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エブリイ×リレーションズ、変わる地方スーパー

食料生産者への「しわ寄せ」なくす IT産地直送で実現する未来の市場

2016年03月16日 07時00分更新

文● 北島幹雄/大江戸スタートアップ 撮影●曽根田 元

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一番の人気コンテンツ「井上日記」とは

 O2Oアプリ上で現在、一番の人気コンテンツとなっているのが、全国各地の特産物を集める「エブリイ新分野開発室」本部バイヤーの記事「井上日記」だ。

 「1記事で1000PV以上。総ダウンロード数が7000に対してと考えると、とんでもないコンテンツとなっている。エブリイのお客様だけでなく、都内大手スーパーの関係者も『井上日記』のファンになっている」とリレーションズの担当者は語る。

 同企画では、実際の商品開発ストーリーを発信。長野県の農家に直接訪問して、リンゴをしぼったジュースを作る過程を、飛び込み営業の段階から追っている。バイヤーが何をやって、どのようにして農家から食卓まで商品を届けているのかがわかる。

 このような企画、そもそもスーパー業界としても大変異色な試みで、注目される理由がある。長年の歴史のなかで、農家など生産者側とスーパー側の間には深い溝ができている。

 「これまでスーパーは『いいとこどり』をしてきた。たとえば、小売りが決めた規格に合わなければ、『規格外品』として買い取ってもらえない。また規定量をそろえられなければ、欠品による売上保証を強いられることもあり、そのような小売の都合で生産者のみなさんを苦しめてきた事実がある。結果、生産者側にしわ寄せが行き、すべての一次産業が衰退し、苦しんでいる現状がある」(奥村氏)

 現在のエブリイはスーパーだけではなく、外食・宅配など自社で持つ多様な販売チャネルを生かすことで、本来の地場産業を育ててより販売することに集中できる体制がある。売り場の都合で生産者を苦しめない、産地とのつなぎこみが重要視されている。

 たとえば、井上日記での訪問したリンゴ農家でのエピソードでは、傷がついたC級品のリンゴを、どのようにして価値に買えていくのかを紹介するストーリーがあった。自治体が用意していたリンゴ絞りの施設の活用と合わせて、いかにエブリイ側がそこに協力できるのか、そのようなエピソードを重ねて、とんとん拍子に話が進む。最終的には、トライアルとして300本のジュースがエブリイに実際納品されることが、アプリ上の連載でそのまま消費者へ伝わってくる。

 「お客様は産地からスーパーまでのストーリーが知りたいはず。(エブリイの商品が)新鮮でおいしいことはすでに伝えられていると思う。そこからもう一歩踏み込んでコンテンツ力があるスーパーになりたい。裏側で苦労しているバイヤーがいること、見えていなかった生産地から消費の現場までのストーリーを提供したい」と奥村氏は語る。

 井上日記でのコンテンツ配信は、個店ごとの経営ができているエブリイだからこその施策だ。リレーションズ側としても、このようなアプリコンテンツ上での副次的効果は当初から狙っていたものだった。実際、スーパー側が当たり前だと思っているような、産地や生産者から消費者までのストーリーをきちんと情報として届けることが、販売につながるコミュニケーションになると気付いているスーパーはまだまだ少ないという。

畑で抜いたものを食卓まで追うスーパーはどのように実現するのか

 今後エブリイとしては、産地の声を伝えたうえで、利用者の感動を再び産地までフィードバックすることで、購買力が向上する仕組みを作っていきたいと考えている。

 「かつて畑で抜いたものをカメラで映して食卓まで追うテレビ番組が昔あった。追ってきた流れを食卓で見たら感動するし、食べている画面を産地に向けて前段階で戻していったところ、流通の過程にいた皆さんの心も動かしていた。そのようなストレートな感動が起こすことで、数値に見えないモチベーションアップにつながる部分がある。感動を共有できるよう、みんなが喜ぶような施策に一丸となっている」

 エブリイのバイヤーは産地を回る際に、「何か困ってることはないですか?」と常に聞いているという。昨年は、担当者が1カ月の間漁師に同行し、漁に参加していることもあった。「心を開いてくれるまで時間がかかるが、お互いの気持ちを共有させるために行動するのがうちのバイヤー。結果、ある漁師の方は去年に比べてエブリイへの出品モチベーションが上がり、入荷が増えた。漁に出る数が約2倍になっていた」

 では、このような産地からのフィードバックについて、実際スタートアップ側では何ができるのか。エブリイが従来進めてきた生産者との取り組みについて、リレーションズとの新たなプロジェクトが準備されている。

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