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ドローン×機械学習の可能性を国産ドローンのパイオニアに聞いた

ラジコン好きが講じてドローンメーカーを興したエンルート伊豆社長

2016年08月08日 07時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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エンルートが考える機械学習とドローンの現実的な使い道

 そんなエンルートが最近手がけているのが、機械学習の領域。高精度なセンサーと画像認識を組み込んだ最新のエンルートのドローンを使えば、遭難している人を見つけたり、別のドローンを識別して捕獲するといった離れ業まで実現できる。スタートアップとも協業し、新しいアプリケーションをどんどん開発している。

 こうした機械学習の導入に関して伊豆さんは、「今までのドローンって基本的に脊髄しかなくて、脳みそがなかったんです。空間に浮いていられるという反射神経は持っているけど、脳みそは人間の操作。人間の脳みそを機体側に組み込んでしまおうというのが、いま注力している分野です」と語る。

「人間の脳みそを機体側に組み込んでしまおうというのが、いま注力している分野です」(伊豆さん)

 ドローンに機械学習やAIを組み込む取り組みは以前から行なわれていたが、「膨大なCPUリソースが必要で実用にならなかった」というのが実態だった。しかし、技術が進化し、NVIDIAのJetsonのような組み込み型GPUも出てきたことで、ドローンに脳みそを積むということに実用性が出てきた。「人間は見落としがあるけど、機械は基本的に60フレーム全部見てくれる。その情報を元に『ここに人が倒れていそう』というのがわかれば、人間の作業性は圧倒的に上がる」と伊豆さんは語る。

 伊豆さんが考える機械学習の利用パターンはきわめて現実的だ。「僕たちは二足歩行ロボットやヒューマノイドを作っているわけではないし、遭難している人を治療したり、運んでくる能力までは求めていない」と伊豆さん。遭難した人を探すのであれば、動画をリアルタイムで配信するのでなく、該当した写真のみを人間の手元に持ってくれば目的は達成できる。これなら複数台を同時で飛ばしても、利用する通信帯域は少なくて済む。「人を見つけるとか、猿と人間を見分けられればいいので、おのずと敷居は低い。目的を達成するために、人間の認識能力の一部を機械に組み込めればいい。わざわざドローンがアトムの形をしている必要はないんです(笑)」と伊豆さんは指摘する。

学習データの作成には計算機リソースが必要になる

 「脳は学習と認識を同時にやっていますが、エンルートのドローンでは学習と認識を、クライアントとGPUファームのどこでやるのが適切だと考えているのでしょうか?」というさくらインターネットの田中邦裕社長の質問に対して、伊豆さんは、「学習データを作り、蓄積するところはGPUファーム、学習データを使うというところはドローンに載せられるとよいと思う」と答える。

 当然、通信環境が整えば、ドローンから得られたデータをフィードバックし、学習に反映させるというソリューションも現実的だ。「最近、上空から杉の木を数えさせるという実験をやったんですよ。こうしたドローンで撮った映像を学習データとして大量に蓄積できるというのは大きな資産」と伊豆さんは語る。

 一方で、苦労しているのは学習データの作成だ。エンルートでの機械学習は、データの収集、認識、学習の3つのフェーズから成り立っている。精度の高い認識を実現するためには、精度の高い学習データが必要になるが、現状は人手を介しているため、これを効率よくやりたいというニーズがある。これについては大量の計算資源を提供するさくらインターネットの「高火力コンピューティング」も一役買いそうだ。「学習データを作るためには、データを食わせるサーバーが必要になります。その意味では、高火力コンピューティングには非常に期待しています」と伊豆さんは語る。

月面だって必ずしも人が行かなくてもいい

 注目度はピカイチだが、ドローンはまだまだ未成熟な産業だ。実際、動作原理を知らない空撮ファンがドローンをあらぬところに落下させ、事件となった事例もあった。「航空局による適正な法規制ができたり、ドローン教室があちこちでできているのはいい動き。でも、ドローンを飛ばすことに対して規制をかける動きもある。ドローンが悪者扱いされると、産業の成長にブレーキがかかってしまうのではと懸念している」と伊豆さんは語る。

 こうしたドローン産業の創出のために、エンルートでは全国規模でオペレーターを育成していきたいという。「災害時の飛行のためだけに自治体がオペレーターを雇うのは現実的じゃないし、かといって普段から運用やっていないと飛ばすのも難しい。だったら、普段は機材運搬、夏は農薬散布、災害時はそっち優先みたいな年間で動けるオペレーションチームを作っていきたいです」(伊豆さん)。

 今後、ドローンをIoT端末の1つとして使う情報システムはますます価値を増していく。ドローンにある程度のインテリジェンスを持たせ、クラウドと連携しながら、リアルタイムに即時即応するシステムも今後は実現できるはずだ。これに対して、エンルートはスカパーJSATの傘下に入り、グローバルでカバーできる衛星通信との連携も進めていくという。

 ラジコン好きが講じてドローンメーカーを興した伊豆さん。夢を追い続けるドリーマーであるとともに、ドローンが実現するソリューションについては驚くほど現実的に未来を見据えている。

「月面だって必ずしも人が行かなくてもいいじゃないですか(笑)」(伊豆さん)

「世間の目もあるから、災害地に人間を派遣してなにかしなければという考え方はナンセンスです。危険な海洋調査とか海洋ドローンがやればいいし、ドラマはなくなるけど、月面だって必ずしも人が行かなくてもいいじゃないですか(笑)。機械に任せられるものは任せればいい。だから人間と同じくらいの判断を下せるくらいにはドローンの脳みそを育てていきたいなと思います。低リスクで、低予算で、さまざまな情報をとって来られる移動ロボットはいろんな未来が開けていますよ」(伊豆さん)

■関連サイト

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