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「KT-NETフェスタ2016秋」のパネルディスカッションレポート

課題だらけの地方都市をIoTで救えるか?横須賀をモデルに考える

2016年12月08日 07時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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地元再生のためになにができるのか?

 自治体と企業がタッグを組むヨコスカバレーもユニット制でさまざまな切り口から横須賀の創生に取り組む。たとえば、水野さんはドローンユニット、相澤さんはプログラミング教育とハッカソンを率いている。「たとえば、プログラミング研修を無償で受けられるようにしたり、世界初とも言えるカレーハッカソンをやった。横須賀の資産を活かしたハッカソンやアイデアソンを進め、新規事業を興したり、市外の企業を誘致につなげようとしている」(相澤さん)。

 また、中井さんは観光アピールを手がける観光増加ユニットに属している。「横須賀は来られる外国人も多いし、軍関係の施設があるので住んでいる外国人も多い。そういった方々に横須賀の魅力をいかに伝えるか、私のようなよそ者と地元の意見をあわせながら、日々考えている」(中井さん)という。

 竹田さんはヨコスカバレーの枠組みを超えて、若者が集まる場所を作ることに腐心している。「アンケートを見ればわかるのですが、みんな横須賀は好きだし、横須賀のためになにかしたいという思いはある。でも、これをどこにぶつけてよいかわからなかったのが今までの問題点」と竹田さんは語る。また、地元高校生の発案で作られた「ヨコスカネイビーパーカー」のような尖ったことをやる人材同士をつなげるため、コミュニティを作っていくのも注力しているという。「イノベーターに続くフォロワーの人たちをいかにつなげていくかがまさに焦点」(竹田さん)。水野さんも「横須賀には農業、漁業、企業、研究所などさまざまな資源がある。これらをつなげていくことこそ、今後必要なこと」とより大きなコミュニティ作りが必要だと力説した。

一般社団法人ウィルドアの竹田和広さん

 竹田さんの取り組みに対して、中井さんは「福岡がまさにそうだった。地元愛が強い福岡の若者たちの受け皿を作ったからこそ、アニメだったり、ゲームだったり、ITの集積地が10年かけてできた。2年目のヨコスカバレーはまさにそれを作り始めている」と指摘。それとともに、中井さんや相澤さんのような大人が若者を受け入れるという土壌が必要になってくるとアピールした。

半径10km圏内のイノベーションが次のビジネスを創る

 では、ITやIoTはどのように地方創生に役立てるのか? これに関しては、オオタニがまず議論の突端となる持論を語る。

 オオタニは「そもそも地方はIT人材が多くなく、ITリテラシも高いとは言えない」と指摘。少ない人材で大きな施策を進めるには、ITによる自動化・効率化・大規模化というのが必須になる。特にIoTに関しては、農業や漁業、酪農など一次・二次産業と親和性が高く、通信環境が整っているという点も見逃せない。「四国の神山モデルというのはよくもてはやされていますが、ああいった僻地と呼ばれるところでも通信環境があれば、リモートオフィスが実現できる」とオオタニは語る。ドローンや近距離無線通信の技術も進化しており、IoTが役立つ地盤が整っている。

 実際、地方創生とIoTが役立ちそうな分野としてオオタニは、「高齢者・独居老人のサポート」「訪日観光者向けの観光施策」「空き屋や廃屋管理」「犯罪防止や見守り」「商店街の活性化」「地域コミュニティの醸成」などを挙げる。

 こうした活用例について、相澤さんは「横須賀、もう少し視点を拡げて三浦半島という領域で考えれば、こうした課題はまさに全部当てはまっている。横須賀をフィールドにして実証実験するようなスタートアップも呼びたいし、実験にとどまらず事業を興すという観点でも横須賀は最適な場所」と語る。そして、こうした横須賀での取り組みは、他の地方自治体でそのまま転用できるケーススタディになるという。

 これに対して、オオタニも「私が住んでいる豊島区も東京23区の中で唯一消滅する区として名指しされている。でも、いろんなことを実証実験しようにも、正直都内ではいろいろ難しい。ドローン1つも飛ばせない」と応じる。ドローンチームに属する水野さんは、「この秋に市内にドローンを飛ばせる用地を確保しましたし、過去にはドローンに関するイベントも開催しました」と語る。また、竹田さんは「ポケモンGOをツールとして使って、どのように観光客が楽しめるかを考えるアイデアコンペみたいなのをやりました。スマホやIoTのようなものを使って、人が集まるということができるようになった」と語る。

 中井さんは「三浦野菜とか、鎌倉野菜は都内で食べるとお高いですが、地元の人にとっては身近なモノ。こうしたモノを作るのに、センサーやIoTを活用すれば、作業効率が高まり、余力の時間が増える。その時間を販売施策につなげたり、違う作物を作るといったことに当てられたら、いい循環が作れる」と語る。実際、システム開発なども手がけている中井さんの会社にとっても、今までのような受託中心のSIではなく、価値提案型のSIに切り替えていかなければ、今後の生き残りは難しい。技術先行ではなく、地元からのニーズを汲んだサービスやプロダクトを生み出せば、IT企業にとってもビジネスが生まれ、地元も潤うという構図ができるという。

ビーマップ 担当部長、無線LANビジネス推進連絡会(Wi-Biz)運用構築委員会の副委員長 中井 大さん

 最後、まとめとしてオオタニが掲出したのが、「半径10km圏内のイノベーション」というキーワードだ。「IoTで世界変えてやるとか、一山当てるぜという人は多いけど、自分の身の回りを見渡せば、課題はごろごろ転がっている。イノベーションを生み出すためには、まずは半径10kmの地方都市に課題を求めてもよいのではないか。そこから新しいビジネスから生まれるのではないでしょうか」(オオタニ)と提案し、パネルを終えた。

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