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四本淑三の「ミュージック・ギークス!」 第158回

唯一無二の音、日本人製作家の最高ギターを販売店はどう見る?

2016年11月12日 12時00分更新

文● 四本淑三

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誰も使ってないからおもしろいんじゃん

―― 38万円という値付けはどうですか。

村田 適正か、かなりがんばっている値段だと思います。自分たちだけでギターを作るって、みなさんが想像しているより、ずっと大変なことなんです。場所も器具も必要で、いい材料を海外から取り寄せて。そう考えると高くはない。実際、この値段で何本かは売れているわけで、購入したみなさんは高いとも安いとも言わずに買ってくれた。だから、これでいいんじゃないですか。

―― 知名度の低さが弱さになったりはしない?

村田 うちの場合はないです。ナショナルブランドのギターは、いまやどこでも売っています。特に渋谷は、世界中のいい楽器が全部見られる街です。超ハイエンドから、入門編まで。海外の人は「アメリカでもよっぽど回らないと、これだけの楽器は見られない」って言います。そういうところにほかにない楽器がポンとあるのは、お店としても大事なこと。ブランドは後から付いてくる問題です。

 このギターを弾きに来たお客さんに、なんで試奏に来たんですかって聞いたら、やっぱり「ギブソン、フェンダー以外でおもしろいギターを探していたら、たまたま動画で見つけた」と。そういう風にスローに広げていくのはウチの店の仕事ですね。

 きっと楽器屋はこういうギターが大好きですよ。ギター的におもしろいし、弾きやすいし。マホガニーネックでシングルコイルのギターというのが、そもそもほかにない。音的にも必要な人がいるはずなんです。有名な人が使って「あのギターはなに?」という話から大ヒットというパターンもあるでしょうけど、それでは長続きしない。長く売っていくには「どうやらあのギターは音が良いらしいぞ」という評判を、徐々に広めていかないと。

―― 誰が使っているかは、みんな気にしますよね。

村田 誰も使ってないからおもしろいんじゃん、この音を使って、なにか新しいことをやんなよって、僕は思うんですけど。それがなかなか通じないのが日本ですよね。それが海外のミュージシャンに使われると、急に「あの音なんですか?」って始まる。だからずっと言ってんじゃんって。

―― わはははは!

村田 そういう意味では幼い市場で、新しいものをフラットに理解して使える人は少ないです。このギターは、僕のイメージではプロ向けか、結構なギター好きが買うもの。だから海外のギタリストが急に「これ最高!」と言って使いだしてもおかしくない。昔のグレコだって、いきなりキッスの人が使って注目を集めたりしたわけじゃないですか。

―― ポール・スタンレーの「アイスマン」ですね(1970年代末の国産オリジナルギターで、神田商会がグレコ・ミラージュとして国内販売していたものと基本デザインは同じ)。

村田 日本のビッグなアーティストも、やっぱり他人の使っていないものが好きです。自分の使いたい楽器を使いたいから、エンドースメントも嫌う。そういう人達が興味を持ってくれるとおもしろいなとは思いますけど、その人達がステージで持つとなると、それに見合う絵になっていなければならない。ギターってまずは見た目がカッコいいから買うわけですよね? だから、このギターのルックスが好きな人がどれくらいいるか。そこですね。

―― ところで村田さんはレビューがいつも的確で鋭いですが、実はミュージシャンだったとか元は楽器メーカー勤務だったとか?

村田 いえいえ、とんでもないです。普通にバンドをやっていただけです。それで、下北のシェルターというライブハウスで働いていて「楽器が好きならいい店紹介してやるよ」とあるドラマーに言われ、この会社に入りました。それで社長に「お前はエフェクターが好きなら、好きなものを仕入れてきて売れ」と言われて売っていたんです。それ以外に楽器屋に勤務した経験もなにもないです。

 アメリカのインディー・ロックみたいなのばかり聴いていたんですが、会社に入ってからは、お客さんが店で弾いている超うまいギターを身近に聴いて、なんであんな音するんだろう? 同じ楽器に触ってもあの音しねえぞ? みたいなことをずっとやっていました。会社でボーヤ(ローディー)をやっていた感じです。それでいろんな楽器の音を調べたり、カッコいい音の出るギターの弾き方も覚えたり。先入観がないので、こういうギターをポンと渡されても、なんとなく狙いはわかるんですね。

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