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海自の艦艇受注戦、連敗の三菱重工が不満爆発の理由

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海上自衛隊のイージス艦を独占的に造ってきた三菱重工業が、立て続けに艦艇の受注を逃した。客船事業で大赤字を計上したばかりの三菱重工にとっては、泣きっ面に蜂である。実は、この事態は三菱重工の危機であると同時に、日本の技術を結集させた艦艇建造の危機でもあるのだ。(「週刊ダイヤモンド」編集部 千本木啓文)

11月11日に長崎県の三菱重工業長崎造船所で行われた海上自衛隊の護衛艦「あさひ」の進水式。同社は新型イージス艦の受注に失敗するなど艦艇事業で苦戦している Photo:kyodonews/amanaimages

 防衛省・海上自衛隊向けの艦艇の受注競争に異変が起きている。

 現存する日本のイージス艦6隻のうち5隻を建造してきた三菱重工業が昨年、新型イージス艦の1番船(艦載武器システムを含めて約1700億円、船体は400億円)の受注に失敗。それに続き、今年の入札でも2番船(1番船とほぼ同額)を取り逃がしたのだ。

 いずれも受注したのはジャパンマリンユナイテッド(JMU)だ。2013年にJFEホールディングスやIHIなどが設立した同社は新型イージス艦2隻のほか、大型ヘリコプター搭載艦4隻(直近の2隻で合計2300億円)も連続建造しており、艦艇の受注争奪戦で圧勝している。

 その結果、三菱重工長崎造船所の艦艇専用工場は、来年秋に護衛艦1隻を進水させるとドックで造る艦艇がなくなってしまう。戦艦「武蔵」を建造した名門工場にあるまじき事態に陥っているのだ。

 艦艇事業の惨敗は、大型客船の建造失敗で累計2300億円超の特別損失を出している三菱重工にとって泣きっ面に蜂だ。

 水上艦と呼ばれる艦艇を造る日本の造船会社は三菱重工とJMU、三井造船の3社しかない。かつては旧防衛庁が3社の建造能力に応じて仕事を割り振っていた。

競争入札で疲弊
コスト算定に異議
強まる改善要求の声

 だが、1999年に競争入札が導入されてから従来の“秩序”が崩壊。低価格で応札したJMUが大型案件を立て続けに受注したことで、三菱重工が内に秘めてきた不満を爆発させている。

 不満は大きく二つある。

 一つは技術力への対価が不十分なことだ。イージス艦は、同型の船を複数造る。当然、各シリーズの1番船は重要で、艦艇メーカーが技術の粋を集めて設計する。

 既存のイージス艦には二つのシリーズがあり、いずれも1番船は三菱重工が設計した。つまり、同社の技術力が日本のイージス艦の礎を築いたといっていい。三菱重工関係者は、「JMUが手掛ける新型イージス艦の基本設計は、われわれの技術が土台になっている。貢献は小さくないはずなのだが」と悔しさをにじませる。

 もう一つの不満は、人件費やドックに掛かる固定費の算定方法だ。

 護衛艦の建造期間は4年ほどだが、船体を組み立てる建造部隊がドックで働くのは1年しかない。残りの期間、建造部隊は商船を造るなどして稼働率を高めてきた。しかし、このやり方も艦艇を定期的に受注できてこそ可能になる。受注に失敗し、艦艇と商船の受注・生産計画が狂えば稼働率が下がり、単価は上がる。

 さらに、防衛省の契約には、企業努力によって当初の予定より安く造れた場合、利益を国に返す条項がある。他方で設計の見直しなどでコストが超過した場合の企業負担は補填されないため、「新型の艦艇建造はうまみが少ない」(業界関係者)といわれてきた。

 三菱重工は、政府に請求できなかった経費を商船など他部門で吸収し帳尻を合わせてきた。

 だが、イージス艦の失注と客船事業の失敗、商船の発注激減という三重苦により、いよいよ余裕がなくなったため、艦艇建造への適正な対価を求める声を強めているのだ。

 これは、三菱重工に限らず艦艇メーカーに共通した悩みでもある。

 例えばJMUには武器を研究する専門家がいるが、研究の成果を生かす艦艇建造のチャンスは商船ほど多くないため、研究の費用対効果は小さくなる。しかし、「研究者が艦艇の仕事しかしていないことを政府に説明し、その人件費分を支払ってもらうのは難しい」(同社幹部)という。

 実は、艦艇建造の中でも潜水艦については企業の不満はほとんどない。というのも、ライバルである三菱重工と川崎重工業が毎年交互に受注するのが慣例なので仕事を平準化しやすい上、潜水艦専用の建造体制が確立しているからだ。

 造船業界関係者は「水上艦の建造も、潜水艦のように他部門に依存せずに独立して利益が見込めるようになるのが理想だ」と話す。

 イージス艦などの水上艦には、小回りの利く運動性能や、被弾しても戦闘を続けられる能力などが不可欠であり、商船とは別次元の技術が求められる。技術者の育成には時間もコストも必要になる。

 米国では商船の建造はほぼなくなったが、艦艇に特化した造船所は健在だ。韓国や中国が自国で艦艇を造るのも、防衛上のメリットが大きいからだ。

 三菱重工や三井造船が、他社に設計図を提供するエンジニアリング事業にシフトする中で艦艇の生産基盤を保つには、商船部門の余力に依存した防衛省の艦艇調達の在り方や、超過利益を返納するルールを見直す必要がありそうだ。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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