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いま聴きたいオーディオ! 最新ポータブル&ハイエンド事情を知る 第10回

長期試用レビュー

夢から覚めるリアルさ、DITA Dreamのクリアすぎる音質にため息 (4/5)

2017年08月18日 18時45分更新

文● 小林 編集●ASCII

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とにかく情報量の多さと見通しいい空間に圧倒される

 音質については、冒頭でも述べたように音離れが非常によく、とにかくクリアーだ。打楽器やアコギの弦を弾く音がスパンと明快に立ち上がり、かつ残響は微小な音まで残し、空間にすっと広がりながら消えていく。

 リズム帯と混濁しがちな中低域の見通しもいい。金管楽器特有のブリブリと震える感じも緻密に再現するし、バスクラリネットのような低音の楽器の質感もリアルなニュアンスが乗る。

 高域はきらびやかで鋭く、トランジェントに優れる。よく抜けて、ボーカルの子音やハイハットの立ち上がりにもざわつきや乱れがない。バイオリンソロなどを聴くと、倍音がよく乗るためか、音色にきらめき感や鮮やかな色彩感がある。弓をこすりつける質感もリアルに描写する。

 低域は量感があるが広がらず適度にタイトで、芯が通ったサウンドに感じる一因になっている。音の立ち上がり、立ち下がりが正確で、全体的にクールで引き締まった表現だが、ハイエンド機らしく、解像感、音離れ、S/N感、各レンジごとの均一性などは極めて良好だ。

密度感のある音像と広がりに優れたリスニング志向のサウンド

 代理店アユートのサイトにある周波数特性のグラフを見ると、グラフは50Hz付近の重低音をピークに700~800Hz付近までなだらかに落ちていく。その後再び、ボーカルや楽器の抜けに影響する1000Hzから5000Hz付近まですっと持ち上がっていく。ダイナミック型のイヤフォンとしてはオーソドックスなV字型の特性だ。アコースティック系のソースに適したチューニングと言える。

 参考用にAK380+Dreamの組み合わせで、Shureのコンデンサー型イヤフォン「KSE1500」と聴き比べてみた。全域にわたってモニター的でフラットな印象を与えるKSE1500と比べると、かなり低域を強く出す印象。高域も少し華やかで、リスニング寄りのチューニングと言える。

 感度は低めで、AK380の場合、一般的なポップスやジャズで最適な音量は70/150程度(クラシックではもう少し上)。アンバランス駆動では少々硬めに思えるが、バランス駆動にすると軽々とユニットが動き出し、音にゆとりと自然な広がり感が加わる。

 ソース機の変更による音の変化には敏感だ。パワーのあるアンプと組み合わせたほうが、実力をより一層引き出せそうだが、iPhone 6s Plusとの組み合わせでも十分に音量は取れた。クオリティーの面でも水準の高さを感じたのでそれほど神経質にならずに使えると思う。

アコースティックソースを中心に幅広い対応力を持つ

 手持ちの音源では、ジャズやクラシック、ギターソロやバイオリン独奏などとの相性がよかった。しかし対応するソースの幅は広い。例えば電子楽器を組み合わせた、ジャミロクワイの「オートマトン」。複雑に音が絡まるプログレ曲であるYesの「Roundabout」。さらには高橋真梨子の「五番街のマリーへ」といったバラード調の歌謡曲など。様々な曲で絶妙なサウンドを聴かせてくれた。

 また、多くの人が気になるであろうボーカルに関しても男声・女声問わず好印象だ。

 まず定位がよく、音が中央にピッタリとフォーカスする点が〇。加えて、遠すぎず近すぎない適度な距離感がある。豊富な情報量と透明感のある寒色系のサウンドではあるが、質感はドライになりすぎず潤いがある。

 どのソースを聴いても、欠点らしい欠点がないが、AK380との組み合わせで、少しだけ気になったのは、J-POPなどを聴く際に、リズム帯がぐいぐいと前に出すぎるきらいがあること。後日SP1000と組み合わせたところ、だいぶ違う印象だったので、AK380の性格が関係しているかもしれない。例えば、最近のアニソンのようにトーンバランスにシビアな音源だと、かなり低域に寄ったバランスに聴こえ、多少聴き疲れする。

 もっともライブ会場のPAではこのぐらい強く低域が出ているし、音数が増えても中低域が混濁せず、リズム帯がきわめて明瞭に見通せる点などはさすがと感じたが……。

20万円クラスの機種としての価値はあるのか

 Dreamはイヤフォンの中でも超高級機種となる。同クラスの水準と比べてどうかも知りたくなった。そこで10万円程度~20万円前後の製品を中心に複数機種をピックアップして比較試聴してみた。

 このクラスになると、高解像度・ワイドレンジの再生は当たり前で、空間の広さやその先にある実在感でも、イヤフォンの枠を飛び出る機種が多いが、その中でもDreamの表現力はトップクラスだと思う。特に明瞭で、切れ味鋭い表現は持ち味で、ソースの情報をくまなく知りたいという人に勧められる。

 シングルダイナミックということもあり、音色は低域から高域まで均質感と一体感がある。クロスオーバーがない分、つながりの悪さや不自然な強調感、ジリジリとした小さなノイズを感じることもほぼない。ダイナミック型らしいエネルギッシュな表現はもちろんだが、必要な場所ではマルチBA機のような「繊細さ」や「滑らかな表情」も見せる。

 まず音調の面では、同じダイナミック型の「IE800」(8万円台半ば)と近い印象だった。発売から時間が経っているが、やはりベンチマークとなる機種だ。ただしDreamのサウンドは低音~高音までの表現が均質で、かつエッジの粗なども見えにくい。より洗練された印象を与える。

 ダイナミック型ではCampfire Audioの「VEGA」(17万円台半ば)も聴いたが、VEGAはハッキリと太い線、Dreamは細く緻密な線で輪郭をトレースしている印象がある。そのためより仔細にソースの情報が分かる。「XELENTO REMOTE」(13万円弱)との比較では、密閉感の違いもあって、締まった低域や凝縮された音の密度感が勝る印象だ。好みもあるだろうが、シングルダイナミック型としては最高峰クラスの実力と書いてよさそうだ。

 マルチBA機では、同価格帯で8ドライバーを内蔵したWestonの「WST-W80」(21万円台後半)の音がよかった。穏やかな音調でありつつも、全体のまとまりに優れ、解像感・クリアーさ・音場の広さなどがうまく調和している。このまとめ方には老舗らしい巧みさがあるが、情報量の多寡、そして空間の広さという点でDreamは引けをとらない。

 違いは低域の狙いで、W80は広がり重視の少しマイルドな雰囲気。W80の音調は優しさや聴き疲れしにくさがある。しかし曲によってはDreamのような明瞭さが欲しいと思える面もあった。

 いまだ入手困難な「ANDROMEDA」(15万円台半ば)は悩ましい存在だ。5ドライバーだが、音色の美しさ、ボーカルの聴きやすさでハッとさせられる。音が滑らかで優しく、サウンドステージもたっぷりと広い。ただ低域の量感がDreamよりは抑えめで、他の音に溶けてしまうケースも散見した。よく聴くとしっかり分離しているのだが、ビート感やメリハリ感のあるベースや打楽器の表現を求めるのであればDreamだろう。

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