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「課長の思いつき」でムダ残業!部下疲弊も本社は座視する限界職場の悲惨

2017年09月19日 06時00分更新

文● 木村政美(ダイヤモンド・オンライン

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上司の思いつき言動で長時間労働が常態化!みなさんの職場でも起こっていないか?(写真はイメージです)

今回は本社から異動してきた課長の話。課長の思いつき言動で部下の長時間労働が常態化し、やがて疲れ果ててしまう。この事態を招いた課長にはどんな処分が下されるのか?(社会保険労務士 木村政美)

<甲社及び乙支社概要>
 業界ではトップクラスを誇る部品メーカー。国内10ヵ所に支社がある。従業員数は全社で約800名。今回、舞台となる乙支社は、支社としては最も大きく、従業員数は60名。管轄地域エリアの営業と商品の注文・配送を担っている。
<登場人物>
A:乙支社・営業1課長。パワハラ三昧だった前課長の他支社への異動に伴い、後任として本社から赴任してきた。性格は柔和だが、仕事に関して部下からの評判は……?
B:乙支社長
C:営業1課主任。入社5年目の中堅社員
D:B支社長の大学時代の同期で社労士

 乙支社の営業課は担当エリアごとに営業1課、2課、3課に分かれている。営業1課のC主任は仕事はできるが、かなり激しい気性で部下に対してパワハラ三昧だった前課長が他支社へ異動となり、「これで毎日のように怒鳴られることもなくなったぞ」とホッとしていた。

 他の課員たちの思いも同じであった。そして後任として本社からA課長が赴任してきた。

「前任の課長さんは随分厳しい方で、パワハラ的な言動もあったと聞いております。私は皆さんとのチームワークを第一に考え、仕事に取り組んでいきますので、よろしくお願いします」と、A課長の着任挨拶に課員全員が拍手喝采した。

半年後、前課長在籍時よりも
残業時間、休日出勤が増加

 ところが半年後、営業1課の状況は前課長在籍時よりもさらに悪化していた。なぜ悪化してしまったのか?それは、課員の残業時間や休日出勤が大幅に増えたからだった。そしてその原因はA課長の言動に伴うムダな業務の負担増にあった。

 課員が退社する間際に、A課長は課員を呼び止めて担当業務内容の確認や新たな仕事の指示を出すことが多く、しかも即結果を求めてくる。そのため、それに応えようと、課員が頑張って販促資料の作成をするなど、一人ひとりの負担が増えたのである。特にA課長の指示で作成した販促資料は後日不要になることが多々あり、ムダな時間を費やすこととなった。

 また、A課長が新製品の紹介や販促イベントの打ち合わせなどで課員の顧客先に同行する際も、自分の都合や気分次第で突如訪問先を変更、キャンセルすることは日常茶飯事。課長に振り回される課員たちは訪問先変更や日時再調整に多くの時間を費やした。さらに一番悩まされるのが、突然、販促目的のイベント参加が決まることだ。それは土・日にも行われ、課員たちはその都度休日出勤をして対応するのだが、仕事の都合もあり代休がなかなか取れない。そんな事情により、課員たちの疲労はたまり、やがて不満が続出するようになった。

「残業は増えるし、休みは減るしで、こんなんじゃやってられないよ。本当に仕事が忙しいならわかるが、結局はA課長に振り回されているだけじゃないか。こんな状態だったら前のパワハラ課長の方がまだマシだった!」

支社長に現状を訴え
業務改善を求めるが…

 C主任は思い余ってB支社長にこれまでの現状を訴え、業務改善を求めた。B支社長は普段、社内にいることが少なく、課内のマネジメントは課長に任せていた。C主任からの訴えで状況を把握するため、早速、営業2課と3課の課長に話を聞いた。すると、両課とも業務量、業務内容等は営業1課とほぼ同じであるが、残業時間・休日出勤はいずれも1課の約4分の1の時間で収まっていた。

 この事実を踏まえ、B支社長はA課長に注意した。

 「君が課長になってから、営業1課の残業時間や休日出勤がすごく増えているけど、どうしてこうなっているの?」
「いやーっ……、みんな頑張ってくれてますから……。おかげで当課の営業成績は順調に推移しています」
「そうは言っても他の営業課と比べて残業時間や休日出勤が多すぎるよ。課員たちもかなり疲れている。もっと計画的に仕事を進めてくれ」

 しかしその後も、A課長の態度が改善される様子はなかった。A課長は仕事の計画性がない上に時間管理ができない人だったのだ。つまり、課長はその時の思いつきで仕事を進めていくタイプといえようか。これでは部下を消耗させるだけである。

 B支社長は本社にも相談したが、「支社で解決してくれ。君に任せるよ」の一点張りで埒が明かない。後で聞いた話だが、A課長は本社の課長時代に管理職としての能力が不足していたため、左遷で乙支社に異動してきたのであった。

支社長は社労士のアドバイスを受け
A課長とどう向き合うのか?

 困ったB支社長は、大学時代の同期でもあるD社労士を訪ね、A課長に関するこれまでの経緯を話し、アドバイスを受けることにした。

 「本当に困ったよ。A課長に何回注意してもダメなんだ。聞く耳を持たないというか。これも彼の性格なのかな?」
「おそらくそうだと思うよ。ところで課員たちの残業時間や休日出勤はどうなっているんだ?」
「タイムカードで課員たちの出退勤を確認したんだけど、最近6ヵ月間を平均すると、月に80時間を超えているよ」
「それで、時間外や休日出勤の手当は支払われているの?」
「うん、タイムカード上の時間に対する手当は支払われていたけど、C主任の話ではサービス残業も結構あるみたいだ」
「それ、まずいんじゃないの?すぐに対策を打たないと……」

 D社労士のアドバイスは以下の通りである。

(1)乙支社の36協定(時間外労働・休日労働に関する協定届)記載内容を確認すること
(2)乙支社の従業員が行ったストレスチェックの内容について確認すること(乙支社は従業員数50名以上のためストレスチェックを行うことが義務)
(3)A課長には感情論ではなく資料を提示する等して理詰めで指導すること
(4)A課長に改善の様子が見られなければ、本社に彼の異動を進言すること

 その後、B支社長が乙支社の36協定(労働基準法第36条)の内容を確認すると、時間外・休日労働を合わせ、月80時間の残業時間は法律違反であることがわかった。そのため喫緊に改善しなければならない。また乙支社全員に実施したストレスチェックの職務分析によると、営業1課は他の部署に比べて高ストレスであるとの結果が出ていた。

 B支社長は特に残業時間とストレスに関する資料をA課長に見せながら状況を説明し、改善策を作成・実行するように指示を出した。今後、改善されなかった場合は営業1課の課長職を退いてもらうことをはっきりと伝えた。

 しかしその後も、営業1課の残業時間や休日出勤の減少はほとんど見られなかった。A課長はどうも事の重大さを理解していないようだ。そこでB支社長は本社からの「君に任せるよ」の言葉通りに行動した。それは本社にA課長の退任を申し出ることだった。

 本社には、36協定違反と長時間労働の影響で課員の心や身体の健康に支障が出ていることを説明した。

「私はこれまで幾度となくA課長に注意してきましたが、全く改善されません。このままでは営業1課の労働時間については法律違反になりますし、職務が原因で、不調者が休職したり、万一自殺でもしたら会社として多大な責任を負うことになります」

 B支社長の切実な訴えに、事態を重く受け止めた本社も聞き入れた。2週間後、本社から人事異動が発表された。A課長は降格され、役職なしの社員として再び本社に戻った。A課長はこの辞令にかなり抵抗したが、最終的には受け入れた。それは就業規則に役職の降格がありうると記載されていたこと、また人事考課の方法が明確化されていたことが理由である。

 ほどなくして営業1課には新しい課長が赴任してきたが、疲れ果てやる気を失くした部下の様子を見て絶句してしまった。

 課長は1課の体制を立て直すため、週休2日を徹底させ、体調がすぐれない場合は休養のため有給を取るように勧めた。また当面の間、土・日の販促イベント参加は中止することにした。職務内容についてはこれから見直し改善を行っていく予定であるが、課内の業務が従来通りスムーズに機能していく体制に戻るまでには時間がかかりそうである。

※本稿は実際の事例に基づいて構成していますが、プライバシー保護のため社名や個人名は全て仮名とし、一部に脚色を施しています。ご了承ください。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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