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後輩をイジメ倒すクラッシャー先輩を模範社員に豹変させた「逆転の人事」 

2017年07月11日 06時00分更新

文● 木村政美(ダイヤモンド・オンライン

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気に入らない社員がいるとその社員にからみ、仕事ぶりはもとよりその言動、服装や髪型、持っている小物までケチをつけてくる――そんなクラッシャー上司に悩まされていないだろうか?(写真はイメージです)

 基本的に能力があり仕事ができる一方で、部下が気に入らないとネチネチとイジメあげ、耐えられなくなった部下たちが続々と退職する状況を作り出してしまうクラッシャー上司。近年、私が受け持っているクライアントからクラッシャー上司に関する相談が増えている。そんなクラッシャー上司をどう扱えばいいのか――。今回、クラッシャー上司が改心した事例を取り上げたい。(社会保険労務士 木村政美)

甲社概要
 創立30年の食品加工会社。先代社長が裸一貫で立ち上げ、紆余曲折はあったものの現在従業員数は200名ほど、女性社員が全体の7割を占める。地元では有数の規模を持つ企業に成長を遂げた。取引先増加のため、さらに新規の製造部門立ち上げを計画中である。
登場人物
A子:50歳。入社時から総務部在籍。仕事をてきぱきとこなす快活な性格で、先代社長からは特段かわいがられていた。しかし、自分が嫌っている後輩に対しては徹底的にイジメるという一面を持つ
B社長:先代社長の息子。世代交代で半年前社長に就任した
C子:新入社員
D社労士:B社長の大学時代の先輩で社労士

後輩をネチネチとイジメあげ
耐えられなくなった社員が続々と退職!?

 A子は創立当時から在籍している社員の1人で、入社後から会社の総務を担当している。勤続期間が長いせいもあるが、社内の諸事情には精通しており、また仕事ぶりも優秀である。しかし、B社長にはA子について気になることがあった。それは自分が気に入らない後輩社員をネチネチとイジメあげ、耐えられなくなった社員が続々と退社してしまうことである。そのため陰では「クラッシャーA子」と呼ばれていた。

 B社長は社長に就任した時に、「A子の問題についてはどうにかしなければ……」と考えていた。先代社長がいくら目をかけていたにせよ、彼女が原因で複数の社員が退職しているという事実は無視できない。特にここ数年は人手不足で、求人を出しても応募者が集まりにくい状況である。総務部だけでも2名の欠員が出ており、部員の残業はいうまでもなく、繁忙期になると休日出勤もして急場をしのぐ有様であった。

 そんな折、新入社員として20代前半のC子が入社、総務部に配属された。教育担当の総務課長は丁寧に研修を行った。その指導ぶりとC子の仕事に対する熱心さもあり、C子は、3ヵ月後にはしっかりと業務をこなせるようになっていった。

「C子さん、すごいね。この調子でいけば、すぐにA子さんみたいな優秀な社員になれるよ」
「課長、ありがとうございます。これも課長のご指導のおかげです。これからも頑張ります」

 総務課長はC子に対して、励ますつもりで言葉をかけた。ところが、その会話を横で聞いていたA子は、心の中で激怒していた。

「何言ってんのよ。ふざけないで!私は30年間も頑張ってきたのよ。それをたかだか入社して3ヵ月のC子が優秀だって?すぐに私のようになれるって?こんなヒヨッコごときに何ができるの!絶対このままでは済まさない」

 それからのA子は、ことあるごとにC子にからみ、嫌味を言い始めた。C子の仕事ぶりはもとよりその言動、はたまた服装や髪型、持っている小物まで。ケチをつけ始めたらきりがない。周りの社員たちは「またA子のイジメが始まった」と感じていたが、誰もA子に注意する者はいなかった。それはA子が先代社長と苦労をともにした会社にとっての功労者であり、彼にとてもかわいがられているからである。A子はその立場を利用して、すっかり天狗になっていた。

先輩のイジメに耐えられなくなった
後輩がついに反旗を翻す!

 ある時、A子のイジメに耐えられなくなったC子は、ついに反旗を翻した。

「A子先輩、私のどこが気に入らないんですか?ハッキリ教えてください」
「どこが気に入らないって?その生意気さが気に入らないのよ!何?その態度は!」

 A子は大声で叫んでいた。他の社員からそれを聞きつけたB社長は、すぐにその現場に向かった。そして睨みつけあっているA子とC子の間に割って入り、「やめないか!」と叫びながら引き留めるのが精いっぱいだった。

 困ったB社長は、大学時代の先輩でもあるD社労士を訪ね、A子に関するこれまでのいきさつを話し、アドバイスを受けることにした。

「A子さんの件は本当に困っているんです。これまでもパワハラをやめるように口頭で何回も注意してきたけど改善されないし……」
「口頭だけの注意ではダメだよね。ちゃんと注意した内容は文章に残さないと。始末書を取るとかして」
「わかりました。早速実行します。しかし本当はA子さんには会社を退職してもらいたいくらいなんです」
「でも、仕事はできるんだよね?それに会社の功労者だし……」
「仕事ぶりは申し分ありません。だからある意味“人財”といえばそうですが……」

社労士の人事案に
社長はビックリ仰天!

 B社長は口を濁した。もしA子を退職させようものなら、先代社長からの風当たりが強くなってしまいかねない。社内では先代社長の威光がまだまだ強く、たまにぶらっとやってきては一言二言物申すことも珍しくないのだ。D社労士がB社長に提案した。

「そしたらいっそ、A子さんを管理職にしたらどうだ?」
「えっ???」

 B社長は驚いた。甲社は今まで女性を管理職に登用したことはない。古い体質の会社組織なのだ。D社労士のアドバイスは以下の通りである。

(1)口頭だけでの注意や事情徴収ではなく調書、始末書等を社内文書として残すこと
(2)特に就業規則の懲戒規程、パワハラ防止規程を確認、必要があれば変更等をすること
(3)社内でパワハラ防止対策を講じること
(4)女性を積極的に活用するような人事制度を推進すること

 その後、B社長は、今回のパワハラ騒動の調査に乗り出した。A子、C子だけではなく同じ部署の複数の社員から事情を聞き、調書をまとめた。A子には口頭及び文書で厳重に注意した。そして今後も継続するようであれば、会社側としてはパワハラによる懲戒解雇処分も辞さないとの考えを示した。

 また、今回の反省点から就業規則の懲戒規程及びパワハラ防止規程についても、より現実的な対応ができるように見直しを図ったことは言うまでもない。

 さらに、管理職と一般従業員対象に分けてそれぞれパワハラ対策研修を行い、「社内でのパワハラ、イジメは許さない」という会社方針を徹底させた。パワハラ対策に関しては開始したばかりなので、相談窓口の設置等、徐々に計画・実行していくつもりだ。と同時に、B社長は実績のある女性社員の管理職登用も視野に入れた人事改革に乗り出した。

 最初は先代社長をはじめ周りの社員たちは難色を示したが、
「これからは実力のある女性社員をどんどん活用していく時代なんだ。そうしないと将来会社は生き残れなくなる」と説得し、女性管理職の第1号としてA子を指名した。

クラッシャー行為を
やめたA子の理由

 B社長は、A子がその後態度を改善したのを確認すると、管理職セミナーに参加させた。終了後は研修レポートの提出だけではなく、セミナーで何を学んだかについて他の社員の前で発表してもらい、ゆくゆくはA子が管理職になることについての意識を他の社員たちと共有した。その後半年間、課長補佐として勤務した後、正式に総務課長に任命した。

 A子はこれまでの自分の業績を周りに認めてもらい、またそれなりの待遇も用意してほしかったのだ。しかし実際、女性社員はいつまでたっても平社員のままで給料も上がらない。自分より後に入社した男性社員が自分を飛び越して昇進するのが許せなかった。今回のC子の件について、C子が教育担当の総務課長に認められて自分の立場を脅かすのではないかとA子は考えたのであろう。

 総務課長になったA子は仕事に対する意欲も増し、部下の面倒もよく見る模範社員に変わった。この結果に、B社長は驚くと同時に、“人財”活用の難しさと大切さを大いに学んだのであった。

 A子の件をきっかけに、甲社ではその後、新たに女性10人を新規製造ラインの管理職にした。そして、「女性を積極的に活用する会社」として地元の業界紙に取り上げられ、会社のイメージアップに繋がっていったのである。

※社名や個人名は全て仮名です。本稿は、個人の見解であり、特定の企業や団体の見解ではありません。画像はイメージです。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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