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コナカ激安オーダースーツを生んだ社長の「現場力」

2017年03月03日 06時00分更新

文● 夏目幸明(ダイヤモンド・オンライン

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コナカが展開するオーダーメイドブランド『DIFFERENCE』が好調だ。紳士服のチェーン店は、1坪あたりの売上は年間100~200万円程度だが、『DIFFERENCE』の売上は1坪あたりなんと1000万円超。どんな仕掛けがあったのか?(経済ジャーナリスト 夏目幸明)

社長自らが現場で接客し
お客から聞き出した言葉とは

「現場100回」は刑事ドラマだけの言葉ではない。優れた経営者はよく現場に出ている。

 例えばLCC業界で躍進するピーチアビエーション。井上慎一社長は出張等でピーチ便に搭乗すると、たまに「お客様、社長の井上でございます。本日はようこそ~」と機内アナウンスをする。降りるときは、機内のゴミを拾う。社員やCAに向け「コストをかけずに、できる限りのサービスをしよう!」と自らの行動で示しているのだ。

社長自らが現場で接客し、着想を得た激安オーダーメイド。湖中謙介社長にとって、「お客様のご不満、ご要望は宝」なのだ

 また、セブン銀行の二子石謙輔社長は、トップに就任する前、セブン-イレブンとイトーヨーカドーの店員として計2ヵ月働いた。成長の突破口は現場から見つかった。日本で働く外国人等が海外へ送金するとき、手数料が高く、手続きも銀行の窓口が開いている時間帯にしかできず困っていた。そこで同銀行は利便性が高いシステムを構築し、これを突破口に利用者を一気に増やしたのだ。

 コナカの湖中謙介社長も同様だ。彼は今も「接客をしているときが一番楽しい」と話すほどの現場好き。これが新たなビジネスを開花させた。

 昭和中期、紳士服は一着一着、「仕立て屋」がつくっていた。当然、値段は高く、だからこそ当時は「一張羅」という言葉が使われた。一着しかない貴重な服、といった意味だ。

 この言葉を死語に変えたのが、いわゆる「吊るしのスーツ」だった。郊外に敷地面積が広い店舗を出し、様々なサイズのスーツを大量生産してハンガーに吊るしておく。洋服の青山、紳士服のはるやま、コナカ等が、このビジネスモデルだ。

 特徴は、大量生産により低価格を実現したこと。また納期も短い。オーダーメイドは、湖中社長いわく「売れすぎると自社の首を絞める」ビジネスモデルだった。工場での生産が追いつかず、入社式を控えた春先などは、納品までに1~2ヵ月待つこともあった。しかし吊るしのスーツは、簡単なお直しをすれば数日で受け取ることができる。

 その後、スーツは吊るしで買うことが当たり前になり、2000年前後から各社はファッション感度が高い店舗を構えるようになった。コナカなら「SUIT SELECT」、はるやまなら「Perfect Suit FActory (P.S.FA)」だ。

 紳士服業界がこのような変化を遂げてきたなか、コナカの湖中謙介社長は常に売場に立ってきた。そして数年前、接客中に興味深い声を聞いた。

「300着ほども吊してある中型店で接客していたのですが、お客様は何着か試着をされても表情が冴えず、帰ろうとなさるのです。私は名刺をお渡しし『どのような品があれば、お買い求めいただくチャンスがあったのでしょうか?』と尋ねました」

 お客さんは「社長さんだったんですか!?」と驚きながら、忌憚ない意見をくれた。「自分にぴったりなモノがなかった」「形も、色も、うまくいえないけど、どこか違う」という話だった。

オーダーメイドでも
安い理由とは

 湖中社長には思い当たる節があった。eコマース市場は伸び続け、一昔前は「近所のお店に行って在庫の中から選ぶ」のが当然だったが、次第に「自分ぴったりの商品を徹底的に探す」ことが当たり前になっている。ITの進化により、選択肢が増えているのだ。

来店には予約が必要。おすすめの生地などを用意してくれる

「その時に、思ったのです。スーツを1000着吊してあればかなりの大型店ですが、お客様にとってみれば、買わなかった999着は意味がないのだな、と……」

 解決策もなくはない。オーダーメイドで、そのお客様だけの一着をつくればよいのだ。しかし、オーダーメイドは高額で、納期も長い――はずなのだが?

 湖中社長は思考実験を繰り返した。

 いま、IT業界は伸び盛りだ。いや、正確にいえば、すべての業界にITの力が入り込むフェーズが到来している。湖中社長は「ITの力を取り込めば、オーダーメイドを一変させることができるのではないか?」と考えた。

 まず、お客さんがアプリでスーツをオーダーできれば、店員が伝票を書き、工場に発注する手間がない。最初の一度は、お店に来てもらい、テーラーが丁寧に採寸する必要がある。しかし2度目からは、圧倒的低コストで受注できる。商品を宅配便で届ければ、お客さんは来店する手間すらかからない。

 これを実現するには、工場を進化させる必要があるが、湖中氏は工場の現場も熟知していた。オーダーが入ったら、自動で裁断と縫製が始まるシステムを「構築できる」と踏んだ。CADやCAMを駆使すれば、一着一着サイズや仕立て方が違う商品を“大量生産”できる。

「なかには袖付け、襟付けなど、匠の技が必要な工程もあります。スーツの生地により、多少、付け方を変えた方がいいんです。ならばここだけ、職人が担当すればいい」

 するとオーダーメイドの有利な点が浮かび上がる。店舗には生地見本を置いておけばいいから、坪数が少なくなる。人員も少なく済む。すなわちコストが削減でき、販売価格も下げられるはずだ。

「こうして原価を計算すると、1着3万5000円からという驚異的な価格でオーダーメイドのスーツをつくれるとわかったんです」

トップが現場の声を
宝と思えるかどうか

 この店舗が流行らないわけがない。こうして2016年10月に『DIFFERENCE』を出店すると、このビジネスは圧勝だった。『DIFFERENCE』は郊外型店舗の坪単価の5~10倍を記録したのだ。湖中社長が話す。

「お客様のご不満やご要望は、企業にとって宝です。そして、これらは必ず現場にあるのです」

 優秀な経営者は現場に行く。たとえばニトリの新社長・白井俊之氏は月に4~5日かけ、全国の店舗を回り、夜は現場の店員と酒を酌み交わす。「本部に“この商品が売れている”というデータが来ても、お客様はご不満がありつつ購入しているかもしれませんからね」と話す。三越伊勢丹ホールディングスの大西洋社長も、頻繁に現場を訪れる。筆者の取材時には入社5年目の女性社員が直訴してきた話をし「素晴らしい意見だった。“1人の意見を聞くなど不公平”と思うかもしれませんが、組織は言ったもの勝ちでいい」と笑っていた。

 そんな「現場型トップ」が口をそろえ、言うことがある。

「現場で何が起きているか、教えてくれる社員ほどありがたい存在はない。逆に、数字だけで判断するのは本当に怖い」

 現場の声を宝だと思えるかどうかは、トップの力量を占う指標ともいえるだろう。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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