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マクドナルド「待ち時間ゼロ」が日本の流通・外食に激震

2017年03月09日 06時00分更新

文● 森山真二(ダイヤモンド・オンライン

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米マクドナルドはスマートフォンで注文と支払いを済ませ、店頭で商品を受け取る「モバイルオーダー&ペイ」を全米の店舗のみならず、日本を含む世界の店舗に導入する計画を発表した。スマホで注文しておけばレジに並ばず、待ち時間がほとんどなく商品が受け取れるという仕組みだ。日本にも導入される日は近いとみられるが、競合する外食店、コンビニは脅威に直面することになる。(流通ジャーナリスト 森山真二)

米国では常態化している
スマホでの注文・受け取り

 今や米国のファストフード業界、外食業界ではモバイルオーダー&ペイは常識化している。スターバックスが導入しているほか、一部のコンビニエンスストアでも導入されており、ファストフードをモバイルオーダーで注文できるようになっている。

 米マクドナルドが導入するモバイルオーダー&ペイは、ランチ時にスマホのマクドナルドのアプリから注文しておけば、店頭では待たずに商品を受け取ることができる仕組み。決済もクレジットカードか現金かを選べる。現金の場合はその場で支払いを済ませるだけだ。あとは商品の受け取りカウンターで注文した商品をもらうだけ。ランチ時の行列に並ばず済む。せっかちな人には、たまらなくうれしい仕組みである。

 それが日本にも導入されるという。「なんだ、スマホで注文ができるようになるだけじゃん」と言うなかれ。指定した注文時間に商品を製造しておくという仕組みはオペレーションの改革を伴うものであり、それほど簡単ではない。

 考えてみてほしい。なにしろマクドナルドは外食に販売革命というべき仕組みを日本に持ち込んだ先駆者。1971年に東京・銀座の三越1階に1号店を開設した際には、ハンバーガーを路上でほお張るという米国式のスタイルにスポットが当たったが、実はマクドナルドの斬新さはそればかりではなかった。

 注文を受けてから商品を渡すまで、数十秒~数分という時間短縮を一気に進めて外食産業に“販売革命”をもたらしたといっても過言ではないのだ。

 当時の日本のファストフードといえば立ち食いそばくらいで、手軽に素早く食事を済ませられる店舗、機能はあまりなかった。もちろん、和食系でいえば吉野家(現吉野家ホールディングス)はあったが、マクドナルドが上陸した年あたりはまだ黎明期で、チェーン展開に乗り出したばかりだった。

日本の外食に時短革命
ライフスタイルを変えたマック

 日本の外食に時短革命をもたらしたマクドナルドはライフスタイルを劇的に変えた。コンビニの出現とともに、消費者の生活様式を変えるのに「背中を押した」ともいえる。

 そのマクドナルドが今度も、やはり時間革命を起こすのである。注文を受けてから商品を渡すまでに数分かかっている現在の状況をスマホというツールを活用して事実上“待ち時間ゼロ”にするというのだ。ネット通販大手の無人レジ、アマゾン・ゴーに匹敵するほどの革命をもたらす可能性がある。

 今回のシステム導入には布石があった。マクドナルドは米国で店頭にキオスク端末を導入していた。キオスク端末は日本でもごく一部の店舗に導入しているが、大画面のメニューをタッチしながら注文ができる端末だ。

 米国ではコミュニケーションがうまくとれない消費者向けとも、人件費削減のための対策ともいわれ、対話式で画面をタッチして商品を選び、最終的に端末で決済を選ぶ仕組みになっている。

 マクドナルドは恐らくキヨスク端末でノウハウを蓄積してきたのだろう。この延長線上で大画面のキヨスク端末からスマホ用のアプリを開発して、店舗のオペレーションを改革すれば導入できる。

 米国ではいまやファストフード業界のみならず、コンビニのレジ周りにあるピザやサンドウィッチなど一部の商品で、オーダー&ペイの仕組みを導入し待ち時間なしの販売戦略をとっているチェーンも少なくないという。コンビニチェーン側としても顧客満足度の向上もあるが、ファストフードチェーンが次から次へと導入するため、競争上やむを得ず導入している格好だろう。

 実際、このオーダー&ペイの効果は小さくない。米スターバックスはオーダー&ペイの売上高比率が15年の導入以来、6%に達している。また一部の店舗でピーク時には売上高の20%を超える。水は低きに、便利なところへと流れるのだ。

無関心な人が多いが
インパクトは少なくない

 日本ではどういう反応だろうか。マクドナルドのオーダー&ペイについて流通関係者は「どれだけ消費者のためになるかわからない」と批判的な見方が大勢を占めるようだ。

 というのも、日本ではスマホを使えない、使わない消費者がたくさんいるし、(民間最終消費に占める)クレジットカードでの決済比率すら15~16%にとどまっているのが現状だからだ。外食業界では多少の反応はあるようだが、コンビニの幹部らはほとんど無関心な状態である。

 確かに、先述した通り、「マクドナルドでスマホによる注文ができるようになるだけ」の話に感じられなくもない。しかし、モバイルオーダー&ペイが導入された結果、もしかすると、ランチ時に並ぶのが面倒で、マクドナルドでランチを買うのを諦めていた人が、マックを食べる頻度が高まるかもしれない。

 また、小さな子どもを連れた主婦が「並ばずに買え、商品を受け取れるなら便利」とマクドナルドで買うかもしれない。潜在的な「販売機会の損失」が解消される意味は小さくないのだ。そうなれば、必然的に、コンビニや競合の外食店、食品スーパーなどから顧客を奪っていく可能性がある。

 もはや日本でも、コンビニはファストフードチェーンから顧客を奪わなければ成長できないし、ファストフードチェーンもコンビニから顧客を引き戻さなければ成長できない時代なのだ。「ミスド対コンビニ」の“ドーナツ戦争”は、その好例といえるだろう。

 店舗の価値は商品だけでもなく、サービスや、利便性だけでもない。店舗トータルで醸成されるものである。商品だけでも、サービスだけでも、利便性だけでもダメなのである。

 ただ、スターバックスの一部店舗ではモバイルオーダー&ペイの利用者があまりに増加しており、オペレーションノウハウの蓄積不足もあってか、逆に「受け取りに混雑を招いてしまった」という笑えない話もある。まだまだ改善の余地はありそうだ。

旧態依然としている
日本の流通業

 翻って日本の流通業は、顧客満足度向上の面では旧態依然としている。顧客が棚から商品を運び、レジで決済するという方式に変化がないのである。スターバックスやマクドナルドが考えているIT化による顧客満足度の向上策という試みは、その気配すら見えない。IT化もお印程度に取り組んでいるところがほとんどで、「本気でやる気があるのか」と思ってしまう。

 時期尚早と考えているのであろうか。それとも周囲の様子をうかがっているのだろうか。着実に「新しい波」は海外から押し寄せている。たとえ、失敗を繰り返すことになっても、「先行してものにしていく」ことを考えるべきなのではないだろうか。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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