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「富士通フォーラム 2016」に見る実装例

富士通のAI技術「Zinrai」でどんな世界が創られる?

2016年05月20日 07時00分更新

文● 川島弘之/TECH.ASCII.jp

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“つながるクルマ”の安全運転に向けて

 自動車分野にもAI技術の適用を進めている。

 人とクルマの安心安全をめざす「Mobility IoT Platform」では、学習・成長するクルマを実現するため、自動車のプローブ情報を収集蓄積し、クラウドAIによる学習結果を車載システムへフィードバックする仕組みを提案している。プローブ情報は多岐にわたるため、何の情報をどのように分析すると有効活用できるか現在研究を進めているところだ。

 さらに工事中、事故、破損など刻々と変化する道路状況や、将来的には交差点の人の流れまでを「動的地図」として更新・配信する技術や、コネクテッドカーとクラウドでやり取りされる情報の改ざんを防ぐセキュリティ技術の研究開発も進めている。

 特にクルマでのセキュリティ侵害は、事故につながる恐れもあるため、これまでにも増して高い堅牢性が求められる。寿命の長い車をずっと保護していくためには、陳腐化しないように技術を刷新していく仕組みも必要だ。将来的には、セキュリティのパターン学習などにも、Zinraiが活躍できるだろうとのこと。

車載システムやクラウドを連携させたセキュリティのコンセプト展示

企画から設計・開発、運用までトータルなセキュリティソリューションを提供する

 自動車関連では、安全運転を支援するデモも行っていた。運転手の視線・視野を検知し、脇見や危険物の見落としを通知したり、視線の不安定な動きから疲労度をスコア化し、情報の通知方法を変えたり――。座席に取り付けた心拍センサーで眠気などを見守り、クラウドと連携して、後の運転改善アドバイスや健康管理支援に活かす例も紹介していた。

視野検知技術で危険物のみ落としを通知する。座席には心拍センサーを設置

ドライバーの体調変化や見落としを検知

運転記録とライフログから健康管理支援も

AI技術を組み込んだ銀行ATM

 金融関連では、ATMにZinraiを組み込んでいた。「感性メディア技術」と呼ばれるAI技術により、詐欺被害から高齢者を守り、操作に迷った顧客をサポートするなど、「ATMが利用者に寄り添う」とアピールしていた。

 具体的に、ATMに設置されたカメラで利用者の「視線検出」を行い、よく操作に迷っている/視線の動きが不安定な人には、ATM画面を大きく表示したり、よく使うメニューをトップ画面に表示したりする。リアルタイムに顧客の視線が確認できるので、行員による声がけも含め、状況に応じた対応が可能になるという。

 併せて、通話分析技術も展示。電話での会話音声を分析し、強いストレスを受けている過信状態と、詐欺に特徴的なキーワードを検出することで、振り込め詐欺の被害を防ぐ。将来的には通話から振り込め詐欺が疑われる場合、ATMと連動し、行員に通知したり、ATM操作そのものをロックしたり、被害の発生を抑止できる仕組みにしたい考えだ。

AI技術を組み込んだ銀行ATM

振り込め詐欺の被害を防ぐ通話分析技術も展示

あなたの“ほしい”が見つかる鏡

 これらはAI技術を活用した顧客接点強化の一環だが、「顧客接点」という意味では小売業への適用も見込まれる。

 小売分野では、あなたに“ぴったり”をオススメするセルフ端末を展示。店舗の売り場などに置くセルフオーダー端末にZinraiを組み込み、消費者の属性(性別・年代)や視線などのセンシングデータと、券売機の利用実績データを組み合わせ、消費者の“今”の興味に合わせたレコメンドを行うことで、効果的なプロモーションを実現するという。

 また、あなたの“ほしい”を鏡に映す「ミラーサイネージ(仮称)」も展示。アパレルショップなどの鏡と、MD・ECや顧客管理システムを連携させ、RFIDタグがついた商品をミラーにかざすと、「この商品の特徴は?」「他のサイズや色はあるの?」「この商品に合う組み合わせは?」「他に似た商品ないかな?」といった情報を表示する。「鏡よ、鏡、鏡さん、私が今一番欲しいものはなーんだ?」というわけだ。消費者に最適な商品を提案できるほか、消費行動分析など新たな分析軸への活用も可能という。

あなたの“ほしい”を鏡に映す「ミラーサイネージ(仮称)」

AI技術の活躍の場は、思ったより幅広い

 Zinraiは、「知覚・認識」「知識化」「判断・支援」という3つの要素で構成される。具体的には、それぞれ「人のように五感を駆使し、人の感情・気付き・気配りまでも処理する感性メディア技術」、「人が理解する知識のみならず、機械処理できる知識を創り出す技術」、「スーパーコンピュータをも活用して社会やビジネス上の課題を数理的に解決する技術」と説明されており、今回の展示では、これらいずれかの技術を実装したものに「Zinrai」のプレートが掲出されていた。

 展示会ではほかにも「画像をAIで分析し駐車場の空車・満車を判別する」、「IoT活用による工場全体の見える化する」、「Webサイトの行動データを学習・分析し、最適なコンテンツの自動レコメンドを実現する」、「大規模イベントやゲリラ豪雨、事故時に人々を誘導し混雑を緩和する」、「船舶ビッグデータから燃費を最適化する航路を解析する」などの実装例が紹介されている。

 AI技術というと、自ら考えながら人間と流暢に会話するモノが思い浮かぶかもしれないが、産業用途ではそれ以外の技術要素からも構成され、より多くの、かつそうと気づかないほど身近なシーンで活躍する技術となっていくのだろう。

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