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予測不可能な時代の組織論を2人のクラウドリーダーががっつり討論

セゾン情報小野CTO、クラスメソッド横田氏が語る「バイモーダル」の現実解

2017年08月23日 10時30分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

提供: セゾン情報システムズ

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自然状態でののしり合うモード1とモード2は共存できるのか?

大谷:小野さんのところは、ある意味古くからのシステムインテグレーターでモード1とモード2が混在している環境ですよね。

小野:今の話聞くと、モード1がダメで、モード2がいけてるような感じに見えますが、そんなこと全然ないんです。

たとえば、今日は半日かけてHULFTの説明してきましたが、HULFTがMFT(Managed File Transfer)の分野で世界第2位のシェアなのは、開発体制がモード1だからです。HULFTって信じられないくらいバグが少ない。1万本出荷して、バグに出会う人が10人いるか、いないか。とにかくバグを出さないことに重点を置いているんです。

大谷:なるほど。バグが少なくて、信頼性が高いが故に、グローバルでも高いシェアをとっているわけですね。

小野:2015年のre:InventでHULFTは賞をとったんです。グローバルでまだまだ認知度の低いHULFTがです。AWSは技術的にも速くて、キャッチアップするのが大変ですが、社内のデータ連携みたいな足回りの部分は絶対にこけてほしくない。だから枯れた技術のHULFTが評価されるし、ユーザー側にもクラウドをキャッチアップしたいというモード2的な考えだけでなく、絶対落ちてほしくないというモード1的な心理が働くんですよね。新しいことにチャレンジする人こそ、ここは絶対に押さえておきたい。クラウドの上でHULFTが使われるのは、こういう理由があるんです。

モード1が悪いわけではなく、安心感とか、方針が決まったときの馬力とか、モード1はすごい。日本の高度経済成長期は日本の会社がモード1だから実現できたと思います。あと、モード2でも議論ばかりしても、話が進まないこともあるじゃないですか。

大谷:一日中、ブレストみたいなベンチャーですね。

小野:アプレッソの最初の頃も、すごい人たちが1日中議論していたんです。一見すると、クリエイティブなんですけど、物事が進まないんです。でも、モード1は上の方針が決まったら、上意下達で一気に進みます。こういうところがモード1のすごいところです。

大谷:そんなモード1の人たちと、モード2との相性はどうなんでしょうか?

小野:モード1とモード2って、自然状態だとお互いをののしり合います(笑)。モード1の人たちから見ると、モード2の人はいつも遊んでいるとか、チャラチャラしているとか、仕事なのにTシャツ&短パンだとか、出社時間が自由だとか言い出します。

横田:だいぶ偏見です(笑)。

小野:モード2の人からモード1の人たちを見ると、あいつら自分で物事考えないとか、言われたことしかやらないとか、考え方が保守的だとか、恐竜の化石の中でもとりわけ動きが遅いとか。

大谷:化石はそもそも動かないので、意味がわからないです(笑)。

小野:こうやってののしり合うのですが、お互い長所はあるので、組み合わせるとすごく強い組織ができるというのが、バイモーダルの考え方です。

私がバイモーダルの話をするときによく例に出すのは自転車の前輪と後輪ですね。モード2はベンチャー的な動きなので自転車で言うと前輪。ベンチャーは事業自体を変えるピボットのような動きをしますが、こうした柔軟性がモード2の役割。でも、モード2だけだと一輪車なので、うまく動けなません。一方で、モード1の後輪は自分で方向転換できない代わりに馬力があります。方向性が定まったときに進むにはこの馬力が重要です。この両者がタッグを組むと、柔軟性と馬力があわさった強力な組織になります。

大谷:クラスメソッドの中ではあまりそういう対立はないと思うのですが、お客様とかだとそういう話ってありそうですかね。

横田:どっちがいい悪いじゃなくて、協力しないと物事が進まないのは確かです。たとえば、ある小売りのお客様が在庫情報をリアルタイムで見たいという案件。1000店舗から同時に参照・更新できる基幹データベースを、100万以上のユーザーに解放しようとしても、すぐ落ちます。アーキテクチャの観点からしてもダメなんです。

クラスメソッド代表取締役社長 横田聡氏

今後、手堅く正しい情報を持たなければならないデータベースと、正確さより即時性が優先されるキャッシュやキューイングといった具合に、バイモーダルを前提にしたシステムの設計やアーキテクチャができるはずです。そこらへんで両者が協力すると、もっといいシステムができるのではないかと思います。

ガチガチでなにもできないアカウントではクラウドの価値は出ない

大谷:続いて、クラウド時代の情シスという観点で話を進めたいのですが、横田さんから見た情シスとクラウドの関係ってどんな感じなんでしょうか?

横田:情シス主導でAWSの活用をしようとすると、まず最初にやるのがセキュリティ基準を決めること。ガチガチでなにもできないアカウントしか発行されないので、EC2が立てられるだけです。1社で1つのアカウントだけ作って、基幹系も、バックアップも、ホームページも異なるVPCで運用してしまう。でも、こうした保守的なガバナンスって3~5年でハードを置き換えるのと同じ前提なので、せっかくクラウド使っても安くならないし、アジリティもない。

クラウドの優れたところは、ゼロから作らず、100以上あるサービスをいかに組み合わせて、価値を出すかです。だから、本来は複数のアカウントを発行してほしい。基幹業務であればガチガチでもいいですが、IoTやビッグデータのためにはそうではないアカウントを作って、まとめて管理するのがベストプラクティスだと思います。

小野:今のような話ってモード1タイプだと思うんです。なにかあったときに誰が責任とるのか、事故が起こった場合にどうするかを性悪説で見ていく。これだとクラウド導入の意味が半減どころか、1/10くらいになってしまう。だから、クラウドを入れる際にはモード2的な文化や行動様式をセットで導入していかないと、うまくいかないです。

横田:うちの会社でも基幹システムを置き換える場合は、ルート権限を渡さず、リモートアクセスでLinuxのシェルにSSHで入らなくともメンテナンスできるようにします。モード1でも、こういたモダンな仕掛けを入れておくと、構成管理とかはだいぶ楽になる気がします。

小野:その意味ではモード1.2とか、1.5みたいなこともあるかもしれないです。ゴールキーパーとフォワードという二択ではなく、そこらへんのさじ加減を考えてモード2の様式を取り入れていかないと、クラウドの効果をきちんと得られないです。

大谷:東京リージョン開設からけっこう時間経ているけど、クラウドがいまいちブレイクし切れてないのも、そういった行動様式の取り入れ方がまだまだ浸透していないのかもしれません。

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