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「同じ釜の飯を食べる」と社員の絆が深まる? 古くて新しい福利厚生が若手社員にウケる理由

2014年09月18日 06時00分更新

文● 大来 俊(ダイヤモンド・オンライン

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「皆さん、今日の昼ごはんはカレーライスですよ」――。

 午後1時、京阪に拠点を持ち、Webサイト構築サービスを展開するTAM(社員数111人)の東京オフィスで、広報担当の坂田逸美さんがまるで寮母のように声をかけると、若手社員が続々と集まってきた。総勢18人。オープンスペースでは坂田さんが炊飯器から皿に白飯をよそい、特製のバターチキンカレーを手際よく盛り付ける。大きなテーブルに着席した社員たちはその熱々のカレーライスを美味しそうに頬張り始めた。

「同じ釜の飯を食べる」を実践するTAM。この日はカレーライスだった

 これはTAMが福利厚生の一環で導入している「米支給制度」の一場面。米支給制度とは、米炊き係を日替わりで決め、毎日昼食時に炊きたての白飯を社員に供給する同社独特の制度だ。通常は白飯だけが提供されるが、この日のように特別にカレーが用意されることもある。一同で食卓を囲む姿はまさに学生が合宿所で「同じ釜の飯を食べる」光景と瓜二つだ。

 ただ黙々と食べるのかと思えば、そうではない。たまたま隣に座った社員同士は仕事やプライベートのことを談笑する。今年1月に中途入社した菱本彩子さん(28)は「普段の仕事では接点のない社員とも話せる。仕事のやり方を教わったり、ヒントを得られたりもする」と満足げだ。

 中途入社して7ヵ月の竹前太朗さん(30)も「会議では話せない個人的な意見をリラックスして交換できる。それに同じ白飯やカレーを皆で一緒に食べていると不思議と連帯感を感じる。部活の合宿所で毎日同じ釜の飯を食べてチームが一丸となる感覚に近い」と話す。

隣同士なのにチャットでやり取り
会話の希薄な人間関係を変えたかった

 TAMが米支給制度を始めたのは2012年の夏。社員間のコミュニケーションが希薄になっていたことが理由の一つだっだ。加藤洋チームリーダーはこう話す。

「仕事の連絡や相談はほとんどメールやスカイプのチャットで済ませていた。隣同士なのにチャットでやり取りすることも日常。気がつけば一緒の空間で仕事をしているのに、面と向かってしゃべる機会が極端に少なくなっていた」

 同じ会社で働いているのに互いの仕事の内容を知らない。雑談も少なく、社員間に距離がある。ある日居酒屋で飲んでいた同社の社員3人が危機感を覚え、「日本人なら同じ釜の飯を食べれば何とかなるはず」と、勢いで社長に直談判し、京阪のオフィスで米支給制度をスタートさせた。

普段接点のない社員同士でも同じ釜の飯を食べると打ち解け、連帯感が生まれる

 普段は午前中にその日にご飯を食べたい人を募る。東京はメールで受け付け、大阪ではGoogleドキュメントのスプレッドシートに食べたい人がエントリー。当番制の米炊き係は参加人数を見て何合炊くかを決める。時間になるとオープンスペースに集まり、ご飯をよそって持参したおかずなどと一緒に食べるわけだ。

 大阪では月1回カレーを供給する日があり、その他にも不定期で炊き込みご飯を作るなど参加者を増やす工夫をしている。「カレーの日には30人くらい集まることもある。同じ食卓を囲むことで職種の垣根を越えて打ち解け、一体感も生まれる。その後の仕事もしやすくなる」とカレー作りが得意な坂田さんは言う。同じ釜の飯を食べる制度は、組織を円滑にするために有効と言えそうだ。

食事を共にすることの科学的根拠もちゃんとある
あなどれない脳内ホルモン“オキシトシン”の効果

 東京都町田市で米事業を展開する「いちかわライスビジネス」では、企業の福利厚生として、同じ釜の飯を食べ社員のコミュニケーション活性化を促進する新サービス「ONAKAMA(おなかま)――同じ釜の飯を食って仲間になろう。」の提供を開始した。

 同社が全国の契約農家から取り寄せた厳選米を、旨みや栄養価が豊富な「亜糊粉層」を残して精米したブレンド米「アクトライス」をオフィスに定期的に届ける。10月末までキャンペーンを実施中で、期間中に契約した会社の中から抽選で10社に炊飯器・しゃもじ・お椀セットを進呈するという(詳細はアクトライス公式サイトONAKAMAページへ)。

 同社の市川晴久専務は、「昔から、人間は同じ行動をしたり、同じものを食べることによって連帯感が生まれると言われている。オフィスの人間関係をより円滑にするために自分たちの米が役立てば」と話す。

 同じ町田市の美容院「エレメントブラン」は、アクトライスを購入して、従業員皆でご飯を炊き、昼食を食べる試みを行っている。「従業員は子どもがいたり、一人暮らしだったり生活スタイルはバラバラ。一緒に食事や飲みに行くことは難しい。コミュニケーションを深める方法を考えた時に、同じ釜の飯を食べることを思いついた」。オーナーの小川正孝さんは、こう話す。

美容室でも同じ釜の飯制度を実践し、コミュニケーションを深める一助に

 小川さんは学生時代に柔道部に所属し、合宿で同じ釜の飯を食べて部員同士が胸襟を開いていった経験を持つ。美容院でも同じ炊飯器の白飯を食べ、何気ない会話を交わすことで、従業員同士の連帯感が生まれているようだ。

 実は同じ釜の飯を食べると連帯感が生まれることには、科学的な根拠があることもわかってきた。キーワードは「オキシトシン」。脳内に分泌されるホルモンで、不安時に出るホルモン「コルチゾール」の発生を抑制し、信頼関係を強める効果があるという。最近の研究から、友人や同僚が一緒に食事をし、話すなどしてその場で良好な関係になっていくと、オキシトシンの分泌が増える傾向があることが判明したそうだ。

 同じ釜の飯を食べるという日本古来の習慣が、現代のオフィスや店舗で復活している現象は興味深い。デジタルコミュニケーションが進む中、その反動でリアルな接触を求める若者世代を中心に広まっていきそうな気配だ。

(大来俊/5時から作家塾(R)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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