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なぜ美術展は大行列かガラガラの両極端なのか

2017年03月27日 06時00分更新

文● 週刊ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

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『週刊ダイヤモンド』4月1日号の第一特集は「美術とおカネ アートの裏側全部見せます。」です。日本人は美術が大好き。広義のミュージアムには年間3億人近くが訪れ、美術展には平気で何時間も並びます。しかし、美の世界の裏側にはカネが行き来し、様々なプレーヤーが蠢いているのも事実。お金の流れから作家の生活、歴史から鑑賞術まで全てを網羅しました。

なぜ美術展は大行列かガラガラの両極端なのか?写真は東京・上野の国立西洋美術館

 2017年2月から、草間彌生氏の美術展「草間彌生 わが永遠の魂」が東京の国立新美術館で開催されている。過去の代表作に新作が加わり、270点が紹介される過去最大級のものだ。

 その内覧会のあいさつで草間氏は「わが最愛の作品群を私の命の尽きた後も人々が永遠に私の芸術を見ていただき、私の心を受け継いでいってほしい」と語った。

 その思いを実現するかのように、展覧会の裏側ではある一つのプロジェクトが着々と進んでいた。

 手元に1枚の登記簿がある。そこには17年1月に草間彌生記念芸術財団が設立されたと記載されている。設立の目的に「美術館の運営」ともある。実は、東京にある草間氏のアトリエの隣接地に、美術館がオープンする予定なのだ。

 なぜ、財団設立と美術館オープンを進めるのだろうか。当然、多くの人に作品を見てもらいたいという思いもあるだろう。しかし、作品をアート市場とマネーゲームの餌食にさせないという狙いもありそうだ。日本での財団設立による税制上のメリットは特集で詳しく述べるが、作家の死後に作品が市場に散逸することを防ぐことができる。世界的に名をはせた作家ですら、カネの悩みとは無縁でいられないのだ。

ガラガラの常設展に何時間も待つ大型展
作家は生活苦に悩む

 日本人の美を愛する気持ちは非常に強い。

 何しろ、東京でのアートのイベントを紹介するサイト「東京アートビート」には、1500カ所が紹介されている。米ニューヨークでの同種のサイトでは1200カ所というから、いかに東京に集積しているかが分かる。さらに、地方にも美術館がごまんとある。

 ところが今、美術界で断絶が起こっている。ある意味では二極化といってもいいかもしれない。

 例えば、大学で美術史を教えるある教授はこう漏らす。「この5~6年、学生が明らかに美術館に行かなくなってきている。授業で美術という言葉を使うと寝てしまうが、デジタルアートなどアートという言葉を使うと目を覚ます」。この教授が100人ほどの学生に近隣の某国立美術館に行ったことがあるかと尋ねたところ、手を挙げたのは数人だったという。

 美術館を見れば、入るのに数時間待ちという美術展は多い。ところが、近年目を引くのは、アニメのキャラクターを主役とするようなサブカルチャーの美術展だ。半面、有名な国立美術館が所蔵する作品を展示する常設展は休日で無料の日でもガラガラだ。

 背景には日本独自の美術展開催の構造がある。日本の美術館は美術展を新聞社やテレビ局などの大手メディアの資金に頼って開催してきたので、客を呼べる見込みがなければ、企画初期からメディア側のゴーサインが出ない。そもそも、大手メディアに立案から依存してきたために、学芸員の能力低下を招き、企画や運営の力が落ちている。こうした構造が、超満員とガラガラの両極端に分かれる構造を生んでいるわけだ。

 01年に、国立の美術館が独立行政法人化するなど、美術館に採算性を求める圧力は日増しに強まるばかり。都心の美術館には議論はあるものの人集めの手段があるが、バブル期に箱物ありきで建てられた地方の美術館にできることは少なく、閑古鳥が鳴く。

 一方、美の作り手に目を向ければ、日本では一部のスタープレーヤーを除き、作家の生活は苦しい。さらに言えば、作家や学芸員など美術に関わる人たちの社会的地位は海外とは対照的に低い。

 また、欧米では作家の絵を売る役目を担う画廊(ギャラリー)が、作家のエージェントとなり、世界進出のための戦略を立てることも珍しくないが、日本の画廊ではその機能がまだ弱い。親身になって作家を育てようとする画廊が多数だが、良からぬ画廊もあって作家とのトラブルの話も聞こえてくる。

 美術界で起こる断絶や問題の裏側にはカネが見え隠れする。その名の通り一見、“美”しい世界のように思える美術界では、一皮むけば札束が飛び交い、風変わりなプレーヤーがうごめいている。

 裏側を知れば、“表”ももっと楽しくなるだろう。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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