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感動するお客続出!バリアフリーレストラン最前線

2016年07月07日 06時00分更新

文● 大来 俊(ダイヤモンド・オンライン

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本格中華シェフが「きざみ食」にも対応!
大人気のバリアフリーレストラン

 今年6月下旬に、神奈川県横浜市瀬谷区の住宅街にある中華料理店「風の音」を訪ねた。外観はどこの町にでもありそうな店だ。しかし、このレストランは他店にはない特徴を持つ。介護が必要な認知症や車いすの高齢者、障害者が利用可能な「バリアフリーレストラン」なのだ。

 店内に入って、最初に気づくのは通路幅や席の間が広いこと。玄関も含めて段差はなく、トイレも車いす利用者がそのまま使えるように、広めに設計されている。そして、最大のポイントが、全てのメニューを個々の嚥下などの問題に応じて、一口大、刻み、ミキサーなどの処理で料理の形状を変えたり、辛さや量を調節したりするなど、カスタマイズしてくれることだ。

辛さや量の調節はもちろん、きざみ食やミキサー食にも対応。しかもシェフは横浜中華街で働いた経験を持つ本格派だ。「ここまでしてくれる店はない」と感動するお客が続出している

 運営会社は横浜市とその周辺で認知症高齢者のグループホーム21棟、高齢者住宅4棟などを経営し、スタッフは要介護者の対応に慣れている。

 風の音の厨房を預かる中国人料理長も、要介護者への理解が深く、カスタマイズにも丁寧に対応する。味の方も折り紙付き。横浜中華街で働いた経験を持つ本格派だ。

 店のWebサイトでは、要介護者、車いす利用者に対応していることを積極的に発信し、集客を図っている。

 客層は、運営会社の施設に入る認知症高齢者や車いす利用者などのほか、他社の施設の要介護者が職員を伴って来店することも多い。一方、一般の要介護者が本人の誕生日会を催すため、家族に連れられて来る場合もある。親戚が集まって、10人、20人の大人数のなることも珍しくない。

「要介護者にとって外食は特別なこと。本人は楽しいからか、いつもより食が進む。どのお客様もここまでやってくれる店はないと喜ぶ」と、責任者の中谷国晴常務取締役は話す。

 知的障害者の施設がクリスマス会で使うこともあるそうだ。貸し切りの大部屋で、カラオケを楽しみながら、美味しい中華料理を頬張る。あまりにも楽しかったため、玄関先で「帰りたくない」と座り込む人もいる。知的障害者にとっても外食は特別だ。

 日本全国に、知的障害者は約74万人、身体障害者は約394万人いる(出所:平成27年版障害者白書)。また、要介護・要支援認定者数は毎年増加し、2016年4月末時点では約622万人(厚労省発表)で、今後も間違いなく増えていく。風の音を例に引くまでもなく、こうした人たちの中には、外食に行きたいと考える人は多いだろう。しかし、そうした切実なニーズに対し、対応できるレストランは非常に少ないのが現状だ。

バリアフリーレストランを検索できる
口コミアプリも登場

 もちろん、車いすでも利用しやすいように動線を確保するなど、バリアフリー化には困難が伴う。嚥下障害の利用者に対応する刻み食やミキサー食などは、手間暇もかかる。

 だが、注目すべき点は、対応しているレストランがほとんどなく、いわば「外食産業の空白地帯」として残されていることだ。要介護・要支援者に至っては、将来的に右肩上がりの市場拡大が約束されている。

 さらに、風の音の例でもあったように、要介護者や障害者は、車いすを押してくれる友人や知人、あるいは介護する家族を伴う場合が大半だろう。つまり、付添人も含めた“グループ消費”が見込める点も忘れてはならない。例えば、仮に要介護・要支援者が平均して付添人3人を伴うとした場合、潜在的な市場は認定者数の4倍の約2500万人になる。あくまで仮定の話だが、これは決して小さな数字ではないだろう。

 車いすを利用する高齢者や障害者、及びその家族・友人などが、飲食店のバリアフリー対応状況を知りたいと思った場合、従来は個別に電話などで問い合わせることが主な手段だった。だが、対応状況が一目でわかる便利なアプリも登場している。それが、ユニバーサルデザインのコンサルティング会社「ミライロ」が日本財団から委託を受け開発した、バリアフリー地図アプリ「Bmaps(ビーマップ)」だ。

バリアフリー対応度合いが詳しく分かるアプリ「Bmaps(ビーマップ)」。飽和状態にある外食産業だが、本格的なバリアフリー対応は店舗の差別化にもつながるはずだ

 スマートフォンにBmapsをインストールして起動し、利用者が地図の中から飲食店を選ぶと、入口の段差数、車いす対応トイレの有無、店内がフラットか、通路幅の広さが十分かなど、車いす利用者が気になる情報を知ることができる。

 さらに、店内の静かさや明るさ、補助犬に対応しているか、障害者や高齢者に適切なサービスが提供されているか、全体的なバリアフリー対応度の5段階評価など、合計21項目の情報が確認できる。

 ただし、情報の登録はアプリを使う一般ユーザーからの投稿によるため、飲食店によっては、まだ未登録だったり、店舗自体は登録されていても、詳細なバリアフリー対応度情報が載っていなかったりする場合もある。ユーザー同士の協力により、バリアフリー情報が今後、さらに共有されていくだろう。

子育て世代にも参考になる
バリアフリー情報

 筆者も試しに、中華料理店「風の音」のバリアフリー情報を投稿してみた。数十秒で簡単に投稿できるため、煩わしさは全く感じなかった。アプリには16年6月現在ですでに約1万8000件(飲食店以外の施設等も含む)の情報が登録され、今後も続々と増えていく見込みだ。

 アプリのバリアフリー情報は、車いす利用者や障害者だけに有益なわけではない。例えば、静かか、明るいか、障害者や高齢者に適切なサービスが提供されているかなどは、一般的な高齢者にとっても関心のある情報だろう。あるいは、入口の段差数や店内がフラットか、通路の幅は十分かなどは、ベビーカーを使う子育て世代も知りたい情報だ。国内の高齢者は約3200万人、ベビーカーの使用が想定される3歳未満の子どもは約310万人もいる。

「バリアフリー設備を整え、Bmapsでその情報が発信されることによって、障害者だけでなく、高齢者や子育て世代からも選ばれる可能性が高まる。まだバリアフリー化に本格的に取り組む飲食店は少なく、先行して着手することは、他店との差別化、ビジネスチャンスの拡大につながる」と、ミライロの垣内俊哉社長は話す。

「シニアマーケットを狙え」と声高に言われ続けている昨今だが、飲食店の現状を見ると、リタイヤした世代向けに昼食宴会を充実させるなどが関の山。その程度では、本格的な対応には全く不十分だ。バリアフリー化という新たな視点で取り組めば、隠れていた需要を掘り起こせる。バリアフリー化を義務的、社会貢献的発想ではなく、ビジネスで有利に立つ「武器」と捉えることによって、飽和状態の外食産業でも、活路は見えてくるのではないか。

(大来 俊/5時から作家塾(R)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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