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「笑える」「攻めてる」宣伝らしくない企業の動画が評判に 「ブランデッドムービー」の可能性と未来(前編)

2017年05月30日 06時00分更新

文● 堀 香織(ダイヤモンド・オンライン

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マーケティングを目的としながら、商品名やサービス内容をあえて伏せ、物語や演出を練った娯楽性の高い動画を制作する企業が増えている。インターネットで視聴するため、作品が魅力的であればSNSでたちまち拡散される。ブランドイメージ向上のみならず、集客で大きな成果を得ている企業もあるという。「ブランデッドムービー」と呼ばれるこうした動画マーケティングの成り立ちと現状、可能性について、2回に渡ってレポートする。(文/堀 香織)

 2016年7月に公開された静岡県のローカルメディア「静岡新聞」と「SBS(静岡放送)」による120秒のブランデッドムービー「超ドS『静岡兄弟』篇」が、「笑える」「最高に攻めてる」とSNSで話題をさらった。海辺で若い女性をナンパする75歳、65歳のふたりのお年寄りがまったく相手にされず、「今までの自分を超えろ!!」とばかりにジムで体を鍛え、若者に変身して再登場するというコメディだ。監督はSoftBankのCM「白戸家」シリーズなどを手掛ける山内ケンジ氏で、ふたりのお年寄りはそれぞれ、静岡新聞創刊75周年・SBS開局65周年を表現している。

 YouTubeでの再生回数は現在約15万回。公開直後は日本の各種メディアのみならず、イギリスBBCからも取材があり、「日本のマスコミがこれまでを超えようと頑張っている」と取り上げられた。その後、フランスの広告賞も受賞したという。

 静岡新聞SBS社長室経営戦略推進部副部長・奈良岡将英氏は、「面白いものをつくって世間の話題になれば、静岡県のみならず世界へと広くブランド力を認知・強化できると実感しました」と語る。「同時に、静岡県民の皆さんが地元静岡を誇りに思うことにもつながっていると感じます。外から『静岡って面白いね』と褒められるのは嬉しいですから」。

 イメージを一新することだけが目的ではない。「マスコミはネット上では“マスゴミ”と揶揄され、過去の栄光にしがみついているように言われがちです。我々も人に例えたら75歳・65歳なので、『過去の栄光を語りたくなるときくらいあるよ』というのをユーモラスに伝えようとした。ただ当社としては、おじいちゃんだからといってこのまま終わる気は毛頭ないわけです。そのためには、ちょっと、いや相当がんばればまだまだいけるぞと、社内を鼓舞する意味合いもありました」。

◆静岡新聞SBS「超ドS『静岡兄弟』篇」

宣伝色を排して共感を呼び込む

「商品を説明する以前に、家族の大切さに気がついてほしい、という我々の想いを表現した動画をつくりたかったんです。でも社内からは、『ロゴを入れるべきだ』とか『コールナンバーははずせないだろう』という声があって(笑)」(アクサ生命保険執行役員 マーケティング開発&インフォースマネジメント本部長の毛利桂子氏)

 そんな声におもねることなく、当初の方向性を死守して制作されたアクサ生命保険「親子の時計」は、「親と子に残された時間」を明確に表現した上質なドラマだ。東京に上京、家庭を築き、日々の仕事に邁進するひとりの男性が、遠方に住む両親との連絡をついつい後回しに。画面には、親からの電話に出て話す時間、親が自分を訪ねて喫茶店で話す時間が刻々と表示され、そのトータルは3カ月でなんと約3分。このペースのままなら20年間でたった3時間しか親子の会話ができないという驚愕の未来が示唆されている。

 本作品も、2016年6月にYouTubeで公開後、視聴回数が2週間で約500万回を数えた。3分間の動画だが、最後まで見た完全視聴率が約33%と、金融業界の平均約6%を大きく上回る。しかも、見終わった視聴者が続いて企業HPにアクセスした数はなんと約5万件。毛利氏によれば、「ひとつのメディアからHPへ5万ものアクセスが導かれたのは、非常に珍しい」ことらしい。FacebookやTwitterなどSNSでの「いいね」などのインタラクションも約1万6,000件にのぼった。

 アクサ生命保険が3分という長尺のブランデッドムービーを制作するのは今回が初めて。「残された時間」という表現が、親の「死」や「病」を想像させると、ネガティブな意見も社内から出たが、揺らがずに貫いた結果、前述したような大きな結果を生んだ。高い評価は、「第55回JAA広告賞 消費者が選んだ広告コンクール」のWeb広告部門で優秀賞、「第20回アジア太平洋広告祭(ADFEST 2017)」のFILM LOTUS部門でシルバー賞の受賞となって表れた。

 営業活動にも思わぬ効果が。顧客訪問の際にスマホやタブレットで動画を見てもらうと、好反応や共感を得られ、話も弾むというのだ。「マーケティングによる行動喚起としては、認知、興味喚起、購入意欲喚起、実際の購入というような経路があるわけですが、その先の“商品を周囲に薦める”ところまでリーチするためには、やはりエモーショナルな結びつきが大事。テレビCMで感情的なストーリーを描くには巨額の投資が必要ですので、コストの面でも非常に有効なメディアだと思います」。

◆アクサ生命保険「親子の時計」

世界に衝撃を与えた穴だらけのBMW

 アジア最大級の国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア2017」は、この機運を盛り上げるべく、国内外の優れたブランデッドムービーを上映・表彰する部門「Branded Shorts」を6月に開催する。

 映画祭チーフ・プロデューサーの諏訪慶氏によれば、「ブランデッドムービーという言葉が使われ始めたのは最近だが、その概念のようなものが世界で初めて認知されたのは、2001年の『BMW Films』ではないか」という。

 BMWは、ジョン・ウー、ガイ・リッチー、ウォン・カーウァイなど著名な映画監督9人に作品を依頼、マドンナ、ミッキー・ロークなどが出演する9本のショートフィルム「The Hire」を制作した。制作費とPRに使われた金額は20数億円と破格だ。しかし当然ながら出来栄えは映画並みに素晴らしく、2001年4月に公開されるや年末までの8カ月間で1,400万ページビューを達成、「21世紀の広告で最高のキャンペーン」とうたわれた。YouTubeが誕生する以前の話といえば、どれほどの偉業か伝わるのではないだろうか。

「BMW Filmsがいまもってすごいのは、BMWの高級セダンが穴だらけになってカーチェイスしたり、主演のマドンナがオシッコを漏らしたりと(苦笑)、とんでもない内容だったことです。商品をいかにきれいに撮るかなんて考えはさらさらない。そんな衝撃的な映像を無料で公開したので、全世界から個人情報が集まり、ダイレクトマーケティングに成功して、瞬く間にリクープしていったんですよね。2016年には、映画『第9地区』のニール・プロムガンプが監督した新作『The Escape』を公開しています」

 日本では、2003年にウェブで公開された岩井俊二監督の「花とアリス」がブランデッドムービーの走りだという。これはキットカットの日本発売30周年を記念して、ネスレ日本が運営するウェブサイト「ブレイクタウン」で配信され、翌年に長編映画として公開された。その後もネスレ日本は継続してブランデッドムービーを制作し、日本の動画マーケティングを牽引している。

「ンダモシタン」で認知度をアップした自治体

 諏訪氏によれば、ブランデッドムービーには大きくいって2種類のスタイルがあるという。ひとつは商品やサービスをまず認知させるというもの。いわゆるバズ動画的なスタイルだ。たとえば、方言がフランス語に似ていることをユーモラスに描いた宮崎県小林市の移住促進PRムービー「ンダモシタン小林」が当てはまるだろう。小林市はこの動画によって認知度を大きく向上させた。

米国アカデミー賞公認国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア2017」が6月1日から、表参道ヒルズほか数カ所の会場で開催される。映画祭では「BRANDED SHORTS」部門として、6月5日~9日の間、ブランデッドムービーを上映し、優秀作品を表彰する。詳細は、HPhttp://www.shortshorts.org/2017/)を参照。写真は昨年の授賞式

 もうひとつは、企業の世界観を描いた作品を量産することで、ブランドや商品のファンをつくっていくストック型。毎クリスマスシーズンに傑作を制作するイギリスの百貨店John Lewisが挙げられる。これを目にした消費者は「クリスマスギフト、ジョン・ルイスで買わなきゃ」と思う。

 世界中のブランデッドムービーをたくさん目にしてきた諏訪氏にとって、日本の目下の課題は、圧倒的に家族や友情をベースにした「感動モノ」が多く、他ジャンルが少ないということだ。海外のブランデッドムービーにはゲラゲラ笑えるコメディや、奇をてらったホラー、サスペンスもある。「感動モノは、つくりやすいし、クレームも少ないので、そこに走りがちになってしまうのですが、安全領域のなかだけでつくり続けるのはもったいない。日本の企業もさまざまなジャンルに挑戦してほしいですね」。

 テレビCMのような15秒~1分という尺にこだわらなくていい一方で、企業や自治体などの想いや意志と、消費者の感じる価値を、ストーリーテリングによってエモーショナルな映像表現に落としこむブランデッドムービー。日本のブランデッドムービーはこれからどのように進展していくのか。次回は「Branded Shorts」の作品表彰を通じて、その現状と未来を考察する。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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