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老オタクの収集物を宝の山にする、まんだらけの「生前見積」

2016年08月19日 06時00分更新

文● 古田雄介(ダイヤモンド・オンライン

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マンガやゲーム、原画にフィギュア、ブリキの玩具など、多彩なコレクションの売買で全国展開するサブカルチャーの巨人・まんだらけの公式サイトには、「生前見積」というページがある。自らの死を見据えたマニアを対象にしたこのサービス、どれくらいの需要があるのか。同社の創業社長と副社長に話を聞いた。

人生をかけて集めたお宝が
死後にゴミ同然に扱われる恐怖

 興味のない側からみると、単なる古ぼけたオモチャだったり、よく知らない昔のマンガ雑誌だったりするものでも、その道に通じる人の間では数百万円で取引されるということがある。いわゆる「マニア」「オタク」と呼ばれる人たちにとって、それらは人生をかけて収集した、まさに「宝の山」だ。

まんだらけ中野店では、ビンテージマンガから鉄道模型まで、多彩な商品を取り扱う。シロウトからすれば単なるゴミでも、マニアたちから見れば、燦然と輝く「お宝」たちだ

 そうしたニッチな価値を持つサブカルチャー系の古書古物を扱っているのが、中野ブロードウェイに本拠地を置くまんだらけだ。

 1980年に創業した1軒の古書店は、87年の株式会社化と同時に全国展開を進め、2000年には東証マザーズ上場、15年には東証二部へ市場変更するなど大きく成長。売上高は年間90億円を超えている。

 そのまんだらけが16年3月、「生前見積」ページを開設した。「死期を悟り、生前のコレクションの行く末を考える」お客たちを対象としたサービス窓口で、査定は無料。1点でも、コレクション全体でも応じてくれる。持ち込みだけでなく出張査定も相談でき、送料は依頼者負担だが、郵送でのやりとりも可能だ。将来、必ず買い取りを依頼しなければならないといった決まりごともない。

 代表取締役の古川益蔵氏は、生前見積ページの開設について「死を意識するようになって、人生をかけて蒐集したお宝を価値の分かる誰かに引き継ぎたいという人や、ひとまず財産価値を確かめておきたいという思いがある人に『こういう窓口もありますよ』と提示したかったんですよ」と語る。

 前述のように、マニアのお宝は周囲の人々に価値を理解されないことが多い。「人生かけて集めたコレクションが、価値を知らないままでいる家族に捨てられてしまう。現在でもそういうケースがほとんど。肌感覚だと90%以上が該当するんじゃないかと思います」(古川氏)

 図書館に寄贈する場合も、ゴミ同然に扱われることが珍しくないという。そうしたなか、コレクションの価値を証明したうえで、買い取りまで相談できる窓口は貴重なのだ。

オタク第一世代はすでに60代に突入
高齢化するマニアたち

 生前見積もり自体は、以前から店頭や電話などで受け続けてきた。「創業当時に壮年期だったお客さんはもう60歳以上…80代の人も珍しくありませんから、自然とそういう相談を受けるようになりますよね。大病を患ってコレクションの行く末を案じるようになったという方が多いですが、『これまでの生活をすべて捨てて農業をやるから売り払いたい』といった、人生をリセットする目的を持つ方もいらっしゃいます」(古川氏)

 いわゆるオタク第一世代(昭和30年代生まれ、現在60歳前後)よりも前の世代――戦前戦後に生まれ、SF作品やカストリ雑誌などに親しみ、戦前マンガや当時の玩具を蒐集してきた世代の常連も多い。これまでは、生前見積もりといえばそうした“最古参クラス”からの相談が主流だった。

 しかし、窓口ページを設けてからは明らかに全体の年代が下がったという。

「やはりネットを見るのが前提になると、年代が下がりますからね」と語るのは、中野店店長で取締役副社長の辻中雄二郎氏。「50代の方からの相談は目に見えて多くなったと感じます。50代前半で病気を患うなどして、『どうしようか迷っていたんだけど、このページ見て相談してみようと思った』という方が複数いらして。アクションのきっかけにしてくれたというのは嬉しいですね」

まんだらけの古川益蔵社長(右)と、辻中雄二郎副社長(左)。高齢化するマニアたちのニーズに応えるため、生前見積もりや買い取りサービスを強化させていく考えだ

 窓口ページを設けて以来、見積もりのペースは月に2~3件、見積もりには至っていない相談や問い合わせはその数倍ある。見積もり後、買い取りに至るまでの期間はまちまちだが、ここ数ヵ月は見積もりと同程度のペースで対応しているそうだ。

 同店の規模からみると少ないようにも感じられるが、窓口ページを公開する前よりは確実に増えている。

「やはり、生きているうちから死を見据えて行動するというのは、簡単ではないですからね。自らの死を見据えつつ、見積もりを依頼する元気もないと難しい。死を覚悟して売るところまでいく人は本当に少ないです」(古川氏)

「それでも、窓口の存在を知ってもらうだけでも、死後のコレクションの扱いに困っている人の支えになると思うので続けていきたいですね」(辻中氏)

いきなり数百万円の価値があることが分かると
家族間で揉めごとが起きることも

 これから日本では、2040年頃まで年間死亡者数が増えていくと予想されている。14年で約127万人だったのが、40年頃には160万人超となる見通しだ。東京五輪の頃にはオタク第一世代も前期高齢者入りするし、一方でサブカルチャーのジャンルは多様化し、マニアの絶対数は増えている。人生の終わりに、自らのコレクションをどうするのか、頭を悩ませる人はおそらく確実に増えるだろう。

 『開運! なんでも鑑定団』が放送されるようになった1994年から、マニアと非マニアの境界はかなり薄まったというのは両氏の認めるところ。しかし、それでも死後のコレクションの扱いには、本人の希望と大きな隔たりがあるのが現状だ。「普通、家族はそんなに価値のあるものと思っていないから捨てちゃうわけです。逆に、数百万円の価値があると突然わかると、家族間で温度差が出て揉め事が起きたりもします」(辻中氏)。

 そうしたギャップを埋めるためにも、知る人ぞ知るお宝を持っているなら、もしものことを考えて生前見積もりを依頼するのがいいかもしれない。

 今後の課題として、古川氏は「見積もり金額が時の経過で変動するということが、もっと伝わるように工夫していきたいです」と話していた。「数ヵ月程度ならそんな大きくは変わりませんが、5~10年経ったら相場が変わっているものも多いですからね。見積もりから買い取りまでロングスパンで付き合える形にしていきたいと思います」(同)

 マニアにとっては、自らの分身と言っても過言ではないコレクションたち。今後、こうしたサービスの需要はますます高まるに違いない。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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