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中国人のビジネス速度を爆速にした「中国版LINE」の影響力

2017年09月15日 06時00分更新

文● 中島 恵(ダイヤモンド・オンライン

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※写真はイメージです

中国でのビジネススピードは日本よりも圧倒的に速い。アポイントメントもスマホのSNSであっという間に連絡が取れてしまう。筆者も取材等で連絡スピードの恩恵にあずかっている一人だが、そのスピードに付いていくのも大変だ。その状況について、自分の体験を踏まえながら紹介する。(ジャーナリスト 中島 恵)

あっという間に
重要人物3人とアポ

 最近、ある取材のため、数人の在日中国人を紹介してもらう機会があったのだが、その紹介スピードの速さに驚いてしまった。

 以前、こちらの記事で中国人のスマホ決済が猛スピードで進んでいることを紹介したが、スマホ決済で最も使われているウィーチャットペイ(微信支付)という支払い機能は、ウィーチャット(微信)というSNSのメッセージアプリの中にある。ウィーチャット自体、中国国内だけでもすでに8億人以上が使っている中国で最も有名なアプリで、在日中国人社会でも業務連絡の多くは、このウィーチャットを介して行われている。

 私も3年ほど前から、中国での取材に必要不可欠なウィーチャットを始めたので、ウィーチャットを使うと連絡が速いことはもちろん知っていた。だが、今回改めて、このアプリの利便性や、中国人と日本人の"生活スピードの違い"を痛感したのだ。

 金曜日の午後だった。ある在日中国人ビジネスマンに、中国人4人の紹介を頼んだ。趣旨を書いて送ったところ、驚いたことに、翌日(土曜日)の午前中には4人すべてに連絡がつき、ウィーチャットで彼らの「紹介カード」が続々と送られてきた。

 フェイスブックにも似たような機能があるのでご存じの方も多いと思うが、ウィーチャットの「紹介カード」は友人に別の友人を紹介するときに使用するもの。ウィーチャットの場合、フェイスブックのように相手の名前だけでは検索できず、あてずっぽうで友人を探すことはできない。相手のウィーチャットIDや電話番号を教えてもらうか、直にお互いのスマホのQRコードをスキャンするなどの方法があるが、紹介カードがあれば、IDなどを知らなくても、すぐに友だちとして追加できるので便利だ。

 こうして「友だち」に追加した4人にはすでに趣旨が伝わっているので話も早い。私もせっかちな性格なので「来週のご都合はいかがですか?」と聞いてみると、なんと中国に出張する予定の1人を除いて全員OK。

 しかもその返事はすべて私の送信からわずか2~3分後に来た。土曜日のほうが平日よりもメッセージやメールが少なく、逆に返信しやすかったのかもしれないが、彼らはふだん相当忙しい立場にあり、決して「ヒマ」なわけではない。土曜日は基本的に仕事は休みだが、すぐに返信してくれた。私も、この「中国式スピード」に乗らなければと思い、道路の脇で足を止めて急いで立ったまま返信し、約束を取り付けることができた。

 金曜の午後から24時間も経たないうちに、私は取材に必要な3人の重要人物のアポを簡単に取り付けることができ、「ウィーチャットってなんて便利なんだろう」と感激した。これまでも中国人相手の場合「返信は素早く!」は私のモットーだったが、今回はいっぺんに4人も紹介されたので、つくづくそう感じたのだ。

ウィーチャットで
グループをつくる

 もちろん、紹介してくれた友人の素早さや律儀さ、紹介された相手の「紹介してくれた友人のメンツを立てるべく(私に対しての)丁寧な対応」にも感心した。彼らが私の取材を引き受けてくれたのは「信頼できる友人の紹介」があったからに他ならない。こうして、いとも簡単に約束できたことはありがたかった。

 もし本社に一から連絡し、広報担当に趣旨を送り返信を待つ、という正統派の方法を取っていたら、どんなに早くても数日、日本企業だったら、取材が可能かどうかわかるだけでも2週間以上もかかる場合もある。

 もう一つ、最近、別件で別の中国人からも複数の在日中国人を紹介してもらう機会があった。この友人の紹介の仕方は、(1)友人、(2)私、(3)紹介してもらう相手、の3人をウィーチャットの「一つのグループ」にして3人同時に連絡をする方法だ。

 こうした機能もフェイスブックにもあるが、ウィーチャットがフェイスブックと違うのは、(2)私と(3)相手が以前からウィーチャット上の「友だち」になっていなくても(1)友人が双方を知っていれば、グループを作れるという点だ(3人ともウィーチャットに登録していることは前提条件)。

 事前に(1)と(3)が話してOKだったら、3人のグループを作る場合もあるし、いきなり3人のグループを作り、そこで(1)友人が(2)私に(3)を紹介してくれる場合もある。やり方はさまざまだが、(1)は(2)と(3)が合意したあと、そのグループを抜けるか、あるいは(2)と(3)が「友だち」になり、2人だけで必要な話をするというケースが多いようだ。

 これもやはり(1)と(3)に信頼関係があるからこそ、(2)の私に紹介してくれるのであり、簡単でスピーディーな紹介の仕方だ。ウィーチャットというスマホアプリの優れた機能だといえる。このように日々、中国人は(日本在住者も含めて)、常にウィーチャットで連絡を取り合っている。日本人の連絡手段とはまったく違う。

 何よりもウィーチャットを使う最大の利点は「スピード感」と「手軽さ」にある。

 私も日本にいるときだけでなく、これまで中国に滞在しているときにもウィーチャットはフル活用してきた。ウィーチャットに登録するようになって以降、中国人との連絡は格段にスムーズになり、タイムライン(ウィーチャットではモーメンツと呼ぶ)上に流れてくる彼らの動向から日常生活を垣間見ることができて、自分の仕事上、非常に役に立つことが増えた。

中国取材の連絡手段は
すべてウィーチャット

 日本から中国に出発する前、事前のアポを取るのも、現在の私の連絡手段はすべてウィーチャットだ。ウィーチャットで連絡すると、パソコンメールから連絡するよりも数倍、やりとりが速い。パソコンメールだと返信に何日もかかる人が、ウィーチャットだと早ければ1分後、遅くても5~6時間後くらいには返信が来るからだ(中には非常に返信が遅い中国人もいるので、全員がそうだとはいえないが…)。

 ウィーチャットはパソコンでもできるが、ほとんどの人はスマホにインストールし、パソコンよりもスマホでの利用時間のほうが長い。だから週末だろうと深夜だろうと、スマホを見ていれば返信をくれる。電話と違って相手に負担をかけることもない。フェイスブックのように「開封」したかどうかが相手にわからないので、見てすぐに返信できなくても、プレッシャーがかからない。

 だが、メリットばかりではない。メッセージがどんどんたまっていくと、返信し忘れるというミスが生じやすい。多忙なビジネスマンや経営者になると、ウィーチャットのメッセージが50個以上、100個以上、たまに500個もたまっていることがある。

 前述したように、グループチャットなどで自分が途中から関わらなくなっているものや、学校の父兄同士、高校の同級会のグループチャット(30人以上)もあり、いちいち返信が不要のものもあるからだ。「開封した」かどうかがわからないので、返事が来ないと、相手が見たのかどうか不安になり、催促すべきか迷ってしまう。それに、早く簡単に連絡ができるのはよいが、「よく考えてから行動する」にはウィーチャットは不向きだ。

 日本人の中国ビジネスではよく「石橋を叩いて渡るので決断が遅い」といわれることがあるが、逆に中国人は「走りながら考える」「やりながら軌道修正する」ことに慣れているので、何かを始めるとき、いざ蓋を開けてみると「何の準備もできていなかった」ということがある。慎重に考えてから返信をする日本人と、気軽に返信する中国人の性格が、メールとウィーチャットというツールに端的に表れているのかもしれない。

ウィーチャットは
ビジネスでも私生活でも主流

 すでに多くの日本人も知っているように、中国ではフェイスブックやLINEは基本的に使えず、その代わりに、中国版LINEであるウィーチャットが大流行しているという格好だ。

 私の知る限り、中国人はあまりパソコンのメールアドレスから返信して来ない。もちろん、パソコンを使わないわけではないし、会社ではパソコンをずっと開いているのだが、友達との連絡や、ちょっとしたやりとり(日程や待ち合わせ場所などを決めたりする簡単な連絡)の場合、相当高い確率で、スマホ上のウィーチャットを使っているように感じる。ほかにQQ(アプリ)などもあるが、やはりウィーチャットが主流だ。パソコンメールは正式文書、ウィーチャットは簡単な業務連絡、というふうに自分ですみ分けをしている人も多い(中国人みんながそうした使い方をしているわけではないので、あくまでも私の個人的な印象だ)。

 日本でも仕事の連絡手段としてもLINEやフェイスブックを活用し、長い文章(原稿)や正式文書を送るときはパソコンメールから、と使い分けている人もいるが、仕事でSNSをメインに使っている人は、中年以上では少ないのではないだろうか。古い人間である私の意識の中では、「仕事関係者への連絡は短くてもメール、友だちや、仕事関係者でも親しい間柄の場合、外出先から急いで返信する場合などはSNSでもいい」というイメージがなんとなくあるが、これも使い方は人それぞれだ。

 だが、中国人の場合、かなり高い確率で、ウィーチャットがビジネスも私生活も主流となり、ウィーチャットペイと同様、日常生活の非常に多くの時間を支配するようになってきた。ここが日本人とはかなり違う点だ。日本でいえば人口の7~8割が一日中LINEをやっている、というような状況なのである。

日本人のビジネススピードは
中国よりもずっと遅い

 日本でもすでに多く報道されているように、中国ではウィーチャットを使えるのは当たり前(つまり、スマホを使うのは中国では当たり前)で、レストランでも、コンビニでも、出前、映画、タクシーも、何でもウィーチャットペイで支払える時代になってきている。

 個人対個人の送金も、もう一つのスマホ決済手段として代表的な存在であるアリペイよりも、ウィーチャットペイがより利用されやすくなってきていると感じるのは、ウィーチャットというアプリで、まず誰かとコミュニケーションを行い、その延長線上で「支払い」という行為が発生することが少なくないからだ(たとえば、ウィーチャットで会う約束をした友達とレストランで食事して、友だちに自分の分を支払う場合など)。シェア自転車での支払いもウィーチャットペイで行うことが多く、おそらく多くの中国人は1日に何十回とウィーチャットのアプリを開いている。

 だから、スマホの画面のいちばん下(最もよく使う部分)にアプリをセットしている人が多い。

中国では、ウィーチャット(微信)のアプリはスマホの画面のいちばん下(最もよく使う部分)にセットする人が比較的多いようだ

 これは在日中国人の間でも同様だ。私もまさにそのウィーチャットの連絡スピードの恩恵にあずかった一人だが、一方で大変なこともある。スピーディーでどんどん仕事が進み、アポがいっぱいになり、今の日本ではなかなか味わえないワクワク感が味わえる半面、常に自分もそのハイスピードの流れに乗って、いつでもどこでも連絡しなければ、この社会から脱落してしまうからだ。それくらい、今の中国人の変化は激しい。

 翻って日本ではどうだろうか。スマホの普及も中国ほど進んでいないし、ビジネスでSNSを使う習慣も中年以上の世代には根づいていない。日本人のビジネススピードは中国よりもずっと遅い。今、中国人とビジネスをする場合、「走りながら考える」方式を念頭に置き、自分も同じスピードで走らないと、とてもついていけない。私はそのことを改めて痛感した。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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