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五輪後にホテル・旅館廃業ラッシュ懸念、星野リゾートが救う!?

2017年06月07日 06時00分更新

文● 週刊ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

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改正耐震改修促進法によって、ホテルや旅館の耐震問題が浮き彫りになっている。国は早期の事態改善をめざしているが、耐震診断の公表は自治体ごとにばらつきがある。ホテルや旅館も、耐震問題への対応という大義と、改修工事に伴う重い負担の板挟みにあって、身動きが取れない場合が多い。解決のためには、ホテルや旅館が抱える構造問題にまで踏み込む必要がありそうだ。(「週刊ダイヤモンド」編集部 森川幹人)

耐震問題だけでなく、高齢化による後継者問題や資金調達問題など、経営全般に課題を抱えているホテルや旅館が多い中、星野リゾートが提示する解決策に注目が集まっている。写真は同社が運営するリゾナーレ熱海(静岡)

「2020年の東京オリンピックが終われば、旅館の廃業が増えるだろう」

 とある旅行会社の営業マンは、出張先の有名温泉観光地で、旅館関係者のぼやきを聞かされた。

 ぼやきの背景にあるのは、2013年に国土交通省が提出した改正耐震改修促進法だ。同法は、東日本大震災を契機として、最大震度6強から7の地震を想定し策定されたもの。1981年以前の基準で建てられた大型施設(ホテルや旅館の場合、3階建て以上、延床面積5000m2以上)に関して、2015年末までに耐震診断と結果の公表が義務付けられたのだ。

 診断費用は施設の自己負担で、結果は立地する自治体に報告する。すると、最大震度6強から7の地震が起きた際、倒壊または崩壊する危険性が高い(ランク1)、危険性がある(ランク2)、危険性が低い(ランク3)の3区分で評価される。

補助金だけでは賄えない
ホテルや旅館への負担

 耐震問題では、ホテルや旅館に重い負担がかかる。まず、耐震診断だけでも1m2当たり約1000円かかる(延床面積が5000m2なら約500万円)。さらに、耐震性に問題があれば、改修工事に億単位の費用がかかり、工事中は営業も停止せざるをえない可能性が高い。

 現状、改修工事は強制ではないが、倒壊の危険性があると診断されたにもかかわらず、工事を行わなければ、営業への悪影響は避けられないだろう。

 国土交通省は、ホテルや旅館は公共性が高い建築物ということで、改修工事に対し補助金を出している。ホテルや旅館が所在する地方自治体が彼らに補助金を出すなら、国も改修工事費用の3分の1まで補助金を増やすなど、思い切った支援策を打ち出す。ただ、国や地方自治体の補助を受けても費用負担は大きく、ホテルや旅館にとって改修工事に踏み切るのは簡単ではない。

 もっとも、耐震診断と結果の公表は義務化されたものの、耐震診断に間違いが起きないようにという配慮もあり、公表の期限は設けられていない。そのため、「公表しないところがあるなら、うちもやらない」という自治体も存在し、耐震診断の公表は進みがバラバラだ。

 その意味では、全国で耐震性に問題を抱える旅館の改修工事が一斉に行われる事態にはならないだろうが、安全性に関わる問題ゆえ、国が耐震問題を重要課題と捉えているのは紛れもない事実。いずれ、国が耐震診断結果の公表期限を決めたり、耐震診断の対象を小規模な宿泊所まで広げるなど、手綱を締めるタイミングが来るのではないかという声も、ホテルや旅館の現場からは聞こえてくる。

 それこそが、冒頭でふれた旅館関係者の懸念である。つまり、2020年の東京オリンピックまでは訪日外国人観光客数も増え続けるので、ホテルや旅館の廃業を誘引する政策は行われにくいだろうが、そこを過ぎれば一気に……というわけだ。その読みが正しいかはわからないが、いずれ“その時”が来れば、改修工事を工面できず廃業を余儀なくされるホテルや旅館が増えることは想像に難くない。そして、宿泊所の不足が深刻化すれば、せっかくの観光ブームに水を差しかねない。

 一方で、なんとか改修工事の費用を工面できたホテルや旅館についても、それで安泰ではない。巨額の投資をして耐震問題を解決するだけで、客が増えるわけではないからだ。

 最近の宿泊客は、ホテルや旅館のハードウェアだけでなく、そこで享受できるサービスや、体験の内容を重視する。巨額の費用をかけて改修するならば、耐震補強だけでなく、ホテルや旅館のコンセプトまで変わったと伝わるようなものでなければ意味がない。

ホテル、旅館の連携を図る
業界の雄、星野リゾート

 この分野で近年、名を馳せているのが星野リゾートだ。同社は経営不振に陥ったリゾートや、ホテル、旅館の再生事業を買収し、徹底した現地調査に基づいたコンセプトづくりと、独自の運営ノウハウによって次々に再生させてきた。

 その星野リゾートが2016年に日本政策投資銀行と共に立ち上げたのが、経営難の旅館やホテルを支援する共同運営ファンド「星野リゾート旅館・ホテル運営サポート投資事業有限責任組合(ホテル旅館リニューアルファンド)」である。国土交通省は、耐震工事の際に設備を併せて改修する場合、補助制度を設けているが、金額は限定的なもの。その点、このファンドは、利用するホテルや旅館が耐震工事などに伴う費用支援を受けられるだけでなく、星野リゾートの経営ノウハウも学べるというのが最大の特徴だ。

 日本政策投資銀行の沖森孝賜参事役によれば、ファンドへ相談に来るホテルや旅館は、耐震問題だけでなく、高齢化による後継者問題や資金調達問題など、経営全般に課題を抱えている場合が多いという。彼らは、星野リゾートとタッグを組み、経営を抜本的に変えたいと考えているのだ。

 星野リゾートは、ファンドを利用するホテルや旅館に対して、同社の予約システムを開放することも検討中という。そうすれば、同社が各地で運営しているホテルや旅館との連携も図りやすくなる。将来的には、星野リゾートを中心とした、ホテルや旅館のゆるやかなネットワークを構築し、インフラを共有する構想もあるという。

「地方のホテルや旅館は、単独で経営していくことがますます困難になっている状況がある」と前出の沖森氏はいう。施設の老朽化にとどまらず、運営面、人材面、プロモーションなど、ソフト面で課題を抱えているホテルや旅館は多く、お互いに協力しないと、生き残ることが難しくなっている。

 果たして星野リゾートのファンドは、耐震改修問題だけでなく、深刻な構造問題を抱えるホテル・旅館だけの“救世主”になれるだろうか。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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