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がん治療での遺伝子検査を保険適用か、医療財政破綻の懸念も

2017年07月12日 06時00分更新

文● 週刊ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

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パネル検査で得られた遺伝子情報を国の機関に集積し、がん研究の推進を目指すという Photo by Seiko Nomura

 6月末、厚生労働省は、がんに関連する複数の遺伝子異常を一括で調べる「パネル検査」について、2018年度中に公的保険適用を目指す方針であることが分かった。

 なぜ、がんの治療で遺伝子情報を調べる必要があるのか。「分子標的薬」という薬を選ぶためだ。

 従来の抗がん剤が全てのがん細胞を満遍なく攻撃するのに対し、分子標的薬はミサイルのごとく特定の遺伝子異常を狙う。従来の抗がん剤より強力な効果を発揮するが、薬ごとにターゲットとなる遺伝子異常が異なるため、患者のがんにどのような遺伝子異常があるのかを検査し、適切な分子標的薬を選択する必要がある。

 現状で保険適用なのは、肺がんのEGFR遺伝子など、単一の遺伝子の異常のみを調べる検査。がん種によっては、遺伝子検査自体が保険適用外の場合もある。

 パネル検査は、100以上の遺伝子の異常を一括で調べることができる。現在は、患者が全額自己負担する自由診療で、費用は約60万~100万円と高額。実施する医療機関も少なく、全てのがん患者がその恩恵を受けることは困難だった。

医療財政の破綻を招く?

 患者にとって、一括検査の保険適用は一見、福音だ。パネル検査に携わるある医師は、「進行がんの患者には時間がない。一刻も早く自分に合う分子標的薬を知りたいはず」と、患者や家族の思いを代弁する。しかし、いいことばかりではない。一括検査をしても遺伝子異常を発見できないケースがあり、仮に遺伝子異常を発見できても、その先の治療薬に公的保険が適用されず、高額な治療費を自己負担する場合も多いのだ。

「その先の治療薬も保険適用すればよい」と思うかもしれないが、治療薬を保険適用するまでには、その有効性を調べるために膨大な時間と費用がかかる。画期的な薬として登場した「オプジーボ」は高額な上に保険適用になるがん種が広がり、医療費抑制のため緊急措置で薬価引き下げとなった。

 自由診療でも、すでにパネル検査を行う施設には全国から患者が殺到している。厚労省は、指定の中核拠点病院での実施に限るとしているが、保険で安価に受けられるとなれば、患者たちは必死でアクセスしようとするだろう。

 検査で合う薬が見つかれば、そうした薬をより早くより広く保険適用すべきという圧力が働こう。ある大学病院の医師は「この検査が保険適用されれば、医療財政は間違いなく破綻する」と懸念する。

 やみくもに薬を保険適用すれば、財政が崩壊する。新しい薬の価格をどんどん引き下げれば製薬業界は新薬開発に二の足を踏みかねない。一括検査の普及は福音だけではない問題が詰まった“パンドラの箱”なのである。

(「週刊ダイヤモンド」委嘱記者 野村聖子)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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