まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第56回
鷲宮は作品頼みから「オタクにとっての非日常」を楽しむ場へ
らき☆すた放送からまもなく10年――聖地がこれからも聖地であるために
2017年01月14日 17時00分更新
らき☆すたから拡がるオタク的おもてなし
―― 年表を見ると、最初の頃はらき☆すた関係のイベントとかグッズがずらりと並んでいますが、昨今はだいぶ濃度が薄くなり、それ以外にシフトしてきた、という感じでしょうか?
松本 そうですね、らき☆すた以外の部分では色々と遊ばせていただいています。最近になって「オタ部活」ということで、草野球チームを作ってまして、それも3年目になりますかね。これはらき☆すたファンもいますけれど、基本は野球に興味がある人たちでの活動です。月1回から2回、だいたい20人弱で栃木・群馬・東京・埼玉・山梨から集まっています。
活動としては2010年から毎週日曜日「ラジオ鷲宮」と銘打ってミニFMの番組を続けていたり、オタクの運動会「萌☆輪ピック」というのをやったりとか。過去にはオタク向けの婚活としてオタ婚活もやりました。映画撮影にもチャレンジしましたね。それ以外にも、萌え川柳大会とか。結構自虐的なネタが多くて、ホント面白かったですよ。らき☆すた以外のことは思いついたらなんでも取りかかろうという意識でやってます。
―― 流れとしては、最初はらき☆すたのファンたちが来てくれたと。そして現在は作品にこだわらず、ファンとのコミュニケーションを掘り下げていこうという感じでしょうか?
松本 ファンのみんなに楽しんでもらいたいというのが純粋に思うところで。彼らが楽しめるものって何かなって考えたときに、たとえば運動会だったら、運動しそうにないオタクの人たちにあえて場を提供することで意外に喜んでもらえたりとか。そういう『なんか鷲宮に来ると楽しいな』と感じていただけるなら、なんでも良いかな、と。
―― オタクの人にとっての「非日常」なわけですよね。
松本 そうですね。いま特に野球をやっていて『楽しみにしてくださっているな』という実感があります。
―― 月2回ですよね?
松本 ヘタすると3回くらいやってますね。基本的には土日に20人弱で集まって、練習している感じです。試合はインターネット掲示板に載せてます(笑) ウチこういうチームですと言って、申し込んでいくんです。ホントに普通の草野球チームなんです。
坂田 KADOKAWAさんと対戦したこともあるよね。
松本 ありましたね(笑)
松本 急遽、『宮河家の空腹』の声優さんにお越しいただいて場内アナウンスしてもらったり。
―― 豪華ですね!
松本 一見、らき☆すたと関係ないようなことを我々やっても、版元の方々が協力してくださいます。婚活イベントの際は担当編集さんがわざわざ吹き出しを空白にした4コマ漫画を持って来てくださり、「男女4人グループでセリフを考えよう」という内容の特別講師をやってくれました。
アニメビジネスといかに呼吸を合わせるか?
―― とはいえ声優さんも本当に忙しい人たちですし、色んな大人の事情があると思います。たとえば、製作委員会としては作品に再び日の目があたって、BD-BOX化する際の特典映像にしたいとか、そういう相乗り的なものがあったりするのかな、と思ったりするのですけれど。そのあたり、商工会とらき☆すた製作委員会との調整はあったりするのですか?
坂田 版権契約って細かいことが書いていませんから、良い悪いの判断は結局、担当者との人間関係になると思います。ここなら大丈夫じゃないかなという信頼関係。多分、そこを構築できないと書類上の数字で判断する話になってしまうのでは。
松本 結構色々ありましたからね、もう止めちゃおうかということもありましたから。
坂田 あったね(笑) やはり現地と版元の温度差や、プロモーションしたいタイミングって違うじゃないですか。版元の担当者はわかってくださっても、今度は地元の人たちがわかってくれなかったり。
―― 権利元からは地元が暴走しているように見えたり。
松本 そうなんですよ。
坂田 精神的に(我々は)間に挟まれましたね。
―― 一般的には、地元が盛り上がるところまでが大変だと言われますよね。アニメを観たこともないし、観てもわからない人たちをどう盛り上げるかという点で。でも、よくよくお話を伺っていくと、逆に盛り上がってしまってからが大変だったということですね。
坂田 盛り上がるときは、なんだかわからない勢いで行ってしまいますから。
松本 作品の力が圧倒的だったので、あれよあれよという間にファンが集まりましたから。いま『君の名は。』がメディアに露出していますが、あれを見ると昔を思い出します。神社はもちろん、町中の何気ないところにも人がいっぱいいるという。『あーこんな感じだったなあ』と懐かしく(笑)
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