このページの本文へ

前へ 1 2 次へ

「FUKUOKA growth next」オープニング記念のセッションがやたら熱い

オルターブース小島、ペパボ松本、さくら田中の3人が語るエンジニアの生き様

2017年05月24日 07時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

今さらながら語り合うコミュニティの重要性

 さて、パネルの後半は「コミュニティ」に話が移る。当たり前な人にとっては愚問ながら、まずは「コミュニティは必要か?」というテーマが参加者に振られる。

 小島さんにとって、コミュニティは絶対必要なもの。「コミュニティが僕を育ててくれたと言っても過言ではない。今回のイベントに行き着いたのもコミュニティという基盤があったからこそ」と断言する。

「コミュニティに育てられた」という小島さん(左)の話を聞く池澤さん(右)

 実際、東京から移住し、どうやって食べるか困っていた小島さんを最初に受け入れてくれたのが福岡のITコミュニティだった。「僕も、今回登壇している松本さんも、田中さんも、そもそも福岡出身じゃないですよね。でも、僕は福岡にいる。福岡は楽しいし、安心するし、ずっといたいと思ったきっかけはコミュニティ。これからもコミュニティを大切にしていく」と熱く語る。そして、今は自身の経験についてもコミュニティで共有し、自分自身もMicrosoft Azureのコミュニティを運営。今は40~50人くらいのメンバーに膨らみ、コンスタントに集まるようになってきたという。

 松本さんもコミュニティの重要度については小島さんと同じ意見だ。会社で3年働いた後、3年間大学で研究生活を送り、その後GMOペパボに入社した経歴を持つ松本さんは、mrubyを契機にコミュニティに携わるようになる。「大学に入ったのと、mrubyが立ち上がるタイミングがちょうど同じだった。すごいOSSを書いている日本人が新しいソフトウェアを作り始めるタイミングはそうそうないので、このビッグウェイブに載らないとと思って参加した」(松本さん)。

 mruby界隈では、多くのエンジニアがまさに自分ごととしてパッチを当て、議論を進めており、そのコミュニティに松本さんも見よう見まねでついて行った。「最初はなにが書いてあるのかまったくわからなかったけど、いろいろ調べていくうちに理解できるようになり、書けなかったコードが書けるようになり、そのうちほかの人たちとパネルとかもできるようになった」(松本さん)とのことで、コミュニティに所属する前には考えられない成長が実現できたという。

 技術力を上げ、自らが成長するのは、コミュニティの成長が必要というのが、松本さんの論。「まわりのスキルが上がれば、自分のスキルも上がるので、僕自身もコミュニティをどのように成長させればいいのか、意識して取り組んでいる」と語る。

コミュニティになぜここまで入れ込むのか?

 さくらインターネットを設立する前に、ドキュメント翻訳を手がけたメンバーとともに日本Apacheユーザー会を立ち上げた経験を持つ田中さんも、もちろんコミュニティの信奉者。「先ほどエンジニアは人に会うのが重要という話をしましたが、コミュニティは本当に情熱のある人に会うことができます。そこで自分の成長が見いだせるのではないかと思います。当時、僕がホスティングという事業ができるかもしれないと考えたのは、日本Apacheユーザー会の仲間がいたからですね」と田中さんは振り返る。

 田中さんは数年前にJAWS-UGのイベントに登壇し、いかにAWSが素晴らしいか講釈をたれたあげく、「AWS最高!!!!」と乾杯の音頭をとった。「プログラマーとしてAWSを使っていて、機能じゃなく、体験がすごいと感じた。当時はクラウドどころか、さくらのVPSもなく、コミュニティの中でうちの会社やばいんじゃないかと考えた」(田中さん)。気持ちや情熱といった情緒的価値でつながっているコミュニティでのつきあいでは、直接的な利害関係よりも、「この人と仕事したい」という感覚が重要。「熱量の高まる場所で自身も成長できる。会社も、自分も成長できたと思う」と田中さんは語る。

 お三方の聞いた池澤さんは、「私なんか日々の生活でアップアップで、書けるコードも限られているのに、あそこにみなさんがかける情熱がすごいです」と、直接お金にならないOSSのコミュニティにコミットする意義を登壇者に問いかける。

 松本さんは「理由はない。ただ楽しかった」と語る。mrubyにおいても、ソースコードがまだ不十分な状態で公開されていたため、自分がまだ関与する余地が見えた。そこに加わって、コミットするのが単純に楽しいというのが動機。成長や仕事につながるのはあくまで副産物という考え方だ。

 田中さんも「貢献できる楽しさ」という意見に同調する。「まだプルリクを送ってない人がいたら、ぜひ送ってほしい。それがマージされたときの快感はすごい。身震いする。貢献できたことだけが価値」と語る。松本さんが語った「ビッグウェーブが来た」という感覚は重要で、マージされやすい初期の段階でコミュニティに参加するのが重要だという。松本さんも「自分もOSSでいくつか作っていますが、初期からプルリクしてくれる人は、わりとすぐマージしちゃいますね」と応じる。

3人が気になるエンジニアが気になる

 小島さんが気になるのは、外部の人ではなく、社内のエンジニア。「月並みな答えで悪いんですが、うちのエンジニアはいつも気になります。お仕事がんばってねという話ではなく、成長をいつも感じられるんですよ。それがすごくうれしくて、どんどん外に送り出していきたい」と小島さん。池澤さんが「えっ? 自分の会社から出て行っていいんですか? いま人材不足ですよ」と聞くと、「別にうちの会社じゃなくていいんですよ。エンジニアとしてはもっと高みを目指してほしいんで、そういう人をサポートしていきたい」とともあれ菩薩の心で返す。

 前述の通り、大学時代は特定のロールモデルがいなかった松本さんだが、今は元DeNA、現Fastlyの奥一穂氏と、Rubyのまつもとゆきひろさんの2人のロールモデルがいる。「最近は僕もC言語とか読めるし、プロダクトも書き始めているんですけど、彼らが書いたコードは同じC言語なのに意味がわからない箇所がある。そういう部分がある人は自動的にロールモデルになりますね」(松本さん)。社内にもめざましい成長を遂げるエンジニアが何人かおり、「彼らがもっと成長するとやばいので、いまのうちに仲良くしておいて、あとで『こいつは自分が育てた』くらい言おうかと思っている(笑)」という。

 経営者である田中さんは、松本さんが所属するGMOペパボやはてな、LINEなど同業他社に優れたエンジニアがいっぱいいるとうらやましそう。「天才的な気質を持っているエンジニアの一挙手一投足を見ていると、決して彼らにはなれないのだけど、自分ももう少し変われるかもしれないという刺激をもらえます」(田中さん)。池澤さんに「引き抜きたい人はいますか?」と振られた田中さんは、「経営者の目線で見れば、全員引き抜きたいけど、そういうのともちょっと違う。なにより業界全体がしぼんでしまう方が怖い」と語る。

若いエンジニアにもリスペクトの田中さん(左)と松本さん

 実際、4年で3倍くらいの増員になっているさくらインターネットにも、すごいエンジニアが増えている状況だ。「うちの江草とか本当にコード書くのが速くて、しかも夜中までやってる。自分がなくしてしまったものを持っている若いエンジニアをリスペクトすることが多い」と田中さんは語る。一方で、優れたエンジニアを抱えながら、田中さんも成長するために転職するのは「あり」だという。「小島さんと同じですが、自社で働ききれないのであれば、外に出てもらっていい。これって本当に思っていることです」(田中さん)。

エンジニアは死に際までなにをすべきなのか?

 最後は「エンジニアとしてのゴールはなにか?」というテーマ。なぜか池澤さんの頭では「ゴール」=「死」になり、死ぬまでになにをできるかという話にすげ変わる。

 小島さんはやっぱり「楽しくやること」で、松本さんは「死ぬまでエンジニアリングしていたい。サーバーが病室になくても、コミットはしていたい」とコメント。自身が作ったホスティングやクラウドの仕組みで自動的にビジネスが成り立ち、自身は田舎でワインを作るというのが「エンジニアのゴールっぽい」というのが松本さんの意見だ。

 エンジニアからスタートし、現在は経営者としてさくらインターネットを切り盛りする田中さんは、「エンジニアとしてだけ人生をまっとうしないでいいのでは?」と提案する。エンジニアの気持ちや文脈を理解できる存在として、若手やすごい人たちを支える行動や指針を見せていける好々爺として、歳を重ねていけば、大きな意義があると聴衆に語る。

 最後、お約束のQ&Aタイムでは、「みなさんはWebやインフラ系のプログラミングがメインだと思うが、ハードウェア開発の関心はどうか?」という質問を投げる。

 これに対して、小島さんは「ハードウェア自体のプログラミングは正直あまり興味はないけど、それを支える仕組みやサービス作りは興味がある」、松本さんは「もの自体は作ってないけど、それを支える言語とかに貢献したい。人工衛星で動くシステムに僕がコミットしたmrubyとかが載っていたらうれしい」と答える。

 高専時代のロボコン出身の田中さんは、今はWebプログラミングじゃなく、Arduinoとかハードウェアのプログラミングがメインだという。そしてsakura.ioのようなサービスを展開していることもあり、「日本は組み込みエンジニアが多いけど、現在はハードウェアの添え物のような仕事しかさせてもらえていない。この状況を変えていきたい」と語る。「組み込みエンジニアがコミュニティに参加してくると、すごいいいIoTデバイスを作りだすと思いますだから、旧来型のハードウェアエンジニアがコミュニティに出てきて、世の中を変える姿を見たい」という田中さんの言葉には会場もしびれたのではないだろうか。

前へ 1 2 次へ

カテゴリートップへ

灯油タンクで残量検知を実現!北海道の生活を守るIoTとは【熱量IoT】#3

動画一覧はこちら!