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受動喫煙だけでは生ぬるい!新たな懸念「三次喫煙」の深刻性

2017年05月31日 06時00分更新

文● 福原麻希(ダイヤモンド・オンライン

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5月31日は、WHO(世界保健機関)が制定した「世界禁煙デー」。世界では188ヵ国中49ヵ国で、すでに医療施設・学校・行政機関・飲食店・交通機関などの公衆の場に「屋内全面禁煙を義務化する法律」がある。日本は法規制による受動喫煙防止対策では、最低レベルの超後進国。最近は、喫煙によって衣服や髪の毛にたばこの煙が付着した際の有害物質の影響(三次喫煙)を懸念する報告もある。オリンピック開催国として、政府はどう決断するのか。(医療ジャーナリスト 福原麻希)

自民党案の
「店内分煙」が難しいワケ

 受動喫煙対策の強化を盛り込んだ「健康増進法改正案」をめぐって、自民党と厚生労働省の調整が難航している。争点は「飲食店での喫煙」。自民党は「一定面積以下の店で表示をすれば分煙可」、および「未成年の入店禁止」などの条件を求める。

 一方、塩崎恭久厚生労働大臣は飲食店の客だけでなく、従業員を受動喫煙から守るため「建物内(屋内)は原則禁煙」を譲らない。

 厚労省の調査によると、現在、国民の8割は非喫煙者(※1)という。同調査で過去1ヵ月間に受動喫煙を体験した非喫煙者の割合を質問したところ、飲食店で41.4%、遊技場で33.4%、職場で30.9%(複数回答可)だった(※1)

「受動喫煙」とは、「非喫煙者がたばこの煙(喫煙者が吐き出す煙+たばこから立ち上る煙)を感じたとき」(日本禁煙学会・作田学理事長)と定義されている。

 国際がん研究機関(IARC)の発表によると、たばこの煙には5300種類以上の化学物質が含まれ、そのうち200種類以上は有害物質、さらに70種類以上は発がん性物質という。

 特に、受動喫煙者はたばこの煙に対する感受性が強い。このため、「健康被害は1日5~10本の喫煙に匹敵します」と作田理事長は説明する。

 厚労省幹部は今回の法律改正について、喫煙の権利や営業の自由に配慮して、「たばこをやめてくれというのではなく、たばこの煙から国民を守るため」と言う。厚労省は現行でも、たばこを吸いたい人のための喫煙室の設置に関する支援策を用意している(※2)

 どうして、自民党案の店内分煙はダメなのだろうか?

 産業医科大学の大和浩教授(産業生態科学研究所)による「公共の場所の空気の質を測定する実験」では、分煙による禁煙室でも、かなりの濃度と頻度の有害物質にさらされていることを証明している(図1)。詳しく紹介しよう。

【図1】居酒屋での不完全な分煙は意味がない

※1 平成27年国民健康・栄養調査
※2 喫煙室設置費用の一部助成

大気汚染より
深刻な飲食店の喫煙室

 大和教授は、1996年から受動喫煙に関する、さまざまな実験研究を繰り返してきた。主に喫煙室や禁煙室を取り巻く空気中の有害物質の濃度を測定している。

 実験は、役所などの職場・新幹線・飲食店(喫茶店やファミリーレストラン、居酒屋など)・駅構内などで実施された。喫煙室に喫煙者が集中する時間帯に、室内だけでなく室外も含めて測定器を複数台設置して、20~45分程度の間(5~15秒ごとに)、大気中のPM2.5(粒子状物質)濃度を計測した

 複数回の実験の結果、「敷地内に2003年から厚労省が推奨する『一定の要件を満たす喫煙室(※3)』を設置しても、たばこの煙が喫煙室の外に漏れ出て基準値を超えるため、受動喫煙を防ぐことはできない」と明らかになった(図2参照)。

【図2】分煙しても煙は拡散してしまう

エアコンで拡販された煙は禁煙区域にも拡散 作成:産業医科大学・大和浩
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 実験やデータ解析によって、4点の理由がわかった。

 (1)ドアの開閉のたびに、たばこの煙が押し出される

 (2)喫煙室から出てくる喫煙者の体の後ろに空気の渦ができ、たばこの煙が巻き込まれる(厚労省の要件を満たす出入り口の風速より歩行速度のほうが速いため、このような現象が起こる。図3参照)
 (3)喫煙者の吐く白い息にたばこの煙が含まれる
 (4)喫煙者の服や髪の毛に付着したたばこの煙が含まれる

【図3】喫煙室から煙が持ち出されてしまう

作成:産業医科大学・大和浩

 「前述と同じ条件の部屋に3台の換気扇を設置したうえで、室内外のPM2.5を測定したこともありました。でも、やはり、廊下のPM2.5濃度は基準値を超えることがあり、有害物質を含んだ煙が漏れ出ていました」と大和教授は説明する。

 PM2.5とは、毛髪の直径より細くて小さい微小粒子で、自動車の排気ガスや工場の排煙、燃焼による排出ガス、黄砂などの砂塵、たばこの煙などに含まれる。微小粒子は肺の奥深くまで入り込みやすく、全身の炎症を引き起こすため、呼吸器や循環器疾患の原因になることがよく知られている。長い年月、受動喫煙にさらされ遺伝子に傷が付くと、がんなどの病気を発症する(図4参照)。

【図4】怖い受動喫煙

 大和教授は、さらに飲食店の協力を得て、ファミリーレストランや喫茶店、居酒屋でも店内の禁煙席と喫煙席、店長の胸元にも測定器を設置するなどして、大気中のPM2.5を測定する実験を繰り返した(図5参照)。

【図5】飲食店等では従業員の受動喫煙こそ深刻

作成:産業医科大学・大和浩 拡大画像表示

 例えば、自動ドアで喫煙室と禁煙室が区切られている喫茶店では、喫煙室で喫煙者が集中する時間帯にはPM2.5が1000μg/m3を超えていたことがわかった。

 2013年、北京から大気汚染が越境して大騒ぎになったときのPM2.5は700μg/m3。たばこの煙に含まれるPM2.5は、大気中のPM2.5と必ずしも同じ成分ではないが、「健康被害への影響はほぼ同じ」(作田理事長)という。

 日本国内では、環境省が環境基準としてPM2.5について、「1年間の平均値が15μg/m3以下」「1日の平均値は35μg/m3」と設定している。

 同じ喫茶店の禁煙席では、平均的には前述の環境基準の35μg/m3前後だったが、喫煙室に喫煙者が集中する時間帯には70μg/m3まで上昇したこともあった。都道府県などが外出を自粛するなどの注意喚起をするときの目安は1日の平均値が70μg/m3である。つまり、禁煙席に座っていても、何度も受動喫煙を経験しているうちに健康被害が起こる可能性が高まることが検証された。

 喫煙室によっては扉の開閉構造を工夫し、煙が漏れ出ないようにしていたり、より性能のいい空気洗浄機が開発されたりもしている。だが、ランニングコストなども含めて高額な費用がかかることを勘案すると、費用対効果はあまり期待できない。

※3 厚生労働省「職場における喫煙対策のためのガイドライン」

服に付着した煙にも
発がん物資等が検出される

 喫煙後の室内の内装や家具、喫煙者の髪の毛や衣服に付着したたばこの煙のことを「三次喫煙」という。三次喫煙については、東京都健康安全研究センターの実験研究でも確認されている。この実験では、「喫煙によって衣服や髪の毛にたばこの煙が付くと、どんな有害物質がどのように放散されるのか」を調べた。

 密閉タイプの箱に、衣服に見立てた11種類の布(ワイシャツ素材・セーター・スエット・タオル・デニム・ボア・フェイクファー・麻・ポリエステル・シルク・フラネル)を入れたあと、たばこ2本分の副流煙を20分間、吸着させた。その後、布をビニル袋に移し、きれいな空気を入れたあと、30分間、空気中に放散された化学物質を測定した。

 実験の結果、11種類すべての布からニコチンのほか、発がん物資(ホルムアルデヒド、1,3-ブタジエンおよびベンゼン)、特定悪臭物質(※4)(アセトアルデヒド、トルエン等)、不快臭物質(ピリジン等)が検出された。布がフェイクファー、ボアやスエットなどのように厚みがあるほど、検出された物質の濃度が高くなり、一方、シルクのような薄い布は低値だった。

 東京都健康安全研究センター(薬事環境科学部)の大貫文研究員は「日常生活では、喫煙直後は実験で検出されたような化学物質が放散されているので、5分ぐらい経ってから戻ってくるといいですね。喫煙後の手洗いや歯磨き、口ゆすぎはおすすめです」とアドバイスする。

 受動喫煙対策案には「分煙か禁煙かを選択できる」もある。だが、その政策は、すでにスペインで失敗に終わった。スペインでは2006年、100m2以下の飲食店は「喫煙室を設置するか」「原則、禁煙か」を選択できる法律を施行したが、不公平になっただけでなく、客にとってもわかりにくく、まったくうまくいかなかった。店内で働く従業員の健康被害も問題になった。そこで5年後、「飲食店では原則、禁煙」に切り替え、いまでも続いている。

 WHOはたばこをアヘンや麻薬と同じように「脳に作用して行動や精神の障害を引き起こす薬物」と定義する。たばこを吸わないときのストレスは、たばこを吸うことによる「ニコチン依存」によって形成されている。ニコチン依存とは、脳の中枢にニコチンが作用していないと脳細胞が機能しなくなる状態で、眠気や気分の落ち込みも引き起こす。

「たばこを吸うことで思考力がアップする」と言う人もいるが、それはニコチンが作用していないと、正常な思考や気分の調整ができなくなっているに過ぎない。

「たばこは治療が必要な病気」と強く意識するとともに、「吸いたくなっても、その衝動は3分でおさまり、それ以上は続かない」というデータも知っておくと気持ちがラクになるだろう。

※4 環境省 悪臭防止法


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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