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麻倉怜士がソニー平井社長をインタビュー

ラスト・ワンインチは、すべてソニーが押さえるべきです

2016年08月12日 09時00分更新

文● 麻倉怜士 編集●ASCII 写真●神田喜和

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VRやロボットはワンソニーの象徴である

麻倉 VRもロボットもそうですが、一つの技術ではなく、ソニーが持っているいろいろな要素、……メカもあるし、エレキもあるし、コンテンツもあるし、という中でまとまってひとつの世界観を作ることになりますね。

PINO

平井 はい。まさしくワンソニーの象徴と言ってもいいと思います。もうひとつポイントがあるとすれば、今までのソニーは自分たちでありとあらゆるものを開発して、それをソニーらしい商品として出していくという点に偏りすぎていました。しかし世界に目を向けると、ソニーより進んでいる分野や知見があります。そういうところときちんとパートナーシップを組んで、技術を取り入れたり、人を呼んで来たり、場合によってはM&Aをするとかしてもいいんじゃないかと。

 そのために買収をしたり、出資したりを始めています。ソニー・イノベーション・ファンドを設立して、スタートアップとソニーの長所を持ち寄り、ウィン・ウィンの関係を築けるようにしているのもその一環です。今までより踏み込んで、ソニーが持っていない、技術や知見をきちんと取り入れていこう。外と一緒にやっていこうと考えています。

ソニーだけではできないことを知る、現実を直視する

 ソニーは今までは内向きだった。オーディオ・ビジュアルの分野でも、ソニーは難攻不落のイメージだった。独立系の技術会社から、いいオーディオのテクノロジーがあっても、「ソニーは自力でやります」という感じで採用してくれないんだという話をよく聞いたものだ。

平井 過去には、自分たちで全部やるのが良かった時代もありました。しかし現在は1社で完結するのは、どの会社でもなかなか難しいと思います。だから、外に行ってもいいと私は思っています。プレイステーションをやっていて感じたのですが、ソニーグループだけではまとまらない。パートナーと組まないといけない。自社に素晴らしい技術があると自負するのはいいことだけど、ベンチマーキングが必要ですし、現実を直視してやっていく必要があるのが大事だと思っています。

麻倉 ロボットは今年は仕込みの段階で、面白いことが出てくるのは来年以降になるのでしょうか?

平井 そうですね。組織を作って数ヵ月という段階で、Cogitaiに出資したり、人工知能学会のスポンサーになって、ビジビリティを上げ、そこで我々のロボティクスのビジネスに興味がありそうな人たちをリクルーティングしたりなど。地道な活動を始めているところです。

頭脳集団を生かせ

麻倉 CSL(ソニーコンピューターサイエンス研究所)の北野宏明氏のネットワークは役に立ちそうですね。

平井 今回ロボティクスの分野に進出していくにあたって、CSLもしくは北野さんのインボルブメンド度が従来に比べて高くなっていると思います。

麻倉 今までは独立している印象でした。

平井 私と北野さんのところが唯一つながっていたのは、3~4年前にネットワーク上で新しいサービスを作りませんかという流れで、ソニーグローバルエデュケーションやマスチャレンジだったりの時でした。ネットワーク版のSAPというか。今回大きい意味でのロボット事業を進めていくうえで、北野さんに入ってきてもらおうと考えたんです。結果としてCSLとソニー株式会社の接点がずいぶんと増えたように思います。

商品あってのソニーだから、苦しくても面白いものを作る

麻倉 世界的な頭脳集団を活用しない手はない。いまSAP(ソニー・アクセラレーション・プログラム)の話が出ましたが、いよいよ一般向けに製品が出てきて本格的に始動した印象があります。

平井 ありがとうございます!

麻倉 はやく売り出せ! 売り出せ! って言い続けてきたんです。

FES Watch

平井 FES WatchとかWenaとかね。つい最近、AROMASTICKのディストリビューションも始まって。スマートロックも市場に出ていますし、ソニー不動産もおかげさまで不動産業界に一石を投じられたように思います。いい形で、次の段階のビジネスになりそうなことをやっています。 以前も麻倉さんにはお話ししましたが、モノが出始て初めて、「SAPというのはいろいろやっているね」という話になります。それまでは「社長のお遊びで、どこかでフェードアウトするだろう」と思われがちでした。それを最後までやり切って、ここまでくるといい形で回り始める。次の大きな課題は、どうやって儲かるビジネスに育てるかです。いいものを出しておしまいではないと思います。

Wena Wrist

麻倉 カッティングエッジな製品が出てきましたが、まだまだエッジだけなところもある。

平井 次はビジネスだと。これを通じてリカーリング((循環型))のビジネスモデルがどう作れるのですか、と考えていくことが必要ですと、SAPをやっているメンバーには常々言っています。

麻倉 小さくても育てようという考え方は、SAPに限らず既存事業体でも必要です。

平井 必要なのですが、私はイノベーションとはどんなカテゴリーでもあると思っています。突拍子のない領域にも、既存の事業の領域にもある。既存の商品のイノベーションは事業部でやってほしいのですが、FESやWenaは既存の事業部からはなかなか出てこないでしょう。よって新しいのメカニズムを作ってやる必要があります。SAP以外にもTS事業準備室を自分で作りまして、超短焦点プロジェクターとかグラスサウンドスピーカーといった商品をやらしてもらっています。こうしたいくつかの新しいアイデアをビジネスとして成立するかを精査しつつ、商品として出していく。そういうことをするのが社長の期待としてあるのだというメッセージが伝われば、イノベーションが許されるのだと思います。

 ここ何年かのソニーは苦しい中でやってきました。苦しいし、やるべきことはやるんだけど、やっぱり商品があってのソニーなので、どんなに苦しくても面白い商品を作る部隊がいる。それを私が責任をもって作るので、みんなでやりましょうよというメッセージが、ひじょうに大事なんですよね。

 2014年CESでのインタビューで、社長直轄・TS事業準備室の第一弾「Life space UX」4K超短焦点プロジェクターについて、こんな話が出た。

「厚木(ソニーの業務用機器の開発拠点)に行った時に見て、単に大画面スクリーンにコンテンツを映すという以上に面白いと、その場で思いました。テレビ事業部は4Kブラビアの開発で大忙しで、やってもらえそうにない。それなら、現状ではなかなか難しいものが有望なアイテムの商品化を行っている私のTS事業準備室に引き取って開発をスタートしたのです」

麻倉 社長の後ろ盾はやはり重要ですよね。卵を見つけてきて育てる。なかなかみんなは注目しないけど、おもしろいじゃんというものをね。

平井 トップマネージメントがサポートしないとうまく回らないです。最初は社長の道楽、平井さんがやってるからしょうがないってところからのスタートです。でもそれでいいんです。それができるのが社長だから。わがままを言わせてもらってやるぞと。

麻倉 部長ぐらいが言っても、ふんってかんじですもんね。

平井 既存の事業にも意見を言わせてもらっていますが、私の意見が正しいかどうかは置いておいたとしても、社内に対するメッセージとして、社長が商品に対して愛情を持っていて、意見をする文化がとても大事だと思います。出したのに、いいとも悪いとも言ってくれない。これは毎日主人のためにご飯を作っているのに、おいしいと言ってくれないようなもので、まだしょっぱいとか言われるほうがましです。ケアしてくれていることが大事だし、ケアしているからこそ言うという面もあります。中にはなんでそんなことをいうのかと、外した意見の場合もたくさんあります。でも何も言わないよりは、全然いい。

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