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東電は品川火力発電所の燃料切り替えを突破口に、東ガスの牙城に切り込む構えだ Photo:kyodonews/amanaimages |
東京ガスの牙城が崩れるかもしれない。東京電力ホールディングスが石油元売り最大手のJXTGホールディングスと電力・ガス事業で提携し、川崎市に液化天然ガス(LNG)火力発電所を建設する構想が明らかになった。
さらに、このプロジェクトには都市ガス製造設備を担当する大阪ガスも参画しており、にわかに東ガス包囲網が敷かれつつある。
東電にとって、今回の提携の狙いは、自前で製造した都市ガスを品川火力発電所(東京都品川区)の燃料に充てることにある。もともと東電は品川火力の燃料を東ガスから購入していた。関係者によれば「その購入量は東ガスの都市ガス全販売量の1割弱を占める」。品川火力は東ガスの“最大顧客”なのだ。
別の関係者は、「品川火力向けのガス需要がごっそり奪われてしまったならば、経営に与えるインパクトは甚大だ」と指摘する。
きっかけは、JXTGの翻意にある。本はといえば、異業種のJXTGが電力小売事業を展開する際のパートナーは、東ガスだった。
実際に、川崎市で出力85万キロワットのLNG火力発電所を東ガスと共同で運営。2021年までに出力を200万キロワットまで増強する計画で動いていた。しかし7月に、送電網整備費の増加などを理由に計画が頓挫していた。
そのわずか2カ月後、今回の電撃提携が明るみに出た。ある電力関係者は「東電がJXTGに、どちらを選ぶのか決断を迫った」と解説する。
実は、歴史的に東電とJXTGの絆は深い。JXTGが誕生する10年以上前の新日本石油時代から、東電は原油精製の過程で造られるC重油を年間約1000万キロリットル購入する「お得意さま」。それが今回の提携につながったというのだ。
「渡りに船」の大阪ガス
16年の電力の全面自由化以降この8月末までに、東ガスに約90万件の電力の顧客を奪われた東電。電力・ガス事業で再び攻勢に出るには、自慢の燃料調達力に加え、自前の都市ガス製造設備が必要で、ノウハウのあるガス事業者を何としても取り込みたかった。
こうした状況は、首都圏進出の足掛かりが欲しい大阪ガスにとって、「渡りに船」だった。東電の狙いに乗った形だ。
牙城を切り崩されつつある東ガスだが、「間もなく電気契約100万件を突破できる」(ある幹部)と意気揚々。電力事業の好調をアピールすることで、ガス事業での追撃をかわそうとしている。
自明のことであるが、東ガスの本業はガス事業である。基本姿勢は「ガス契約の脱落防止」だ。品川火力向けの大型契約を失うことは相当な痛手のはず。何より、エネルギー業界の雄である東電をリーダーとした東ガス包囲網の存在は脅威以外の何物でもない。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 堀内 亮)
※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら
