家中の電波時計の時刻が合う! NTP対応時計を衝動買い

文●T教授、撮影● T教授

2016年07月06日 12時00分

自宅や自室に電波塔を立ててしまえるハードウェアを見つけた!

筆者はダイソーの100円腕時計から、マトモな人なら値段を聞いただけで気が遠くなるような腕時計まで、おおよそ時計というモノが大好きだ。

たくさんの趣味の腕時計を集めてしまうと、一番問題なのは、すべての腕時計を装着する機会がなかなか回って来ないことだ。

極端にひどい場合は、年に一回だけ使う腕時計とかが存在することもある。これは別に腕時計に限らず、万年筆やメガネ、自転車やクルマだって度を越してコレクションしてしまうと同じ運命だ。

ただ、腕時計の場合に問題なのは、常にゼンマイや電池、腕力など、何らかのエネルギーで動作しているのが普通の状態だというところだろう。

そのため、長い時間が経って、自然とエネルギーショートになると、次に目的の腕時計を装着しようと思った時には、時分秒はおろか、日付も曜日もめちゃめちゃ狂って停止しているというのがごく当たり前のように起こってしまう。これがまた故障の大きな原因にもなることだ。

昨今では一般的なクォーツ駆動の腕時計を利用すれば、内蔵バッテリーがなくなるまで、2~5年近くはそういう目に遭うことはないが、必ずしもクォーツ駆動の腕時計が、昨今の腕時計として魅力的な腕時計であるかどうかは別問題なので余計に話は面倒なのだ。

結局、腕時計をコレクションするなら手巻きのゼンマイ腕時計で、カレンダー機能のないものがベストであることも、多少オツムが弱くても、長い間にはなんとなく理解できるようにはなるのだが、それもコレクションの視点から見るとあまりにも虚しい判断だと考えてしまう。

屋内では誤差が生じる電波時計の弱点

ただデカイだけで、福島県のおおたかどや山から発信されている標準電波をまったく拾えず、どんどんズレてくる自室のなんちゃって電波時計。大きな分だけ、時刻表示が狂ってると、ただイラついて邪魔なだけのハードウェアだ

そんな腕時計の世界でも、最初の開発から相当の時間の経過した電波時計は正確性、価格、種類の豊富さ、保守のいずれをとってもベスト・オブ・ベストな腕時計だろうと思う。

しかし、そんな電波時計も電波がなければ約50年前のテクノロジーを使ったただのクォーツ腕時計にすぎない。正確なはずのクォーツ腕時計だが、実際にはさまざまな商品があり、腕時計から置き時計までその誤差もさまざまだ。

実際に我が家には置き時計や目覚まし時計、腕時計など、20個ほどの電波時計があるが、先日、すべての表示時刻を調べてみたら、時報とバッチリと合っていたのはただの1台もなかった。基本、電波時計は最低1日に1回電波を受信できてなんぼの世界なのだ。

実際のところ、鉄骨のオフィスビルやマンションの部屋ではほとんど電波を受信しないと考えたほうがいいだろう。

これは昨今流行のGPS電波時計も同様だ。地球上のどこでも電波を受信できるわけではない。メーカーの説明ワードは「空が開けている場所なら」というのが共通の口上だ。これは今までの電波時計も何ら変わらない。

結局、電波時計は視界の広がる野外でもない限り、ラッキーか例外を除いて、受信できないと考えたほうがストレスなく過ごせるだろう。

そう考えると、家電量販店の大きなお店の中で展示している電波時計などはすべて狂っていて当然だが、お店によっては商売の大事なネタなので、すべてがすべてメチャ正確に秒を刻んでいることもあって紛らわしい。

そういう電波環境を提供しているのが、今回、筆者が衝動買いした「電波時計送信機能付き NTP対応時計」と同様のハードウェアであり、いくつかのメーカーから販売されているが、大半が業務用オンリーなので、なかなかありがたくない値段がつけられている。

日本標準時のサイトに行ってみたら、なんと筆者のパソコンは大きく遅れていた

言われるまま速攻で指示された時刻サーバーに合わせた

遅れていた筆者のパソコンの時刻がバッチリと日本標準時と合った

ちなみに、電波時計がリファレンスとする「日本標準時」という基準となる時刻は、情報通信研究機構(NICT)の日本標準時グループというところが決定、維持している。実際にNICTのウェブページには日本標準時の表示が常時されており、ネットに繋がったパソコンなら、その精度を見ることができる。

筆者も早速やってみたところ、筆者の日常使いのデスクトップPCの内部時計はなんと日本標準時よりも16.4秒も遅れていた。これはそのまま放置すると将来的にサーバーとのファイル同期などでややこしい問題を起こす可能性がないとは言えない。

早速、パソコンの時刻同期サーバーをNICTの運営するntp.nict.jpに設定し直して、速攻で誤差0秒にした。このように、ネットでは、セシウムビーム型原子周波数標準器や、複数の水素メーザ型や実用セシウムビーム型原子時計を使用し、常時日本標準時が発信されている。

一方、日本中にある膨大な数の電波時計や電波腕時計が参照している電波は、「おおたかどや山標準電波送信所」40kHz(福島県田村市都路町)と「はがね山標準電波送信所」60kHz(佐賀県佐賀市 富士町)の2ヵ所から、日本全土をカバーすべく常に送信されている。

しかし、電波はビルの影やコンクリートの建物の中までは届かないのが普通で、実際には、テクノロジーのスペックだけをいいように解釈して、思い込みで電波時計を購入した一般大衆の期待を一部裏切る結果となっているのが現実なのだ。

今回衝動買いした「電波時計送信機能付き NTP対応時計」
セットアップはケーブル2本をつなぐだけ

梱包材に包まれて送られてきた「電波時計送信機能付き NTP対応時計」。「Wonder Kit」って言葉が泣かせる。完成品だけど“キット”なのだ

さて、筆者が購入した「電波時計送信機能付き NTP対応時計」(型式P18-NTPLR 以降、NTP対応時計)は、昔、筆者が週末ごとに通った大阪日本橋に本拠のある「共立プロダクツ」のシステムハウス向けのソリューションプロダクトの一つだ。

“ソリューション”という言い訳を聞くと、基本的にはまったく信用しない筆者だが、今回のNTP対応時計は扱いも簡単で、安価で極めてよく考えられたシンプルなハードウェアだ。

ウェブで購入、配送されてきた製品は、シンプル過ぎる梱包材に包まれており、商品には、型番の最後に「新品」とあえて記述されていた。

カンと経験で直感的に、ここは信用できるな……なんて感じてしまう自分がすでにいってしまっている感じもする。

謎のCD-ROM(右端)を久しぶりに見た。内部はトラブルソリューション書類と訂正箇所のPDF、PDFの取説の3つだった。なかなか良心的だ

早速、パッケージを開いてみた。中から出てきたモノは、本体であるNTP対応時計、専用ACアダプター、商品の概要説明書、そしてちょっと心配になってくる「電波時計への時刻送信機能検査方法」というカラー印刷の紙、最後は中身が何なのかわからない真っ白いCD-ROMの5点だ。

NTP対応時計はイーサネットで自宅やオフィスのネット環境に接続することが大前提の商品ではあるが、実際の使用想定ユーザーの中にはパソコンからの設定は一切行なわず、NTP対応時計本体に用意された2つのボタンだけで、多機能デジタル腕時計の設定よろしく対処する使い方も考慮されているようだ。

このため、必ずしもパソコンが必要ではないが、パソコンがあったほうが各種設定は極めてイージーであることも事実だ。

ACアダプターケーブルとイーサネットケーブルの2本をつなげばセットアップはほぼ終わり

NTP対応時計本体には、2本のケーブルを接続する。一つは本体を駆動するための給電を行なう専用ACアダプターケーブル。もう1本は、既存のルーターのRJ45ポートに有線接続するイーサネットケーブルだ。

最初は、7セグメントディスプレーには何も表示されないが……

しばらく待って、SNTPサーバーに接続されると現在時刻が表示される。筆者の場合は、はじめから国際標準時ではなく+9時間の日本標準時が表示された

NTP対応時計は、出荷時初期設定では公開されているSNTPサーバーである「pool.ntp.org」をネット経由で参照して、本体正面に用意された8桁の7セグメントディスプレーに現在時刻や世界標準時との時差設定などを表示する。

電源投入時はには7セグメントディスプレーには何も表示されていないが、特に問題がなければ、何秒か後には表示は自動的に現在の時刻表示に変化する。

背面には壁掛け設置のフックが用意されている。寸法図はCD-ROMにある

今のところ筆者はNTP対応時計をテーブルの上に仰向けに仮置きしているが、壁面への貼り付け設置が推奨だ。背面には壁面への引っ掛けフックが2個用意され、説明書にネジ位置の詳細図面も用意されている。

パソコンやスマホのブラウザーから詳細設定を行なう

NTP対応時計の概念図。電波アイコンの上にある2つの黒いボタンでパソコンなどがなくても各種設定ができる

前述したように、同じネットワーク環境にあるパソコンからのコントロールではなく、NTP対応時計の表面にある2個の小さな黒いボタン(「INC/IP」と「MODE」)をデジタル腕時計のベゼル上のボタンのように、多少アクロバティックに操作することで、各種設定が可能な構造にもなっている。

手先の不器用な筆者は、設定の大半を同じネットワーク内のデスクトップPCとスマホの両方から行なった。

まず、NTP対応時計を操作するためには、NTP対応時計に対してルーターからDHCPで割り振られたIPアドレスを知る必要がある。

左側の「INC/IP」ボタンを押すと、DHCPでルーターから振られたIPアドレスを横スクロールしながら表示してくれる

IPアドレスは状況によっては変わることがあるので、操作の前に、本体に用意された左側のボタンである「INC/IP」ボタンを押すことにより、現在、割り振られているIPアドレスを画面上に表示してくれる。

表示されたIPアドレスを同じネットワーク内にあるパソコンやスマホのブラウザーに入力すると、NTP対応時計とコミュニケーションできる

「Network Configuration」と「Time Configuration」を見たり編集するには認証が必要だ

このIPアドレスを同じネットワーク内にあるパソコンやスマホのブラウザーで直接入力することによって、NTP対応時計を見ながら操作することが可能となる。

実際にNTP対応時計に接続して見たり設定できる項目は、「Overviw」と「Network configuration」、「Time configuration」の3つのブロックだ。

Overviewは名前の通り、この商品の概要や技術的スペックを閲覧可能。「Network configuration」や「Time configuration」の内容を見たり変更するにはadmin権限でログインすることになるが、初期パスワードは取説に記述されている。

Network Configurarionはむやみにいじって保存してしまうと正確な時間を表示できなくなる危険性も高いので注意。基本的にはそれほどいじる箇所はない

Time Configurationは世界標準時との時差や、送信周波数、送信出力(電波の到達距離の大小)などを設定できる一番重要な画面だ。送信出力の「99」表示は最大を示す10mの飛距離を表している。最低は「0」で送信しない設定だ

「Network configuration」はNTP対応時計のMACアドレスやIPアドレスの詳細、NTPサーバーの指定などが記述されている。

そして最後の「Time configuration」は、国際標準時(グリニッジ)との差異や標準時に対応した電波時計用の電波をNTP対応時計が発信する時の電波の到達距離(最大10m)、送信周波数の選択(40kHz・60kHz)などを設定可能だ。

スマホやタブレットからもNTP対応時計を管理できる

パソコンがなくても同じネットワークにWi-Fi接続しているスマホがあれば、そこからも同様の操作ができる。

本体の2つのボタンだけでも各種設定はできる。画面は無線電波(RF)をオン(on)にしたところ

部屋中の電波時計の時刻が合うようになった!

現在の日本標準時の表示(HH:MM:SS)と世界標準時からの時差(+9HR)を表示したモード

パソコンからの設定項目にあったように、NTP対応時計は、インターネットから受け取った正確な時刻を、周囲にある電波時計が読み取り可能な40kHzか60kHzか、いずれかの電波に変換して、最大で10mの距離まで発信することができるハードウェアだ。

それゆえ、10m以内にある電波時計は、いつでも正確な電波を拾ってみずから時刻を正確に修正することが可能となる。

カシオの「MR-G」電波腕時計と見事に合っている。以前は、運がいいと電波を拾う程度だったが100%確実に拾うようになった

デイトレーダーなどが、広い部屋で複数の壁掛け電波時計を使用して、時差の異なる各国の取引所の正確な時刻を表示したい要求があるなら、1m以上の間隔に設置した複数の電波時計のそれぞれの1m以内に、世界標準時との誤差を個別に設定した複数のNTP対応時計を設置すれば、理論的には完璧な世界時計が実現できる。

その場合、パソコンやスマホ経由なら、前述のTime Configurationの設定に入り「時差設定」をそれぞれの国に合わせて設定し、電波時計の対応度や使用場所によって、送信周波数を40kHzか60kHzに設定、送信出力をミニマムの「1」に設定すれば可能だろう。

1m以内の電波時計に対してのみ、設定された時差を考慮した正確な時刻を電波で送ってくれるはずだ。

また、本来の使用方法とは多少ずれるが、NTP対応時計に正確なインターネット時計としての機能だけが必要で、電波を出す必要がまったくなければ、同じく送信出力を「0」とすれば電波出力を停止することができる。

同様の設定は、同一ネットワーク内にあるパソコンやスマホ経由でなくても、電波のオン/オフをはじめ飛距離の設定、国際標準時との時差の設定など、すべての操作を本体のボタンの操作で可能だ。

電波時計使いは絶対に欲しくなるハードウェア

60kHzと40kHzをスイッチで切り替える安価な古いタイプの電波置時計

昨今販売されているほとんどの電波時計は、自動で40kHzと60kHzを選択して調整する。しかし、一部の古い電波時計などでは、ユーザーがそのいずれかをスライドスイッチなどで設定する必要のあるものもある。

必要なものにはこれらの調整を行ない、筆者宅では、このNTP対応時計を導入後、家中の20台を越すすべての電波時計が、秒レベルで気持ちいいくらい同じ時刻を示すようになった。

今までなるべく見ないようにしていた自室正面の電波時計がメインの時計に返り咲いた。元々安価な商品なので、1日に1秒くらいは狂っていたが、同じ状況でも、毎日後以前6時にはせっせと時刻合わせをして、深夜までは秒差もゼロになった

NTP対応時計を導入後、我が家の電波時計は20数台、すべて完璧な日本標準時を表示するようになった。これは凄い変化だ

なお、時差設定が-12時間~+14時間の1時間範囲なので、時差に60分以内の短い単位を取り込んでいるテヘランや北朝鮮、ネパールなどの国には対応できない仕様だ。

不要な人には人生を通して不必要な機器であり、しかし、欲しい人には何をさておいても絶対に欲しいハードウェアである「電波時計送信機能付き NTP対応時計」は筆者にとって久しぶりに興奮するハードウエアであった。

姉妹機には価格が少し安くて限定した機能が必要な場合に便利そうな、電波の飛距離が1mのモノ(P18-NTP)もあるが、筆者のようにミーハーで家中の電波時計を問答無用に合わせたいなら、悩むことなく「Long Range」の文字が心強い飛距離10mの当製品(P18-NTPLR)だろう。

もはや電波の来そうな場所を探して、電波時計を持って家中を歩きまわる時代は終わった。今日からは自宅や自室に電波塔を立ててしまえばすべては解決なのだ。

今回の衝動買い

アイテム:電波時計送信機能付き NTP対応時計

価格:共立エレショップにて1万9440で購入


T教授

 日本IBMから某国立大芸術学部教授になるも、1年で迷走開始。今はプロのマルチ・パートタイマーで、衝動買いの達人。
T教授も関わるKOROBOCLで文具活用による「他力創発」を実験中。

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