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第1期電王戦第2局もPONANZAの勝利、第2期叡王戦に羽生名人参戦で最強対決実現か?

2016年05月24日 15時00分更新

文● いーじま 編集●ジサトライッペイ

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終局後のインタビュー

PONANZA開発者・山本一成氏

――対局前に序盤がどうなるか注目していましたが、いかがでしたか?

 かなり不安だったんですが、なんとか互角程度の序盤で収まって、☖5四歩と突けたので抑えこまれるのはカンタンではないなと安心して見ていました。

――2日目の進行はどうでしたか?

 69手目☗1三歩☖同玉の辺りは、香車を走られたら玉が浮いてしまって、コンピューターも間違えやすい局面で不安でした。本譜は、☗6五歩となったため、また元の位置へ玉が戻り良かったと思いました。

――叡王相手に2連勝したことについて。

 非常に光栄です。

叡王・山崎隆之氏

――初手☗7六歩からの序盤は想定通りに進んだのでしょうか?

 想定通りはまったく進みませんでした。思いつきだったので。相掛かり系の将棋にしようかなとは思っていたのですが、予定通りにはいかなかった。プロなのでもう少し先手番なので工夫して、もっと攻撃的に動けばよかったと後悔しました。ちょっと守勢になって失敗しました。途中は辛抱して一気に持っていかれないようにしていました。

――封じ手でかなり時間を使いましたが、誤算があったのでしょうか?

 中盤あたりで読み筋を抜けてしまうと、すぐに脇道へそれてしまう癖が出てしまった。対人戦のときに読み筋にないような手を指してしまうのですが、ふだんの実力が出てしまった。それなら最初から素直にいっておけばマシだった。後悔しながらも自分のやってしまったミスなので、どういうふうに耐えようかなと、一気にダメと思われないよう、辛抱して指そうと苦しんでいました。

――2日目も時間を使っていましたが。

 こちらのほうが王様も薄くて、見た目も苦しいので、少しでも隙を見せてはダメなので、隙を見せずになんとか勝負できる形にしようと思っていた。時間は間違えてしまうと使うところがなくなってしまうので、気にはなっていましたが仕方がなかった。

――はっきり苦しいと思ったのは?

 ☗7九角から☖5七とで少し自身のない局面だったのですが、どう攻められるのかと、最初はこれで意外とギリギリなのかと思ってみたものの、読んでみるとちょっと苦しかった。長く耐えようと思っていたのですが、ダメなら走って勝負するしかないかなと思った。

――2連敗で終えてしまったことについて。

 前回も失敗してしまいましたが、今回は先手ですので、事前に準備して主導権を握る戦いはできる人にできたと思います。そこは人としての責務だし、できなければならない。普段どおりの弱点を露呈してしまい、言い訳はできない。頑張りましたが、自分の実力いちばん足りないところが、重要なところで出てしまい、電王PONANZAの強さに対して、パッと指せずちょっとひねってしまった。普段の積み重ねが足りない証拠であり、そこを咎められた結果だと思います。完敗でした。

記者会見の模様

――本局の結果について。

PONANZA開発者・山本一成氏

 勝ててスゴい嬉しいですね。お話を聞いていると、PONANZAの研究をされていたみたいですが、直前で回避されたとのことでホッとしました。もう少し山崎叡王が、邪悪に来たらちょっと危なかったのではないかと思っています。

PONANZA開発者・下山 晃氏

 本局もPONANZAが力を発揮できるような展開になって一安心であり良かったと思います。途中PONANZAにも怪しい指し手があったと話を聞き、そのあたりは今後の課題の1つかなと思います。

――本局を振り返って。

叡王・山崎隆之氏

 やはり強いというのは知っていて、序盤からペースを握られて辛抱していたのですが、自陣を整備するような落ち着いた指し回しを指された。昔先輩が強い人は戦っているときに自玉に手を入れているものだと言われたことを、PONANZAに思い出させてもらった。先輩と違ってソフトに言われると、対局中に新鮮な気持ちになりました。

――本局の総括を。

立会人・福崎文吾九段

 コンピューターと人との対決では初めての立会でしたが、両陣営とも正義正しく公明正大に戦っていただけたことを大変嬉しく思っております。無事に大きな勝負でしたが、2日間という長い戦いを正座を崩すこともなく両陣営紳士に戦っていただき、この目でしかと見届けさせていただきました。無事に終わってよかったと思います。

――本局を振り返っての感想を。

日本将棋連盟会長・谷川浩司氏

 番組の方に出演したときにお話しましたが、PONANZAは常に積極的でありまして、1日目の段階で、山崎叡王がもっと突っ張って戦えばと見ていました。局面を落ち着かせる手順を選んだために、作戦的にも損をして、その差が結局縮まらずにいってしまったのかなという印象を持ちました。

――第1期電王戦を終えてどうでしたか?

PONANZA開発者・山本一成氏

 電王戦FINALで終わりかとおもいきや、続いたので盛り上がりました。電王戦で電王を決める戦いもすごく楽しかったのですが、プロ棋士どうしの叡王戦が、普段なかなか生で見られないプロ棋士の方々がだいぶおもしろかったです。

叡王・山崎隆之氏

 叡王戦にエントリーをしたときは、まさか優勝して電王戦に出さしてもらえるとは思ってもいなかった。なので伸び伸びとさせていただきましたが、対戦ソフトがPONANZAに決まったとき、強いと聞いていたので知っていたのですが、ソフトを貸していただき対戦する中で、ここは人が勝っているだろうと思う部分がなくなってきていることを実感しました。ほんとに厳しい戦いになると思っていました。最高の環境で戦わせていただくので、人間が勝っている部分にこだわって見せなければならないという気持ちと、将棋の勝負なので、自分が選んだ納得のいく手で勝負したいという気持ちとが揺れ動きながら、こんなに新鮮な気持ちで自分を見つめなおさなければいけないと思いました。相手がすごく強かったこともありますし、私利私欲のない将棋を指してくるPONANZAと対局して真剣勝負ができたので、そういう気持ちに帰れたのかなと思います。まだ勝っている部分をしっかり見せられなかったのは、少し実力足らずでした。

日本将棋連盟会長・谷川浩司氏

 叡王戦を通じてニコ生で数多くの棋士の対局姿が見られて、プロ棋士どうしの対局もコンピューターと同じようにおもしろいのだと認識していただけたかと思います。その中で電王戦でまず驚いたのが、PONANZAが☗6五桂とタダで捨ててきた手には驚愕しました。あの負け方をしたことで、第2局も山崎叡王が厳しい戦いになると覚悟していました。今回はプロ側が完敗と認めざるを得ないかと思います。

ドワンゴ会長・川上量生氏

 将棋の世界だけでなく、囲碁の世界でもコンピューターとの戦いということで世の中に話題を振りまいています。コンピューター対人間の関係、それは争いなのか協力しあうのか、社会的にも大きな注目を浴びている中での開催で不思議な縁を感じています。第1期電王戦を中尊寺と延暦寺といった世界遺産の会場でできたことは、彩りを添えたのではないかと思います。開催するときからわかっていたことですが、長い歴史の中で考えると、人間とコンピューターでは、コンピューターのほうが有利であるだろうと言う方が多く、その中で電王戦を開催していたのですが、コンピューターのほうが有利になっていく過程ではだんだんはっきりしてきたのではないかなと思います。では人間がどのように戦っていけるのかということを今回の電王戦で示せたのではないかと思います。

――練習でどの程度PONANZAと対局したのか?

叡王・山崎隆之氏

 ほとんど20秒から30秒の早指しでやったので、正確なところはわからない。2月や3月半ばは試合が多かったので指せなかったのですが、ふだん家にいるときは指していました。長時間は難しかったのですが。4月からは少し持ち時間を付けてやりましたが何局かはわからないですが。持ち時間8時間での練習は出だしの30手ぐらいはやりましたが、通してはやっていません。

――練習の結果、勝率はどんな感じでしょう?

叡王・山崎隆之氏

 最初はぜんぜん、特に早指しだと勝負にならなく、いままで見たことのない形になるので。だんだんやっていくうちに、見慣れた形では良くなったり、最後まで間違えずにいくことはあまりなかったですが、間違ったところで一度止めて指し直すと、だんだん似た経験が増えてきて、その見慣れた戦型になれば、勝率が上がってくるかなと思いました。将棋は一局を通して間違えずに指すのは難しく、どこかで止めながらポイントポイントでやっていく感じでした。PONANZAの好みを形によって把握していくと良くなることが多かったので、それを重点にやっていました。

――人間が勝っていたと思われていた部分がそうではなかった点は? まだ勝っている部分は?

叡王・山崎隆之氏

 認識不足だったとは思いますが、ソフトはどんどん攻めてくる印象で、無理気味でも攻めてくると思っていた。じっとした隙のない戦いは先に無理攻めを仕掛けてきて、隙なく指す戦いは人間のほうが有利だと思っていました。しかし、まったく違っていて、本局はためになる駒組みでしたが、駒を動かさずに隙間を埋めていくようなじっとした指し方が、PONANZAに関しては強く人間より多かったので、そこはイメージと違ってびっくりしました。人間が勝っている部分は、ソフト自体は人間の力によって開発されるので、ここで進化が止まってしまうと仮定するならば、人間とコンピューターは将棋の上ではかなり違う点もあるので、そこの認識の隙間を埋めていくと、特に序盤中盤に関して埋められれば、差がなくなってきて良くなることが結構あるので、人間側の有利なことではあります。ただし、進化させてしまったら有利になるかどうかわからない。

――山崎叡王が邪悪に攻めたら危なかったそうですが、山本氏自身PONANZAの弱い部分はどこだと思いますか?

PONANZA開発者・山本一成氏

 人間と戦うとき用の戦法を山崎叡王は使ってきたので、恥も外聞もなく来られたら怖かった。電王戦FINALの村山慈明七段のときは、そういう感じだったので今回もそんな感じかと思ったら、人間どうしでもある序盤かなと思ったので、安心できました。

――それは過去に前例のない手が来ると混乱してしまうということでしょうか?

PONANZA開発者・山本一成氏

 どうしても評価関数は歪みが生じていて、この時だけ間違える、勘違いしているという時がある。だいぶ頑張って埋めてはいますが、歪みは消えていなくて、見つけられているとは思うんですが、実践でそれが出てくるとも限らないし、ためらいを感じていたのではないかと思います。そこを突くか突かないかは、棋士の将棋に対する考え方、人生観もあるので、やるかやらないかはその人次第ですが、対戦相手としては、突かれてくるほうが怖かったですね。

 ――以上、筆者も第1期電王戦を第1局、2局両方を観戦してきたが、PONANZAはほとんど玉が危うくなることもなく、谷川会長の仰るとおり叡王の完敗だったと思う。コンピューターに長けたプロ棋士が戦った場合、どこまでいけるのかは興味深いが、また来年にはさらに強くなることを考えると、プロ棋士側の努力は生半可ではいられない。

 ただ、若い世代はこういった強いコンピューターで練習できるので、対コンピューターでも物怖じすることなくすんなり戦えるかもしれない。今回はPONANZAの強さだけが目立つ形になってしまったが、プロ棋士もこのままでは引き下がれないはず。来年は奮起して1勝はしてほしいところだ。

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