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まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第55回

劇場版BD発売中! 今あらためて「大洗」と「ガルパン」を考える

ガルパン杉山P「アニメにはまちおこしの力なんてない」

2016年08月06日 17時00分更新

文● まつもとあつし 編集●村山剛史/ASCII.jp

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「アニメでまちおこしなんてできない」

杉山 基本的にわたしは(アニメ)コンテンツでまちおこしとか地域復興はできない、と思っています。なぜかというと、普通に考えればよくわかるんですが、たとえば深夜枠のアニメーションって(放送は)夜中の2時とか3時じゃないですか。視聴者層がものすごくセグメントされています。ほとんど男性のアニメマニアしかいないわけです。

 そういう枠の特性がある上に、視聴率1%取れば成功と言われます。ドラマみたいに10%は要らないわけです。深夜で、視聴率1%で、セグメントされた人たちが見ている作品を、1クール12本・30分放送して影響力があると思いますか?

 ない、と思うんです。よくコンサルの人たちが“コンテンツツーリズム”って言いますが、後付けならわかりますけれど、コンテンツツーリズムを前提に、行政を巻き込むのは(わたしは)すごく反対なんです。

 だからよくそういう話が来るんですけれど、違います!ってずっと否定して回っています(笑) 我々はそんなおこがましいことを考えていませんでしたと。我々は面白い作品を作るための努力はできるけれど、それ以上のことはできませんとずっと言い続けていたんですね。

―― ロジカルに考えて、深夜アニメとまちおこしがつながらないというのはまったく仰る通りだと思います。きっかけであって、コアな人たちが来て、町を好きになってくれても、そこから先はコンテンツとしてできることはあまりない。

杉山 ないですね。面白い作品を作るしかないので、我々は。最低限の条件は、作品がヒットすることですが、ガルパンはオリジナル作品だし、我々はそこに絶対の自信はなかったんです。(ヒットする約束を)先物取引のように、舞台となる町との交渉材料には使えません

―― 逆に、大洗での盛り上がりは、当初は一部のコアなファンのみだったと思いますが、その後あんこう祭の盛況ぶりが新聞やテレビで伝えられました。そのことは、作品のさらなるヒットに貢献しているわけですよね。

杉山 それは客観的にとても貢献していると思いますけれども、我々からすれば大洗をプロデュースした気持ちは全然ないんです。なぜならテレビシリーズで初めて大洗が登場するのは第4話なんですよ。

 常盤さんも4話まで大洗が出てこないことを、どう町の人に話そうかと考えていたらしいですけれど(笑) 作中で大洗って言葉もほとんど使っていません。学校の名前としては出ていますけれど、“大洗のここが”といった紹介はほとんどなく、第4話でも試合会場として使っているだけで大洗町をそれほど積極的にアピールしたつもりはありません。

 あくまでも“リアルな町並みを描くため”。ただそれを見て、「どうも大洗って町があるらしい」ということで、あんこう祭にもたくさんの人たちが訪れてくれたのは予想を超えていました。

運と偶然が重なったあんこう祭

杉山 祭りにあわせての電車やバスのラッピングは自分たちでやりました。作業しながら常盤さんと話していたのは――これ、あとから聞くと良い話に聞こえちゃうけれど――「どれくらいファンが来るんだろうね。1000人来たら泣いちゃうよね」って。本当にそういう話をしていたんです。

 そのときに初めてグッズも作りました。キーホルダーのようなささやかなものです。数も(来場者の)2割か3割は買ってくれるかも、ということで2~300個しか用意しなかった。だからあっという間になくなってしまいました。それくらい我々には予測がついていなかったんです。

ラッピングもおカネがないので、住友スリーエムさんに電話して「(御社の)ロゴをバスや電車に貼りますから、ラッピング用のフィルムロールを無償でご提供いただけませんか」とお願いしました。さらに知り合いのツテで、ラッピング施工会社が破格の値段で出力してくださいました。で、「あとは自分たちで貼りますから」と始めたのですが、うまく貼れない。すると出力してくれた会社がワザワザ来て貼ってくれたんです。

 普通はそのまま貼れずに終わりだったと思うんですよ。綺麗事ではなく、善意に支えられて迎えたあんこう祭だったんです。

 それをきっかけに大洗町に来る人が増え始めて、なんとなく町の人たちも「なんか最近人が多いね」と。常盤さんにも問い合わせが少しずつ入るようになった。でも、まだその程度だったわけです。

現在はラッピングバスが常時運行中(茨城交通)

あくまでもフィフティ・フィフティの関係

―― グッズを小ロットで作ることも通常は難しい面があると思います。数が少ないとそれだけで単価が高くなってしまったり……。

杉山 ところが地方には、小ロット対応の小回りが利く記念品屋さんのような存在があるみたいなんですね。

―― グッズの話ですと、大洗でのロイヤリティーの料率やMG(最低保証料)はどのように処理されていたのでしょうか。特別な許諾のプロセスがあったのですか?

杉山 弊社とムービックさんが商品化の窓口権を持っていますので製作委員会に報告はしますが、オリジナル作品なのでわたしたちのハンドリングで進められます。ロイヤリティーは当然必要ですが、MGについては大洗だけではなく――ケース・バイ・ケースですが――ガルパンに関しては商品化にあたってMGをいただいたことはほとんどないですね。

―― 大洗が一種の“特区”というわけではなく?

杉山 プロモーションタイアップなどを除けば、いただいたことはありません。

―― 大洗のグッズ販売についてはMGはなしで、売上に対するロイヤリティーは設定されていた?

杉山 設定していました。そこも最初に常盤さんと握りあったところなんですが、50:50(フィフティ・フィフティ)の関係は維持しましょうと。先ほどの“町を巻き込まない”と言い始めていたころですね。

 「我々も町には必要以上に甘えません。だから町の皆さんも我々に必要以上に甘えないでください」と。どちらかがどちらかに甘え始めた途端に、関係はきっと不健全になります。だから我々は大洗だからといって、特別扱いはしません。いや、もちろん舞台として特別扱いはしますが、ロイヤリティーは(設定を低くして)いただきます、という話をしました。

 いまでもその話は変わっておらず(大洗でのグッズ販売でも)ロイヤリティーは全部払ってもらっています。

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