このページの本文へ

スクープの裏側 読者が絶対に知らないリーク依存症という重病

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 特ダネは記者ではなく、企業の広報が作るもの──。大手総合商社の広報担当者はごく当たり前のことのように言い放った。

 中でも載せたいのが日本最大の経済ニュース媒体である日本経済新聞。

「書いてもらいたい案件をこちらからリーク(情報を漏らすこと)すれば、特ダネとして紙面で大きく扱ってもらえるし、うちだけじゃなく、多くの上場企業でやっている。海外案件ばかりで一般紙ではベタ記事になることの多い商社業界は、特にその傾向が強いけどね」

 担当者はそう言って、リークから紙面化までの具体的なスケジュールを説明し始めた。それを図解したのが下の図だ。こうしたリークの仕組みは完全にマニュアル化されているという。

 これまで日経のためのプレスリリースを幾度となく企画してきたという担当者は、こうした広報スタイルを「日経ファースト」と呼んでいる。

 特ダネといえば、記者たちが幹部宅への「夜討ち朝駆け」取材で積み重ねた情報を基に書かれると想像していた読者からすると、にわかには信じられないだろうが、一部であるとはいえ、会議室で生まれる特ダネがあるのだ。

 ただ、日経の記者が取材を怠っているかといえば正反対で、体育会系社風の下、記者たちは業界で最もハードワークが求められる。

 日銀クラブなど多忙な部署に配属されれば、「超絶激務で知られる外資系金融並みの睡眠時間が連日続く」(日経の経済部記者)。ライバルである毎日新聞の30代男性記者が「日経さんはうちの数倍は働いている」と語るほどで、そこから生まれる特ダネも数多くある。

 特ダネとは基本的にリークが基になっており、リーク自体を否定するわけではない。また、程度の差こそあれ、リークは他のメディアも受けている。

日経ファースト浸透
広報への依存度増し
批判ができない記者

 ではなぜ、日経ファーストという仕組みが定着したのだろうか。

 最大の要因は、本誌を含む他の経済メディアの体たらくだ。

 国内の経済メディアは一強皆弱ともいえるいびつな構図になっている。圧倒的なマンパワーで国内の経済ニュースを寡占している日経とその他大勢──。

 他の全国紙が30~40人体制で経済ニュースをカバーしているのに対し、日経は電機、自動車などの業界を担当する産業部だけで120人を擁し、その存在感は圧倒的だ。他のメディアでは太刀打ちできないほどの情報を日々、読者に届けているのだ。

 それ故、大手外資系企業の広報担当者が「日本の全産業、経営者をくまなく網羅する取材スタッフの知見、人脈はさすが」と評価するように、企業広報からの信頼も厚い。

 企業としては、最も影響力の大きい日経への掲載が最優先されるのは自然な流れだろう。

 それでは、日経だけ読んでいれば、経済ニュースは十分かといえば決してそうではない。情報が偏る恐れがあるのだ。

 というのも、企業の広報担当者の人事評価は、日経の紙面への掲載回数で決まる場合もあり、「できることなら日経の1面で取り上げられたい」(大手エネルギー広報)。そうなれば、社内での評価も高まるというわけだ。

 これが日経ファーストの2つ目の要因だ。少しでも大きく掲載してもらいたい。事前にリークすれば特ダネ扱いで大きくなる。それ故にリーク主義が蔓延するという流れだ。

 大手銀行の広報担当者は「事前レクチャーには“箔付け”で役員に同席してもらい、いかに重要な案件であるかを強調する」と内情を明かした。

 官僚はさらにしたたかだ。「記事にしてもらいたい資料があると、適当に『極秘』『部外秘』のはんこを押しておけば、日経に限らず、若い記者は喜んで特ダネとして書いてくれますね」と財務省の中堅官僚は語る。

 かつて日経に在籍し、オリンパスの不正追及で雑誌ジャーナリズム大賞を受賞したフリージャーナリストの山口義正氏は「広報と緊張感のある良好な関係を構築するには、絶対に守るべき一線がある」と戒める。

 しかし、現実は大きく異なるようだ。

 例えば、日経産業部の場合、日経本紙の他、日経産業新聞(SS)への出稿も求められる。「SSの各面のトップ記事は発表前の独自記事じゃないと駄目という縛りがあるため、どうしてもリークに依存してしまう。疑問がないわけじゃないが、仕方がない」と産業部記者は諦め顔だ。

 取材相手の懐深くまで食い込んで、書くべき情報があれば、批判であろうと遠慮せずに報じるのが記者本来の姿。とはいえ、記者側もリークに頼りだすと、批判すべき情報をつかんでも筆が鈍ってしまいがちだ。

 元日経編集委員で、産経新聞特別記者の田村秀男氏は経済メディアの現状について「権力、企業のチェックをするのが経済記者の原点だが、事件記者や政治記者と比べても一番できていない。権力、企業側の言うことを書く記者に成り下がっている」と警鐘を鳴らす。

「日経さんと組んで、1面を華々しく飾った案件のうち、結局は失敗したり、立ち消えになった案件が山ほどある」と商社の広報担当者は明かす。記事で問題点を指摘していれば、結果が違っていた可能性もあるはずだ。

特ダネは2倍で扱い
後追いなら黙殺も
広報に募る不満

 さらに体育会系の日経の企業風土がリーク主義に拍車をかける。

「他社の数倍の人数で取材する日経に負けは許されない。他紙と同着でも負けだ」(産業部記者)

 例えば、日経は三菱UFJフィナンシャル・グループ社長を三菱東京UFJ銀行の頭取が兼務するというニュースを、発表前日の2月27日付朝刊で報じたが、朝日新聞も同じ日の朝刊で書いている。この場合「いくら発表前に書いたとはいえ、評価はされない」(日経経済部記者)というのだ。

 特ダネへの過度の重圧は、弊害を生む。他社に抜かれた記事はわざと小さく扱って、暗にリークを迫る記者も中にはいるという。

 日経が特ダネと一斉発表で記事の扱いが大きく違うのは業界では知られた話。大手金融の広報も「日経はリークに価値を見いだしており、特ダネなら本来のニュース価値の2倍、一方で、後追いだとニュース価値の半分か、場合によっては黙殺される」と不満を漏らす。

 日経広報グループは本誌に対し、「事実ではなく、記事の扱いは個々のニュースバリューに応じて判断しています」と回答した。

 広報、日経、そして他メディアの利害が絡み合い、リークジャーナリズムともいえるシステムが定着したのが、今の経済ニュースの内情だ。日本の新聞社を「リーク依存症」と評したのは元日経編集委員の牧野洋氏。その副作用が企業主導の紙面構成となって表れる可能性があることを読者は知っておくべきだろう。


マスコミは真実を伝えていない?
「経済ニュースを疑え!」

 マスメディアは本当のことを伝えていない――。そんな批判が指摘され始めて久しいです。

 どうしてそうなってしまったのか。背景にはメディア自身の既得権益化や質の劣化、当局や企業との癒着などに対する疑念などがあると思います。

『週刊ダイヤモンド』5月25日号は創刊100周年記念号の第2弾となりますが、まずはわれわれのレーゾンデートルである経済ニュースを疑うことから始めました。

 読者がこれまで知る機会のなかった経済ニュースの裏側を明らかにしつつ、スクープの作られ方、誤報が続出するニュースの中身、そして、お金が絡み始めたニュースの流通という3段階で、問題点を掘り起こしています。

 メディアに最も嫌われた男といえる元ライブドア社長の堀江貴文氏と、生活の党代表の小沢一郎氏の2人にも、メディアの問題点や未来を語ってもらいました。

「経済誌が株特集を企画すると株価がピークを迎える」

 そう揶揄される本誌にも容赦なくメスを入れました。過去の失敗を懺悔することで、次の100年につなげていければ、そういう思いで特集と向き合いました。

(『週刊ダイヤモンド』副編集長 山口圭介)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

カテゴリートップへ

最新記事
最新記事

アスキー・ビジネスセレクション

ASCII.jp ビジネスヘッドライン

ピックアップ