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「お金を増やすサービス」のあるべき姿 将来不安の解消目指すWealthNavi

無意識に老後のためのお金を増やしてくれるFintech

連載
ASCII STARTUP 今週のイチオシ!

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資産形成の必要性が高いのに、
それを払拭できない金融機関のジレンマを解消

 だが、そのような「お金を預けておくと勝手に増やしてくれるサービス」は、大手証券会社やネット証券会社でもすでに提供している。たとえば、「ラップ口座」というサービスを聞いたことがないだろうか。「ラップ」とは包むという意味で、預けたお金をまるっと証券会社に渡して(=包んでもらって)、運用などをお任せするサービスのこと。お任せしてしまうので、どのような手法で、どんなときにどの商品を売買するかがわからない。

三井住友信託銀行で提供する「ラップ口座」。ラップ口座を提供しているのは証券会社だけにあらず。ラップ口座は投資一任運用とも呼ばれている

 証券会社にお金を預ければ、勝手に増やしてもらえるため資産形成に活用できると、資産形成初心者にはうれしいサービスかも知れない。だが一方で、日本投資顧問業協会が2016年12月に発表したラップ口座運用残高は今年の9月末時点で約6.2兆円。金額的には大きく見えるが、投資信託の運用残高が約89.6兆円であることを考えると、その普及率はまだまだ低い。やはりすべてを証券会社にお任せしてしまうのは抵抗があるという表れかもしれない。

日銀が発表している家計の金融資産残高。家計の金融資産は約50%が現金・預金で占められている。(棒グラフの一番長い部分)「貯蓄から資産形成へ」の取り組みがされている原因であり、WealthNaviのビジネスチャンスがここにある

 ではWealthNaviはどうなのだろうか。言ってしまえば同社もやっていることは、海外に分散するETFを投資対象とした「ラップ口座」と言える。しかし、「ラップ」の根幹である資産運用のアルゴリズムを公開することで、顧客が不安に感じる「金融サービスのブラックボックスな部分」を払拭することを目指したサービスを提供している。

 「お客様のニーズを満たせない今の金融サービスの真逆のことを考えた。手の内を見てもらって安心して資産を増やしてほしい」と柴山代表は語る。

 同サービスの最低投資額は100万円からで、手数料は投資額の1%。現在の顧客層は30~50代が中心だが、2017年に開始予定の「おつりを自動的に投資に回す新サービス」の展開などで資産運用からは縁遠い若年層にとっての投資機会の提供も狙っている。

WealthNaviが提供するサービスの概要図。投資目標を決めて自動運用し、さらに取引で得た利益の節税までをアドバイスしてくれる

ニューヨーク証券取引所と接続する取引システムをAWS上で実現

 金融事業としての勘所も押さえつつ、自動運用サービスを徹底的に推し進める同社のサービスが始まったのは、2016年の7月。ベータ版から半年での本格稼働だが、フィンテックが流行しているとはいえ、金融サービスとは思えないスピードで創業から歩みを進めてきている。

 代表である柴山氏の来歴はまさに、金融サービス企業の経営者になるために歩んできたエリートだと言っても過言ではない。日本やイギリスの財務省や、戦略コンサルの最高峰であるマッキンゼーで機関投資家向けの資産運用に関する業務に携わった人物。そんな来歴を見てしまうと、権威主義的な人物を想像してしまうが、そうではない。WealthNavi のプロトタイプや2017年上期にローンチ予定の新サービスは、柴山氏自らがプログラミングを学んで作ったという。社長業をしながら学んだというから驚きだ。

 現在社員数は30名程度で、うち6割がエンジニアという構成になっている。金融業界で長年業務系システムを開発してきた社員もいれば、IT系企業で最先端の技術を扱ってきた社員もいて、柴山氏いわく、「金融とITのいいとこ取りができる組織」になっているという。

 一般に、金融機関は外部ベンダーにシステム開発を委託しているため、金融関係の仕事をしていた人がテクノロジーに疎いというのは、よく言われている周知の事実。そんな折で開発の実作業を経験してかつ、金融省庁とのつながりを持つ社長が経営する同社は、当然システムを内製化している。

 ミスが絶対に許されない金融システム作りの大変さを現場目線で理解している一方で、金融省庁とのつながりも深いのは大きなメリットだ。「革新的な金融サービス」を法令制度とシステムの両方向から実現可能性を考えられるため、収益を生みやすい体質といえる。

WealthNaviが公開する取引アルゴリズムのホワイトペーパー。初心者でも読み進められるくらいにやさしく書かれている

 ところで、WeatlhNaviはテクノロジー面でも革新的だ。アルゴリズムをホワイトペーパーで公開しているのに加え、ニューヨーク証券取引所と接続する取引システムをAWS上に提供している。クラウド上での基幹システム構築であれば他のスタートアップでもすでに行っているが、証券取引システムは、その性質上AWSへの構築が難しい。取引の始まりと終わり頃に処理が集中する特殊な環境であり、平常時の10倍以上、時として100倍以上の負担がかかるためだ。

 日本を例にすると、朝8時に東京証券取引所での注文受付が始まり、朝9時から取引が始まる。この時間帯は、取引所に大量の注文を送信しなければならないし、取引所から大量の約定の通知が届く。これらをすべてさばくのに、膨大なリソースが瞬間的に必要となる。

 AWSでも「バースト」という想定以上の処理が来ても耐えられる仕組みを用意しているものの、最大キャパシティを考慮して設計したオンプレミスのサーバー群でなければ通常は耐えられない。ゆえに、クラウド上に取引システムを構築するのは革新的なのである。

WealthNaviのAWS導入事例。ニューヨーク証券取引所と接続する取引システムが構築されている

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