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WELQ方式でも良い記事だけでもダメ…ネットメディア淘汰の時代

2017年09月19日 06時00分更新

文● 松原麻依(ダイヤモンド・オンライン

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多くのキュレーションサイトが閉鎖する発端となったDeNAのWELQ騒動。信憑性の薄い記事を粗製乱造してPVを稼ぐ手法が問題視されたわけだが、良いコンテンツを制作するには必然的にコストがかかるもの。ネット記事を手掛ける企業が生き残るためには何が必要なのか。(清談社 松原麻依)

インターネットには自浄作用がある
粗製乱造の記事が淘汰される理由

Twitter上で告発の声が相次いだために発覚したDeNAのWELQ問題。しかし、良質のコンテンツさえ出していれば生き残れるかというと、話はそう単純ではないPhoto:Rodrigo Reyes Marin/AFLO

 2016年末から今年にかけて世間を騒がせた「WELQ騒動」。医療系情報サイトを謳い、信憑性が求められる分野に特化した媒体にもかかわらず、科学的根拠に乏しい記事が大量に公開されていたことが問題視された。

 キュレーションサイトの体をとっていた同サイトの記事は、他サイトからの情報をリライトするのみで、取材をしたり専門家の監修を受けるといった労力はほとんどかけてこなかったという。また、記事の多くは格安の報酬で雇われた外部のライターが作成していたものだ。

 入念なSEO対策のもと、多くのユーザーが関心を持ちやすいテーマやキーワードを盛り込んだ低コストの記事を「粗製乱造」し、プラットフォーム全体のPVを上げる。すると広告収入が増える。非常に分かりやすいビジネスモデルだ。同じような構造のキュレーションメディアはWELQだけではないだろう。

 スマートフォンで少し検索しただけでも、似たようなテーマの記事がいくらでも出てくる世の中だ。その中からユーザーに自社のコンテンツを選択してもらうためにはどうしたらいいか。倫理観を度外視して利益だけを追求するのであれば、WELQ的な手法にたどりつくというのは想像に難くない。

 しかし、『顧客を観よ-金融デジタルマーケティングの新標準』の著者で、多くのウェブ媒体でコンサルティングを手がけてきた株式会社ビービットの宮坂祐氏はネットの『自浄作用』について言及する。

「インターネットには低品質なサイトも存在しますし、それに影響を受ける人も一定数いることは確かです。『ユーザーにとっての価値』を無視し、PVのみを念頭においた記事を量産することで、一時的に利益を得ることはできるかもしれません。しかし、ある程度メディアの規模が大きくなると、信憑性の薄い情報やあまりに倫理観が欠如した内容のコンテンツは、読み手から信用を失い退場させられてしまいます。こうした“自浄作用”がネットにはあるのです」(宮坂氏、以下同)

 多くの人の監視にさらされているインターネット上では、あまりにアコギなことをすると、ユーザーから告発されることになる。WELQ騒動の場合も、Twitter上で問題を指摘する声が相次いだことが発端だった。

 だが、コンテンツの質を上げることがメディア存続の条件だとすれば、一定のクオリティを担保するような制作者が必要となる。時には専門家の監修を受ける必要もあるだろう。記事1本の制作にかかる時間も増える。要はコストがかかるのだ。

質の高い記事だけでも取り残される?
ユーザーの「状況」を捉えた働きかけが必要に

 しかし、コストをかけて質の高いコンテンツを配信し続ければ、それに比例して読者は増えるというほど、ことは単純ではない。宮坂氏は「読み手にとっての価値のあるコンテンツを作ることは、あくまでも市場から退場させられないための大前提」だという。

「よいコンテンツを作るには、そのコストを底支えするための顧客基盤を作る必要があります。しかし、質の良いコンテンツを作ってただ待ち受けているだけでは、顧客基盤を確立していくことは厳しくなってくるでしょう」

 ユーザーがネットを閲覧する時間は限られている。多くの媒体がクオリティの高いコンテンツを配信するようになったとしても、ユーザーの“可処分時間”が増えるわけではないので、競争は自ずと激しくなる。

「ユーザーは質の高いコンテンツには不満こそは抱かなくとも、それだけだとその媒体を継続して選択する理由にはなりにくい。一定の顧客基盤を作るには、配信側からユーザーの「状況」を捉えた働きかけてをしていくこともひとつの方法だといえるでしょう」

 媒体が能動的にユーザーに働きかけるのであれば、無作為に広くあまねくすべての人にアプローチしていくことは難しい。そのため、対象となるユーザーの絞り込みと、そのユーザーの行動パターンや嗜好を綿密に分析することがポイントになるという。

「たとえば、以前私がお手伝いさせていただいた媒体の中に、結婚情報誌『ゼクシィ』のWeb版があります。こちらも独自性のある質の高いコンテンツを配信してたにもかかわらず、Web上ではユーザーが他の媒体に分散していく傾向がありました。そこでひとつの対抗策となったのが、『ゼクシィアプリ』です。花嫁がアプリに登録するタイミングで結婚式の予定日を入力すると、アプリが結婚式までの日程を逆算して、適宜ユーザーにとって必要な情報を通知してくれる仕組みになっています」

 さらに、ゼクシィアプリでは、花嫁が見た式場やドレスなどの情報をもとに花嫁のタイプを分類し、個々の好みに合わせた内容の記事を配信しているという。アプリひとつで必要な情報を網羅できたら、ユーザーは限られた時間の中で他の媒体を見る必要がなくなる。分厚い雑誌1冊で読み手の需用を完結させていた紙の時代と、近い状態をつくることができるというわけだ。

 質の高いコンテンツとユーザーの状況を捉えたメディアからの働きかけで、ユーザーの満足を満たしていけば、顧客基盤の獲得につながる。そこで利益が増えていけば、よりコンテンツの質を高めることができ、さらにユーザーからの評価も上がる…と、いった具合に良いサイクルが生まれていく。「記事のクオリティを取るか、儲けをとるか」の二者択一ではなく、ユーザーにとって良い商品を提供することと、企業の収益を生み出すことは相関関係にあるのだ。

「顧客にとって良い商品を生み出す」という視点は他の業種にも言えることだろう。しかし、デジタルの世界では今後、メディア側からユーザーに働きかけることで「価値ある商品」に加え「価値ある体験」を提供してくことが求められているのかもしれない。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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