術館も多いですが、“企画展”でも撮影フリーという傾向は、国内外で、ここ5、6年のことではないでしょうか」(学芸課長)

撮影フリーでお客が殺到!
若者世代のSNSの影響力

 新美は、開館10周年を迎えた今年1月に『開館10周年記念ウィーク』を開催。現代映像作家のインスタレーションやプロジェクションマッピングなどを展示する特別展『NACT Colors―国立新美術館の活動紹介』は、11日間の日程で実地された。

 同展に出品され、とくに話題を呼んだインスタレーションは、フランス人作家のエマニュエル・ムホー氏による「数字の森」だ。色彩と空間をテーマに、6万個の「0」から「9」の数字ピースを天井から吊るしたインスタレーションだ。

「作者ご本人の希望もあり、全展示の撮影を自由にしたところ、Twitter上で『数字の森』の投稿が話題を呼びました。短期間で2万リツイートを超える投稿があり、口コミ効果をもたらした結果、当初に想定していた何倍ものお客様にご来場いただきました。SNSの影響力を強く実感した出来事です」(学芸課長)

 現代美術の作者には、「作品を多くの人に知ってもらうきっかけになれば」と、自ら撮影フリー化を希望する場合も増えているという。もちろん、SNSへの写真の投稿も想定の内だ。

「現代美術のファンは、若い世代が多いので、SNSとの親和性も高い。彼らにとって、美術館は作品を鑑賞するだけの場ではない。SNSにアップする写真を撮りに行くことも、美術館に足を運ぶ付加価値になっているのではないでしょうか」(学芸課長)

撮影フリー化には課題も
試されるマナーと美術館側の対応

 一方で、美術館での撮影行為については賛否があることも確かだ。一部の来場者からは「作品の前でスマホを構えられると、鑑賞の妨げになる」「シャッター音がうるさくて、鑑賞に集中できない」といった声も寄せられているという。

「一部には、撮影に夢中になるあまり、周囲への配慮がおろそかになってしまうお客様も見受けられます。写真撮影を楽しみたいお客様と、静かに作品を観賞したいお客様の兼ね合いが難しい。たとえば、作者の方から全作品の撮影許可をいただいた場合でも、あえて撮影可と不可のエリアを設けて、どちらのお客様にも楽しんでいただけるようにしています」(学芸課長)

「また、混雑の予想される展覧会では、撮影を許可しても安全性が確保されるようなオペレーションを実行するなど、美術館側の工夫も必要です」

 先日、米・ロサンゼルスの現代美術館にて、作品の前で「自撮り」をしようとした女性が誤って転倒し、背後にあった展示作品を倒してしまうという事故がニュースになった。ネット上では、自撮りをした女性のマナーのほかにも、作品の展示方法や、スタッフの監視が不十分だったことなど、美術館側の問題点も指摘されている。

 新美では、安全性の観点から、スマホ撮影用アイテムとして流行する「自撮り棒」の使用は禁止している。無条件に撮影を許可するわけではなく、今後も細かい対応が必要になりそうだ。

 SNS時代の到来による美術館の撮影フリー化は、まだ始まったばかり。来場者側のマナー周知や向上が求められることはもちろんだが、美術館側もSNSによる集客効果を手放しで喜ぶわけにはいかず、課題も残る。「美術館は撮影フリー」が新たな常識となるかは、美術館と来場者双方の努力にかかっていると言えるだろう。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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