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住友商事社長に聞く「事業の質と量で上位3社に迫る」 中村邦晴(住友商事代表取締役社長執行役CEO)特別インタビュー

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米シェール開発の失敗などで2015年3月期に最終赤字へ転落した住友商事の業績が回復基調にある。資源価格上昇の追い風に加え、メディア・生活関連事業が好調なこともあり、今期は史上最高益の更新を狙う。社長任期ラスト1年を切った中村邦晴社長に、今後の見通しなどを聞いた。(「週刊ダイヤモンド」編集部 松本裕樹)

なかむら・くにはる/1950年大阪府生まれ。74年住友商事入社。2005年執行役員経営企画部長、09年取締役専務執行役員、12年4月に代表取締役副社長執行役員の後、同年6月に代表取締役社長に就任。 Photo by Kazutoshi Sumitomo

──昨年度の決算をどう総括していますか。

 昨年度は成長軌道への基盤固めができた年でした。

 資源のみならず、非資源分野でも船舶等でかなりの減損処理を進める一方、稼ぐ力の強化に尽力してきた結果、昨年度の当期利益は計画を約400億円上回る約1700億円となりました。

──今期は中期経営計画の最終年度となりますが、足元の状況はどうですか。

 感触は非常に良く、今後はさらに上昇するとみています。

 当社の過去最高益は2011年度の2507億円。今期の当期利益の計画は2300億円ですが、実は社内では過去最高益の更新を狙おうと言っている。足元の状況を見る限り、それは十分に可能でしょう。

 今期で最高益を更新することができれば、おそらく次期中計の初年度に3000億円は狙える。そして次期中計の最終年度までに3000億円台半ばを達成し、トップグループの背中が見えるところまで追い付きたいと考えています。

──成長が期待できる分野は。

 一つ目は社会インフラ関連です。電力、鉄道、通信インフラなどはまだまだ伸びしろがあると考えている。目先では、電力事業の発電所のEPC(設計・調達・建設を含む建設工事請負契約)案件で前期に計画予定だったものが、契約や入札の遅れから来期にずれ込んでいるものもあり、収益貢献が期待できる。

 二つ目はケーブルテレビ事業のジェイコム(J:COM、ジュピターテレコム)を柱としたメディア・生活関連事業です。すでに500万世帯以上にセットトップボックスが置かれており、このネットワークインフラはさまざまなビジネスを生み出す可能性を秘めています。

 例えば、小売りと一体となることで新たな展開が考えられる。高齢化が進み在宅医療・介護のニーズが高まる中、当社グループのサミットやトモズなどと融合して新しいビジネスモデルをつくりたい。

 すでに電力販売や関西ではガス販売も始めていますが、今後はコンビニエンスストアの収納代行のようなサービスもあり得る。また、1000万人以上と思われるジェイコムユーザーのクレジット情報というデータも大きな資産といえるでしょう。

 なお、ジェイコムのみならず、オートリースでの75万台超の利用情報など、当社にはさまざまな資産がある。AIなどのテクノロジーを活用し、新たなビジネスを創出していきたいと考えています。

 今年4月にシリコンバレー支店をつくり、現在、各分野の専門知識を持ち合わせた日本人5人がシリコンバレーに駐在しています。さらに今年末までに日本人約10人を駐在させ、日本にいては得られない情報をいち早く収集できる体制を強化する予定です。

 とはいえ、収益力の強化だけでは長期的な成長は難しい。そこで当社では今年4月に「地球環境との共生」「ガバナンスの充実」などの六つのマテリアリティ(重要課題)を公表しました。

 世界的な潮流として、おそらく近い将来、マテリアリティなどを設定することが取引の最低条件という時代が来る。特に資源開発事業やインフラ整備事業などは国づくりや町づくりに関わるだけに、しっかりした企業理念を持った会社に任せたいという事業の「質」へのニーズが高まると思います。

──設定したマテリアリティを具体的にどうやって社員に浸透させているのですか。

 一例を挙げれば、新たな投資を行う際の申請書の冒頭で、その投資案件が六つのマテリアリティのどれに合致しているか説明を求めるようにしました。もしもマテリアリティのいずれにも合致しなければ、次のデューデリジェンス(資産査定)の段階まで進むことはできません。

 従来の申請書では、案件概要から始まり、収支などの数値的な説明を書いていた。今はまず、マテリアリティを最優先とし、数値的な説明は最後に書くように変更しました。

資源ビジネスこそマテリアリティに合致する

3カ年の中期経営計画の最終年度となる今年度、中村邦晴社長は史上最高益の更新を目指す Photo by Kazutoshi Sumitomo

──既存事業もマテリアリティに合致しているかで見直す可能性もあるのですか。

 次の段階として当然そうなります。場合によっては事業の縮小や撤退もあり得るでしょう。

──資源ビジネスは市況によってはあぶく銭で大もうけしたり、大きな減損を迫られたりすることもあります。資源ビジネスも見直しの対象になりませんか。

 そうは思いません。むしろ資源ビジネスはマテリアリティに最も合致している事業の一つだと考えています。

 例えば当社が関わっているボリビアのサンクリストバル鉱山における資源開発では、住民の雇用、学校や病院などの設立のほか、資材や食べ物などはできるだけ地域で調達するなど、地域産業への貢献も重要な仕事です。その結果、サンクリストバルはボリビアでも有数の高い経済水準の地域になった。また、資源は数十年後には掘り尽くされるので、その後も地域が発展するために人材育成や植林などの生態系の維持も必要となります。こうした取り組みはまさしく当社のマテリアリティに合致したものです。

──事業の質と量の両面でトップグループを目指すためには、リスクを果敢に取りに行く姿勢が必要だと思います。御社は昔から「石橋をたたいても渡らない会社」といわれていますが、この社風が変わらない限り、トップグループ入りは難しいのではないですか。

 おっしゃる通り、当社の社風はもっと変えていかねばならないでしょう。(元社長の)岡素之さんがかつて「石橋をたたいてさっさと渡れ」と言いましたが、その通りです。橋はたたかねばならないが、安全確認したらすぐに渡る会社にしたいと考えています。

 もちろん、経営の基本となる事業精神を踏み外してはいけないが、社員たちがもっと外に出て多くの人たちと会うために、今年から「半分2倍」という取り組みを始めている。

 社内業務などで減らせるものは思い切って半分にし、新たな価値創造に注力して、成果を2倍にすることを目指します。具体的には社内の書類を半減し、社外の人たちと接する時間を2倍にする。すでに部門長の人事異動に伴う引き継ぎ書を廃止したり、社長への報告書も従来は十数枚ありましたが、1枚のみと決めました。

 この数年間、当社は資源事業の減損などから立ち直る過程だったため、基礎収益力が不十分で制約が多かった。しかし、今後はできることの範囲が広がるので、さまざまな案件が出てくると思います。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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