2012年 ~IaaSの発表とLinuxのサポート、OSSへの静かな船出~
2012年6月、長らくPaaSのみを提供してきたAzureに、仮想マシンと仮想ネットワークのIaaSが追加された。同時にOSでLinuxのサポートを開始している。またこの年には、第2のPaaSとして、「Azure Web Sites(現App Service Web Apps)」を発表した。
Azure Web Sitesは、FTPでのアップロードやGitでのデプロイができるなどレンタルサーバーに似たPaaSだ。Team Foundation ServiceやGitHub、Jenkinsなどを用いたアジャイル開発を支える継続的インテグレーション(CI)と継続的デリバリー(CD)を前提においた仕組みを持っており、.NETだけでなくNode.js、PHP、Python、JavaなどのOSS言語もサポートしていた。
そのほかにも重要なサービスとして、「Azure Active Directory」、動画のストリーミングサービス「Windows Azure Media Services」を発表。Azure Media Servicesは、2012年のロンドン五輪の動画配信環境に採用されている。
羽野:Linux、OSS言語の正式サポートなど、2012年は急にAzureの方向性が変わったように見えます。
廣瀬:この年に、初期のAzure開発を率いてきたMicrosoft幹部が次々と退社しています。これを外からみて、Microsoft内でAzureの方針を転換する経営判断があったのだろうと推測していました。また、OSSを推進するための子会社MS Open Techが創設されたのも2012年4月です。Microsoftがオープンソースコミュニティとの協力関係を強めようと踏み出した時期でした。
羽野:ロンドン五輪など、大規模な導入事例も出てきました。
廣瀬:ロンドン五輪でのAzure採用は世界中によいインパクトがあり、私たちAzure使いにとっては喜ばしい出来事でした。この年には日本でも、Mixi Xmas 2011やコミケWebカタログなどの大規模なWebマーケティング基盤にAzureが利用されています。一方で、2012年2月29日に発生した“うるう日”の処理不具合による大規模障害には大いにがっかりしました。そのほかにも同年にはいくつか大規模障害がありましたね。Linux対応や五輪採用に沸き、これでAzureがいけると思った矢先の障害発生に落胆する、悲喜こもごもな1年だったと記憶しています。
2013年 日本にAzureリージョンが上陸
2013年5月、当時CEOのスティーブ・バルマー氏が来日し、Azureの東日本リージョンと西日本リージョンの計画を発表した(2014年2月にGA)。同年は米国外でのリージョン新設ラッシュで、オーストラリアに2リージョン、中国国内に21Vianetの運営による2リージョンが追加されている。この時点で、Azureのリージョンは全12拠点(米国中北部、米国中南部、東アジア、東南アジア、北ヨーロッパ、西ヨーロッパ、東日本、西日本、東オーストラリア、西オーストラリア、東北中国、東中国)。
IaaSのインスタンスの拡充も進み、同年、32 Gbps InfiniBand RDMA対応インスタンス「A8/A9シリーズ」が追加された。パブリッククラウドとして最初に、高価なInfiniBandが1分単位の課金で使える大量計算向けインスタンスを打ち出したことで、HPC用途でのAzureが注目されるようになる。
羽野:2013年になって日本リージョンの計画が発表されました。その時のお気持ちは?
廣瀬:嬉しかったですね~。先にAWSが東京に上陸していたこともあり、“やっとこれで戦える”という感じがありました。
羽野:日本リージョンができたことで、Azureの使い方は変わりましたか?
廣瀬:変わりましたね。それまでは、国内からは東アジアリージョンを利用することが多かったのですが、当時では60msecから80msecくらいのネットワーク遅延があった。サービス設計的な面で、10msec程度でアクセスが可能になる東日本と西日本のリージョンが利用できることはインパクトが大きかったです。ビジネス面でも、データを国内に保管する、国内法に合わせた認証、円建てでの支払いや管轄裁判所が日本国内という点でエンタープライズ企業に提案しやすくなりました。その頃はpnopでAzureの提案をしていましたが、実際に、エンタープライズ系の仕事が増えましたね。
2014年 サティア・ナデラCEO就任、怒涛のリリースラッシュ
2014年に、MicrosoftのCEOにサティア・ナデラ氏が就任した。CEO交代を機に、Azureは破竹の勢いで新機能をリリースし始める。
IaaSに新しいデプロイメントモデルを提供する「Azure Resource Manager(ARM)」、分散オブジェクトストレージである(Azure Blob Storage)をWindowsファイル共有として利用できる「Azure File Storage」、専用線接続サービス「Azure ExpressRoute」など、2014年の怒涛のリリースの範囲は、IaaSにもPaaSに及ぶ全面的なものだった。
最新のテクノロジートレンドに追従する動きも顕著で、機械学習サービス「Azure Machine Learning」やNoSQLサービス「DocumentDB」、分散型全文検索エンジンの「Azure Search」、ChefやPuppetなど構成管理ツールのIaaS展開対応、コンテナ仮想化技術Dockerのサポート、ビッグデータ処理のHot Path/ Cold Path処理を行うラムダアーキテクチャの採用などを行っている。
また、この年に名称をWindows Azureから「Microsoft Azure」へ変更した。
羽野:2014年は突然のリリースラッシュですね。どうしたんですかMicrosoft。
廣瀬:どうしたんでしょうね(笑)。サティア・ナデラがCEOに就任してから、Azure全面改修くらいの勢いでリリースがきました。AzureのAPI部分から全面的に設計を変更し、まったく新しく開発し直したARMを投入しています。これで、サービスがどんどん追加できる本格的なIaaSになりました。
Azureは、NoSQLやKVSなどでどう見ても出遅れていましたが、2014年からはOSS系のものをあっさり受け入れるようになった印象です。Dockerや、Chef、Puppetにも対応しました。せっかくクラウド基盤を全面的に開発し直すのならOSS含めて投入し直そうという意識があったのでしょう、2014年はリリースが急増したようです。この刷新によって急に、MacやLinuxからもAzureを使いやすくなったのを覚えています。