「プレイの見える化」は上達の近道
さて、そんなスポーツにIoTを掛けあわせると、どんな未来が考えられるのか。一口にスポーツ×IoTといっても目的に応じて大別できると、モデレーターのASCII.jp 大谷が挙げたのが「うまくなりたい系」「長く継続したい系」「チーム力アップ系」「ファン・スポンサー獲得系」の4テーマだ。
まず「うまくなりたい系」。スマホ連携でデータを分析する。ミズノが野球、エプソンがゴルフなどに取り組んでおり、ソニーの「Smart Tennis Sensor」もまさにここだ。ソニーはなぜこの分野に取り組もうと思ったのか。ソニー上沢氏はこう答える。
「単純に好きだったからですね(笑)。発売したのが2014年で、開発に2年くらいかかっているんですけど、そもそもの企画者も開発者もソニーテニス部で、好きでやっているんですよね。スポーツやる目的って色々あると思うんですけど、やっぱり一番のモチベーションは試合に勝ちたい、上達したいという気持ちだろうと。その思いを叶えるために商品化しています」(ソニー上沢氏)
実際のユーザーであるSAP吉越氏は「使って上達しましたよ。一応、スクールのクラス内では、スピードは一番と言われています(笑)。感覚が視覚化されるというか。例えば『今のスイングもう少し前で』とか言われても分からないんですよね。分からないからスクール行ってるんで(笑)。それが、どこにボールが当たったか一目瞭然になるので、素人でもコツが分かりやすいんです」とコメント。
すると「ホント、見える化って重要ですよね」と応えるソラコム玉川氏。「スポーツでデータを使うのがもっと当たり前になると良いですよね。大人になってからトライアスロン始めたんですけど、友達にまず行けとアドバイスされたのが『TIスイム』。前から水流のくるプールで泳ぐと、上下左右からカメラで撮られていて、その映像を元にフォームを矯正してもらえるんですね。これがもう劇的なトレーニング効果で、2回位行くとめちゃくちゃタイムが上がるんですよ。子供の頃からこういう教え方してもらったら、俺スゴイことになってたんじゃない?(笑)って思うんですよね」
シーオス松島氏によると、トライアスロンはまさにデータ化が進んでいるスポーツだそうだ。「IronManで一番重要なことは何かというと、調子いいからといって無闇に飛ばさないこと。そうすると絶対後半潰れるんですよ。だから、走りながらも平均心拍が140だったらオッケーとかすごく意識していて。あとは定期的に補給さえすれば、必然的に良いタイムが出るんですよ」
現代のアスリートたちは少なからずデータは取っているだろう。IoTでその流れが加速すれば、ますますスポーツがエキサイティングになっていくかもしれない。
スポーツのワクワク感を高めるIoT
次に「長く継続したい系」。活動量計やSNS連携でモチベーションを高め、いかに「三日坊主」から脱却するかというものだ。これについては2点あるとソラコム玉川氏。「1つはゲーミフィケーション。頑張った分だけトロフィーがもらえれると地味に嬉しいんですよね(笑)。もう1つはソーシャル性。走ったりすると自動的にポストされて、そこに反応があると承認欲求が満たされるというか。そういう意味でIoTと相性が良い分野だと思います。ただ、それでもまだまだ不完全なところがあって、例えばトライアスロンだとスイムの時だけデバイスを外さなきゃいけないので、そこだけログが取れないんですよ」
「チーム力アップ系」では、2014年のワールドカップで優勝したドイツチームの話が有名だ。「SAP Match Insights」というツールでパスサッカーの質を高めたと言われている。さらにSAP吉越氏によると「代表は集まる時間が短いので、効率的にコミュニケーションを行うツールとして利用しました。タブレットでタッチ操作できるアプリで、チャット機能なんかもあって、選手がそれを使うんですね。そこでFWとDFの距離感といった選手間の意思疎通ができたのがよかったとレーヴ監督も言ってましたね」
「サッカー以外でも、例えば女子テニスでは、男子テニスに負けないくらいエキサイティングにしようと、試合中に収集したデータを基に監督が指示を出してもいいと、なんとレギュレーションが変わったんですよ。女子だけなんですけど、これなんかは試合を盛り上げるために、IoTを活用した好例だと思います」という。
2020年の東京五輪に向けて、こうしたチーム力アップへのIoT活用はますます盛んになりそうだ。国内ではすでにデータスタジアム社がサッカーや野球の試合データをファンに公開しているが、こうしたスポーツ観戦をさらに楽しんでもらおうという「ファン獲得系」も然り。さまざまな付加価値でスポーツに対するワクワク感を高めるところに、IoTが担える役割は多いと言えそうだ。
大喜利「こんなスポーツ×IoTがほしい」
最後は「こんなスポーツ×IoTがほしい」をお題に大喜利大会が開かれた。
ソラコム玉川氏が考えたのは「Internet of Abillity」という考え方。「能力をインターネットでつなぐ」という考え方で、東大の研究室が提唱している。「ジャックイン」「ジャックアウト」と2種類あって、「ジャックイン」は自分の以外のモノやヒトに乗り移るような感覚だ。例えば、テニスだと錦織選手の体に乗り移って、どれくらいの速度のボールをどのくらいの動きで打ち返しているのか、擬似体験できるという。一方「ジャックアウト」は俯瞰視のことで、自分のプレイを客観的に観察することで、気が付きにくいフォームのズレなどが確認できる。玉川氏は「そういうテクノロジーでうまくなれるというのが一番ですね」と述べた。
ソニー上沢氏は「リアルタイム音声コーチング」を提案した。「Smart B-Trainer」の延長線上であるが、上達のためには「即時即場フィードバック」が重要とされるため、音声でガイダンス、コーチング、トレーニングメニューの提供ができれば「競技のあり方を変えられるのでは」とした。
シーオス松島氏は「GPSや生体センサーを使うことで、今どの選手がどの位置にいて、どれくらいの自転車の回転数なのか、どれくらいの心拍数なのか、という体の状況も含めた実況が可能になります。これは今までになかったメディアができますよね。トップ集団にはドローンも飛ばしつつ、現在位置、この先通過するまでの時間なども全部リアルタイムにわかるし、選手の体調不良などもすぐに把握できるので、トライアンスロンのような過酷な競技でも安全性を高めることができるのでは」とした。
SAP吉越氏は「大喜利ってウケを狙うものですよね。みなさんマジメ」と前置きした上で、「マイアガール」というアイデアを披露した。
「スポーツに対するワクワク感を高めて、スタジアムの動員数を増やすにはどうしたらいいか。男の人はみんな大好きですよね。ビールの売り子さん。京セラスタジアムではビールの銘柄をスマホで選んで注文できますけど、僕らは売り子さんを選びたいんです。そこで売り子さんの背中にSORACOMを付けて位置情報を把握しつつ、ビールサーバーに流量計を付けて販売量もリアルタイムに把握する。さらにF1で最適なピットインのタイミングを測る分析技術もあるので、それも使って、売り子さんがどういうルートで歩くと効率的、いつビール補給すべきかが分かるというのはいかがでしょうか」
IoT×スポーツには果てしない可能性が秘められていそうである。
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