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最新ユーザー事例探求第47回

創業387年目の一の湯、Oracle Service Cloudで「安く/気軽に/便利に」のヒントを得る

箱根の老舗温泉旅館がクラウド型FAQ導入で「発見」したこと

2017年09月05日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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WebサイトのFAQ刷新で問い合わせ件数削減、顧客満足度向上と業務効率化

 Oracle Service Cloudの導入は、Webサイトのリニューアルがきっかけだった。新たな旅館「ススキの原 一の湯」のオープン(今年7月)に合わせ、昨年秋頃から新しいWebサイトの検討を行っていたが、そのタイミングでオラクルから「Webサイトの『よくある質問』を、AIを使って今までにないかたちで運用してみてはどうか」という提案を受けた。

 「正直なところ、初めは聞き慣れないカタカナが飛び交っていると思ったのですが(笑)、わかりやすくかみ砕いて説明していただきました。社内に持ち帰って提案を検討し、最終的には『きっとこれを入れればお客様も便利になるだろう』と判断しました」(福岡氏)

 ただ、Oracle Service Cloudを導入した狙いは、顧客サービス改善のためだけではなかったという。実は、一の湯では「問い合せ対応業務の効率化」がひとつの業務課題となっていた。

 一の湯グループでは、各旅館/ホテルに対する予約を「総合予約センター」で一括して受け付けている。このコールセンターには電話やメールでの問い合わせもあるが、近年では英語による問い合わせメールが増え続けている。訪日旅行客にとっては勝手の分からない海外旅行ということもあり、問い合わせ内容は国内旅行客よりも細かいものが多い。「たとえば『歯ブラシは置いてますか』というレベルのものまであります」(福岡氏)。こうした問い合わせに対応するために、予約センターの従業員が残業することも増えていた。

 前述したとおり、一の湯では人時生産性の向上をビジネス目標としている。労働時間を削減しなければ、その向上は見込めない。WebサイトのFAQを充実させ、顧客自身がその場で自己解決できるようにすれば、顧客側のストレスも、従業員の労働時間も減らすことができるはずだ。そう考え、Oracle Service Cloudを採用したという。

これまで「自己満足」だったFAQを、顧客本位のサービス改善につなげる

 Oracle Service Cloudは、マルチチャネル対応のカスタマーサービス業務をサポートするSaaSスイートだ。顧客からの質問と適切な回答を蓄積する社内向けナレッジベースの「iKnow」、顧客向けにナレッジをFAQとしてWeb公開し顧客の自己解決につなげる「Webセルフサービス」、コンタクトセンターのエージェント「エージェントデスクトップ」などのアプリケーションを備える。

 このうちリニューアルした一の湯のWebサイトに組み込まれたのは、Webセルフサービスの「カスタマーポータル」機能だ。FAQが自然文で検索できるだけでなく、自己学習機能を備えており、頻繁に閲覧されるものや「お役立ち度」の高い質問/回答を動的に上位表示するようになっている。また、ある回答にひも付けて、関連性の高い質問/回答を自動でレコメンドする機能もある。

Oracle Service CloudのWebセルフサービスが組み込まれた、一の湯の「よくある質問(FAQ)」画面。日本語、英語でFAQを公開している

 さらにFAQを提供する一の湯側では、エージェントデスクトップを通じて、どんな検索キーワードが入力されたか、どの質問/回答が多く閲覧されているか、回答が役に立ったかどうかといった、顧客の反応や評価がわかる仕組みになっている。そして、これが顧客サービス改善のヒントになっていると、小川氏、福岡氏は口を揃える。

 実は、リニューアル前のWebサイトにもFAQのページは用意されていた。ただし、質問の内容はあくまでも一の湯の側で考えたものであり、本当に顧客の役に立っているのかどうかまでは把握できていなかった。「それまでは20項目程度しかなく、“自己満足”に近いものだったかもしれないです」と福岡氏は振り返る。

 そして実際、Oracle Service Cloudの導入後にFAQの検索キーワードを確認してみると、これまで気づかなかったさまざまな発見があったという。

 「たとえば、英語で『Parking』という検索が多いことに気づきました。われわれはそれまで、海外からのお客様は公共交通機関で来られるものと思い込んでいましたが、実は駐車場を探しているお客様も多いのだと気づき、回答を追加しました。日本語の『手すり』や『コンビニ』なども、(Oracle Service Cloudを)入れてみてわかった、見えないニーズですね」(福岡氏)

 ちなみに、英語で検索の多いキーワードは「Tatoo」だという。「検索される方の約2割。これほど多いとは思っていませんでした」(福岡氏)。たしかにタトゥーを入れている旅行者にとって、その温泉宿が受け入れてくれるのかどうかは重要な問題だろう。回答では、プライベート露天風呂付き客室や貸し切り風呂の利用を勧めるとともに、大浴場利用時の配慮を呼びかけている。

「Public Bath(大浴場)」で検索したところ、頻繁に検索される「Tatoo」に関する項目がトップに表示された。表示順位は動的に最適化される

 こうして顧客ニーズの高いFAQは随時追加を行い、現在までに日本語でおよそ300、英語で60の質問/回答を用意している。今年2月のFAQリニューアル後、メールによる問い合わせ件数は横ばいとなり、少なくとも増加の流れは食い止められた。FAQは今後もさらに追加していく方針だと、福岡氏は語った。

 一方で、FAQの検索キーワードデータは、小川氏が手がける商品開発の業務にも役立っているという。

 「週次で上がってくる検索キーワードのレポートが、オリジナル商品を開発したり、新しいアメニティを取り入れたりするきっかけにもなっています。たとえば『コーヒー』という検索キーワードがあったので、コーヒーが飲みたいというニーズがあると考え、オリジナルブランドのコーヒーの提供を始めました。アメニティに関しても、これまでは経費削減に重点を置いていましたが、お客様が本当に欲しているものをキーワードを通じて知ることができます」(小川氏)

* * *

 福岡氏は「FAQの回答を蓄積していくことで、未来に何か活用できるのではと、おぼろげながら思い始めています」と語った。まだ具体的なプランはないが、ゆくゆくは問い合わせ対応にチャットボットを組み込み、質問/回答や予約などの問い合わせに自動対応できる仕組みもできるのではないか、と期待しているという。

 また小川氏は、Oracle Service Cloudが「社内の情報共有の場としても有効だと感じている」と言う。宿泊客にどんなニーズがあるかというナレッジを、問い合わせ対応を行う部門だけでなく広く社内で共有することで、前述した新商品のように業務改善アイデアが生まれるはずだ。

 歴史ある老舗旅館と言えども、顧客ニーズを敏感に把握し、それに応え続ける姿勢がなければ生き残ってはいけない。そして、それは“WebサイトのFAQ”という小さな仕組みからでも実現していくことができる。そう強く感じさせる取材だった。

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