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三井物産が若手社員に「自腹で社内起業」させる理由 安永竜夫(三井物産社長)特別インタビュー

2017年04月11日 06時00分更新

文● 週刊ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

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昨年、資源の巨額減損で創業以来初の最終赤字に沈んだ三井物産。2年前に史上最年少の54歳で社長に就任し、4万人超の連結社員を率いる安永竜夫社長は「人の三井」を強化するための意識改革を断行し、反転攻勢を期す。(「週刊ダイヤモンド」編集部 重石岳史)

やすなが・たつお/1960年愛媛県生まれ。83年東京大学工学部卒業後、三井物産に入社。2010年経営企画部長、13年機械・輸送システム本部長、15年4月より現職。 Photo by Masato Kato

──三井物産の社長に就任して2年が過ぎました。この間、特に注力したことは何でしょう。

 この2年間で徹底したのは「商社マンたるものは外へ出ろ」ということ。私自身、年約120日間出張しています。客との関係を維持拡大することがやはり商社として大事だし、仕事の種を掘り起こせるようになります。

 もう一つは「結果にこだわれ」ということ。新しいビジネスをつくるだけでなく育てられたか。計画通りの結果を会社にもたらしたか。ここにこだわっています。

 就任1年目は大変な減損損失で史上初の赤字決算となりましたが、2年目は連結純利益で3000億円は達成できそうな見込みです。

 これは資源価格の回復も一因ですが、より大きいのは非資源ビジネスで結果を出せているから。過去に投資した事業会社の収益性を底上げし、新たな投資についても想定通りの結果に仕上がるかを徹底する。これにより今、非資源の力強さを感じています。

──なぜ今、社長が率先して現場に出る必要があるのでしょう。

 昔は大手町の本社にも「売った、買った」の現場があり、われわれの世代はそこで鍛えられました。しかし今はどの総合商社もビジネスの軸足が関係会社に移っています。もちろん本社の人間が出向し、そこで関係会社の人と一緒に企業価値を高めてきましたが、必ずしもそれが徹底できていなかったのではないか。経営の現場はまさに関係会社にあり、その会社の成長のためにすべきことを徹底したい。

 また率直な反省点として思うのは、2000年代に2件の不祥事(国後島事件とDPF事件)があり、ガバナンス強化を進めた結果、振り子が過度に振れてしまいました。これをある程度戻さないといけない。この10年間で攻めと守りのバランスはしっかり取れるようになったと認識しています。

 ビジネスの案件は営業だけでつくり込めるわけではありません。法律、財務、税務、会計、環境対策などの専門家と並走し、リスクを未然に防ぐ仕組みをつくっていく。そういうチームの組成を今行っており、そのために100人単位で人を動かしています。

──社長就任以降、モバイルワークや時差出勤制度などを導入しています。働き方改革の狙いは。

 社員が多様化している中で、今までと同じ働き方を求めるのには無理があります。仕事が時差のある世界中に散らばり、コミュニケーション手段がこれだけ発達した今だからこそ、働く時間や場所にこだわらず、働ける仕組みをつくれると考えています。ただしそのためには個々の人間がプロフェッショナルにならないといけない。

「人の三井」の話に関連しますが、われわれの得意分野の一つは、資源やインフラの開発など、投下資本が大きく複雑な仕事です。どうしてもチーム単位で動かざるを得ない。そうすると、大きな仕事をリーダーとして引っ張った社員と、その経験がない社員との差ができてしまう。それが人材育成の課題だと思っています。

 若手はどうしてもチームの中で裏方仕事が多くなる。もちろんある時期は必要な仕事ですが、それだけでは成長しない。若いうちにお客さんの前に出て恥をかき、時に失敗もする必要があります。そこで今、各本部長に失敗の許容範囲を考え、その範囲で若手を積極的に使うよう伝えています。

 それからもう一つ。新しい社内起業制度を検討しています。従来の起業制度では会社が資金を出していました。しかし新制度では、自分で資金を出し自分で社長をやる。リスクは取るが、うまくいけば社長にも株主にもなれる。入社して6年間の初期教育を終えた30歳前後の若手に試行錯誤させたい。

 今の若手は「40歳までに社長になりたい」という将来目標を、われわれの世代よりクリアに持っています。約400の関係会社がある中で、40歳までに社長になる若手がいたっていい。でも実際は、その時間軸で成長できずにスピンアウト(退社)する者もいる。それはある意味良いことで、それだけのエネルギーがある人間が「チャレンジしたい」と言うなら「行ってこい」と。外で修羅場をくぐった結果、三井物産に戻ることを望めば、一度退社してもオープンに受け入れろと今言っています。

──ビジネスの現況は。

「人の三井」の伝統を引き継ぐため、「強い個をいかに輩出するか常に意識している」 Photo by Masato Kato

 まず資源分野は、コスト競争力のある権益を求める姿勢に変わりありません。常に周期性のある市況を認識し、価格の下方耐性が強い案件に投資していく。一方、現在は設備投資や人件費などコストが割安となり、これまで採算が合わなかった案件をマネタイズできるチャンスだと認識しています。

 非資源分野は、例えば鉱山のコスト削減にICT(情報通信技術)が必要であるように、強みである資源分野からICT、機械、化学品といった非資源ビジネスが派生的に成長しています。機械インフラ分野では、20年に1000億円の純利益を目指しています。

 また5年前に出資したマレーシアの病院運営大手IHHは、昨年時点で企業価値が3倍になりました。アジアで高度な医療へのニーズは大きく、医療機器などサービスとの相乗効果も生み出しています。まだまだ企業価値を高められると思います。

──来月、社長として初の中期経営計画を発表します。

 一つのピースとして、「人の三井」を体現できる人間を将来にわたって育てていく仕組みをつくる必要があります。利益目標については、20年に非資源分野だけで2000億円は出せるようにしたい。その実力はあると確信しています。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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