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日本のITを変える「AWS侍」に聞く 第21回

情シスもメディアもクラウドコミュニティに巻き込み中

IT業界のデストロイヤー長谷川秀樹さんとJAWS DAYSで語る

2016年06月01日 15時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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なぜか2つあったメールシステムをGoogle Appsにリプレース

大谷:で、「わしが長谷川やでー」ということになり、最初にやったのは?

長谷川:今と違って、そんなに偉そうじゃなかった(笑)。そのときはIT部門自体もなくて、毎日ほかの部署の部長に頭下げに行った。けっこう好かれたと思うね。

東急ハンズ執行役員・ITコマース部長、ハンズラボ 代表取締役長谷川秀樹さん。実はけっこう偉い人です

大谷:腰低いキャラだったんですね。当初は。

長谷川:向こうも期待するじゃん。おおっ、プロが来たみたいに。で、2008年の5月に入社して、IT部門ができたのが半年後くらいかな? 最初は半年くらいかけてGoogle Appsの入れ替えから始めた。

大谷:クラウドの先行導入事例で、よく記事にも出てますよね。

長谷川:当時、メールが2つあったんですよ。なんでかわからへんけど。社内しか使えないサイボウズのメールと、外にも出られるOutlook。奥は大手メーカーのASPサービスで、僕が入社した2~3ヶ月前に入れ替えたばっかり。10MBくらいしか容量のないださいやつだった。それをGoogle Appsにリプレースしたんで、まあ大手メーカーの担当者は怒ってましたよね。

大谷:そりゃ、数ヶ月の命だったわけですからね。リプレースは簡単だったんですか?

長谷川:簡単ですわ。僕、前職の最後の方は営業やったんで、システムはそもそも素人。Gmailのビジネス版があるからということで、問い合わせしてみたら、3週間後くらいたって営業から連絡きた。そこで営業さんはGoogle Mapだったら、こんなこともできるとか的外れなこと言ってたけど、まあええかなと思って比較検討なしで導入した。メール移行もしない。

大谷:しないんですか?

長谷川:昔のメール読みたかったら、Outlook開けばええやん。なんか問題あるのと。でも、僕も細かいところは工夫してて、部署に必ず一人いるそういう製品好きな人を今で言うアンバサダーにしたんです。そういう人たちをGoogleに連れて行って、未来を見せて、アカウントも早めに発行した。

大谷:なるほどねえ。

長谷川:こうするとなにが起こるかというと、アンバサダーが「Google Appsめっちゃいいから、乗り換えた方がええで」という活動を勝手にやってくれる。押しつけるとみんないやがるけど、チラ見せで少しずつアンバサダーに使わせていくと、けっこうええなあってなるんです。そもそもGoogle使ってるって、なんかかっこええやん。

大谷:個人でGmail使っている人もいるので、親しみやすいですよね。

長谷川:そうそう。当時はクラウドも出たばかりだから、WBSさんとかも取材に来はって、「サーバールーム見せて」とか言われました。で、ディレクターみたいな人から「このサーバーが全部なくなるんですね」と言われたんですが、ASPだったんですでにメールサーバーはなかった。とはいえ、サイボウズさんのメールサーバーはなくなるので、この1台はなくなりますと言ったら、「うーん。インパクトがないな」と(笑)。それでも「すごいことなんですよね」と言うから、「お、おう。す、すごいことです」とか言いました。まあ、クラウド導入するだけで、テレビが取材に来た時代でしたわ。

AWSの小島さんは半年でクビだと思ってた

大谷:で、次にAWSの導入ですよね。意外と最近なんでしたっけ?

長谷川:僕がAWS知ったのは、2009年とか、2010年ですねえ。

大谷:きっかけはなんですか?

長谷川:AWSの小島英揮さん。僕が導入企業側、小島さんがAWSについて話すという丸山先生の夜の勉強会です。夜の勉強会言うても、“あっちのほう”やないですよ。

大谷:聞いてないです(笑)。

長谷川:いやあ、大谷さんのサメの頭見てると、どうしても下ネタ言わんとあかんのかなあと(笑)。

サメのかぶり物を見ていると、どうしても下ネタに持っていきたくなるらしい長谷川さん

大谷:人を勝手にイロモノにしないでください(笑)。で、小島さんの話でしたよね。

長谷川:そやそや。最初に聴いたAWSの印象はレンタルサーバー。これは売れんなと(笑)。小島さんは半年でクビや、間違いない。「ちーん、小島さーん」って思った。

大谷:ひどい(笑)。

長谷川:なんでかというと、前職で外資系ERPのパッケージ売ってて、外資系への風当たり強いのわかってるから。(AWSも)所轄の裁判所デラウェア州って書いてある段階で、「そこまで行って訴えるか、ボケ!」と思ってしまうわけです。

大谷:デラウェアってどこやねんと。

長谷川:ブドウかよ!って話なわけです(笑)。アプリケーションですら抵抗感あるのに、インフラが米国にあるなんて、B2B向けには絶対売れへんなと。でも、そのときの小島さんの受け答えは印象的だった。クラウドが嫌いなSIerは、どこで勉強してきたか、「クラウドのSLAやセキュリティはどうなってるんですか」と聞きやがるんですが、僕はユーザー側なので、「じゃあ、お前のところで使っているベンダーのSLAやセキュリティはどうなってんのや」と聞ける。

大谷:オンプレシステムのSLAの話ですね。

長谷川:「お前らどうせ使っているベンダーとSLAなんか結んでないやろ、ボケ!」とか、「なんでクラウドベンダーにだけSLA求めてんじゃ、ボケ!」とか、「お前のところのファイアウォールのファームウェアちゃんと更新してないやろ、ボケ!」いうのを心の中で思いながら、目の前に人にはやわらか~く言うわけですよ(笑)。

大谷:あくまでやわらか~くは重要ですね(笑)。

長谷川:当時、AWSは日本オフィスができたばかりで、社員も小島さん1人だけという時代。「SLAやセキュリティは大丈夫か」と聞いたら、普通は「大丈夫です」「グローバルではこんな実績がある」とか言いたくなる。でも、小島さんは「大丈夫です」とも「大丈夫じゃない」とも言わない。全部受け入れて、みんながむかつかないような回答をするんですよ。この人すごい。外資系パッケージを売る天才やなあと思いましたね。でも、売れないよなと。

大谷:小島さんはすごいけど、やっぱり売れないんですね。

長谷川:正直、当時のAWSって、EC2のメモリが8GBくらいしかなかった。うちは64GBメモリくらいのサーバーで、性能の高いシステムを組もうとしてたから、そのスペックでアウトだったんです。でも、2年後に小島さんに聞いたら、EC2のスペックもめっちゃくちゃ上がってた。

大谷:小学校の時、イマイチだった女の子が、久しぶりに会ったらいきなり美人化してたみたいな(笑)。その頃には東京リージョンもオープンしてますね。

長谷川:そうです。そうです。ほんなら、入れるわということで、2012年に入れた。でも、いきなり全部クラウドは不安だったんで、AWSの営業に業者を紹介してもらったんです。クラスメソッド、アイレット(cloudpack)、サーバーワークスとか紹介されて、社名がわかりやすいサーバーワークスにした(笑)。

大谷:確かにサーバーやってそう。

長谷川:連絡したら、サーバーワークスから大石さんぎょりが来た。でも、代行サービスを使うんじゃなくて、自分たちで使いたかったので2日間、EC2の建て方や運用をトレーニングしてもらった。習って、ちゃんと動くのわかったから、こりゃレッツゴーだと。

大谷:実際に使って、決めたんですね。

長谷川:AWSの営業も松尾さん(松尾康博氏)で、なに聞いてもきちんとした答えが返ってくる。「本当にこいつ、ようわかってるやないかー」と信頼することにしたんです。そうや、AWS入れたきっかけは小島さんやない。松尾さんだった。

大谷:ここまで小島さん持ち上げといて(笑)。

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