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社史「クラシエ10年の歩み」には旧カネボウを愛した社員の汗と涙が詰まっている Photo by Masataka Tsuchimoto |
「朝刊を見てびっくりということが多かった。会社は大丈夫なのか。とても不安な毎日だった」(40代社員)
120年続いた旧カネボウから社名変更して7月で10周年のクラシエホールディングスが社史を発行した。その内容に「よくぞ書いた」と社内外が驚嘆、業界で話題になっている。冒頭のように、旧カネボウ破綻の経緯が社内視点から赤裸々に語られているのだ。
旧カネボウは2003年11月、中間期で629億円の債務超過に陥ったと発表。その後、産業再生機構に支援要請、粉飾決算公表、上場廃止、元取締役逮捕など、激動の4年を送った末に07年、クラシエとして再スタートした。
社史には当時の社員の思いが随所にコラムとしてちりばめられている。
50代社員は化粧品事業(現花王傘下のカネボウ化粧品)の分離で「(大黒柱を失い)このときのショックは計り知れない」と述懐。40代社員は毎回混乱した株主総会を振り返り、「何とか会社を守るという思いだけで仕事をこなしていた」と記す。
別の40代社員は、「社外で『カネボウ』と名乗りにくいこともあった。家族も嫌な思いをしているのかと考えると、つらかった」とつづっている。
クラシエとして再スタートして10年がたち、社員約2000人の約半数は社名変更後の入社で、旧カネボウ時代を知らない。「旧カネボウのDNAの『良い部分』を受け継いでほしい。関係者が残る今しか書けないことがある」という思いで、珍しい「10年史」は作られた。
石橋康哉・クラシエホールディングス社長は「10年で普通の会社になった。この間、悔しい、情けない思いを山ほどしてきた。地獄も見た」としみじみと話す。
別のクラシエ幹部は、不正会計などで混乱する東芝の現状と、大企業から転落した当時の旧カネボウが重なると言う。
「旧カネボウ以上の混乱で、特に財務担当者の健康面が心配だ。東芝社員、頑張れ──」と同幹部。“同志”のごとく、東芝社員の苦しみに思いを巡らせる。
“黒歴史”にしない意義
クラシエホールディングス、傘下のクラシエグループ各社(日用品、製薬、食品)、親会社のホーユーいずれも非上場のため財務の詳細は不明だ。少なくとも、クラシエグループの売上高、営業利益は近年おおむね順調に伸びてきてはいる。
とはいえ、16年12月期で売上高915億円、営業利益55億円と、旧カネボウ全盛期と比べると当然ではあるが地味なもの。当時に比べると、業界での存在感、消費者の認知度もまだまだ小さい。
旧カネボウの教訓を糧に収益力を高め、着実な成長を遂げてこそ、破綻を“黒歴史”として封じ込めずに正面から向き合った社史の意義は深まる。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 土本匡孝)
※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら
