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飯田橋クラウドクラブ(略称:イイクラ) 第21回

ISID、SCSK、スカイアーチ、TISの4社のキーマンと座談会

SIerのキーマンが本音で語った「クラウドは業界をどう変える?」

2016年02月17日 07時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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クラウドが本格化したきっかけはやっぱり「アレ」

ASCII大谷:なるほど。みなさんに聞くとクラウドのブレイクは共通して「2年前」とおっしゃってますね。私もメディアとしてクラウド業界を見ていて、エンタープライズがセキュリティの懸念を払拭してクラウドを使うようになったのって、この2年だなあと思います。この切れ目にあたる出来事ってなんだとお考えですか?

TIS内藤:やはり事例でしょうね。AWSをはじめ多くのベンダーが事例を出していて、名だたる大手が使い始めたのがわかったからだと思います。弊社も事例を出すと、お客様から「こんなこともやってるんだ」と言われることも多いですし、事例が積み重なることで、クラウド移行が進んだ印象はありますね。

SCSK浅野:僕も事例大きいと思います。結局、大丈夫かどうかをベンダーが言ってくれるというのは、お客様にとっても大きい。だから、事例が並べられると、「大丈夫なの?」が、「大丈夫だよね」に変わります。でも、これって根拠ないんです。クラウドやっていると、よく「安心・安全」って言いますけど、安全は客観的事実で言えるのですが、安心は主観的事実。ベンダーの人が信用できそうだったり、事例が揃ってくると、そのうち「安心」の部分が満たされます。この部分が2年で大きく変わったところです。

ASCII大谷:なるほど。エンタープライズのクラウド移行には、やはり事例が大きいんですね。

スカイアーチ福島:僕も事例が鍵だと思います。ここにいるアスキーさんとか、アイティメディアさんとか、事例を紹介していますが、そういう記事を情シスの方はけっこう読んでいるんですよね。情シスの方って孤独な方が多くて、そういうところからしか情報を得ることができない。だからメディアで取り上げられると、安心感を得られるんだと思います。

ASCIIのようなメディアで紹介されるユーザー事例が鍵とスカイアーチ福島

ASCII大谷:そう言っていただけると、やりがいがありますね。

スカイアーチ福島:あと、経営者の方々がクラウドを認知してくれるようになりました。今まではむしろ情シスの人が動かなかったのに、経営者がクラウドやれと言ってくれるようになり、動き始めたという印象がありますね。

ISID松島:私も事例は大きいと思います。ただ、弊社でやや残念なのは、特に親会社の電通との協業案件の場合、電通側の方針もあってユーザー事例を公表できないケースが多いこと。事例はいっぱいあるんですけど、なかなか出せないんですよね。

SCSK浅野:そもそもクラウドって情シス通さずに使えるので、事業部門が勝手に使い始めているというケースもある。結果として、いつの間にか社内でユーザーが増えてしまい、あとからSIerが呼ばれて「今から呼ばれてもどうにもならないですね」ということはありますね(笑)。旧態然としたSIerではなく、クラウドインテグレーターと呼ばれる新興の事業者が直接事業部門とコミュニケーションをとって、こつこつ事例を出していったから、結果的に実績を結びついているといったこともあるのかなあと。

ASCII大谷:従来、情シスが主導してきたITシステムを現場部門が直接使えるようになるというのも、クラウドによる文化の破壊なんでしょうね。

TIS内藤:ちょっと話はずれるかもしれないですが、昨年アイティメディアさんで「クラウド時代の運用」というテーマで登壇させていただきました。こんな地味なテーマで人が集まるのか心配だったんですけど、明けてみたら情シスで満員でした。

ASCII大谷:横で三木さんがドヤ顔してますが、さすがアイティメディアですね!

TIS内藤:そうなんです。情シスの人たちは、いろんな経緯でクラウドが導入されてしまったんだけど、運用どうするんだと悩んでいるんだなあと思いましたね。

クラウドへの反応は同じ事シス内でも異なる

ASCII大谷:なるほど。実際、情シスの人たちはクラウド導入でどんな課題を解決したいと思っているんでしょうかね。クラウドも当初はコスト削減がメインだったんですけど、セキュリティを上がるとか、クラウドネイティブアプリケーションを作れるとか、メッセージが変わってきたと思うんです。でも、こういうメッセージは果たして情シスの人にミートしているのかという素朴な疑問があります。

イイクラAWS経験済みのため、容赦なく突っ込むASCII大谷

スカイアーチ福島:僕はむしろ事業部門の人と話すことが多くて、そういった人たちはスケールさせたい、コストを下げたいといったニーズで、どんどんクラウドを使いたいという要望を持っています。一方で情シスの人たちはやはり外に出る機会が少なくて、どうやってクラウド学べばいいんだと悩んでいる人が多い気がしますね。

ISID松島:いわゆるベタな情シスの方って、まだまだクラウドに踏み出していない。先ほど話した大手メーカーの事例はむしろレアケースで、発注元は情シスの企画担当だったんです。

ASCII大谷:情シスの中の「戦略企画室」みたいなところですね。

ISID松島:情シスって、システムの運用をやっている部門とエンドユーザーと直接やりとりしている部門に別れていることが多いです。前者はクラウドに対してまだまだで、後者はクラウドに関してかなり踏み込もうとしているというのが私の印象です。

SCSK浅野:そもそもミスがないことを是とする文化、定められたことをきちんとやる文化がある部門にとって、クラウドの「失敗したらやめます。もう一度やります」というスタイルは違和感があると思います。「こういうスタイルは俺たちと違う」と考えている人たちは多い。もちろん、こういった人たちが悪いわけではなく、組織の文化としてこうした考え方を持っている人にクラウドのスタイルを持っていっても響かないのは事実。一方で事業部門はトライ&エラーを受け入れられる方が多い印象です。

ASCII大谷:情シス内にも文化の違いがあり、会社内にも文化の違いがあると。

SCSK浅野:はい。あと、私はもともと基盤屋なんですけど、基盤って汎用的な設計をしたくなるんです。セキュリティは万全で、ネットワークも最強で、パフォーマンスもコントロールできる。そんなものはできないので、スコープが拡がってしまい、どこまでクラウドでやるのかという話がまとまらなくなる。こうして1年、2年と時間が経っているというのが、現状なんじゃないかと思っています。

TIS内藤:3年くらい前、情シスのメンバーが少なくて、インフラを維持できないという会社がありました。そこは志の高い情シス部長はインフラはもうやめて、アプリ開発と企画だけやると宣言し、クラウドに載せ替えてます。あとは社長からやれと言われたとか、とにかくきっかけは多種多様ですね。

ASCII大谷:情シスとしての選択と集中のためにクラウドを選んだというわけですね。

TIS内藤:最近はそのきっかけが次のきっかけに変わってきていて、たとえば半年かかっていたサーバーのオーダーが3日でできるということを事業部門が理解し始めたとたん、次からは3日でというオーダーが情シスにあがってきます。こうなると情シスの選択肢はすでにクラウドしかなくなってくる。実際、こういうことがあるお客様では起こっていて、継続的に使っていたクラウドが拡がっているという事態があります。

ASCII大谷:最近、ITベンダーの多くは「アジリティ(迅速性)」を訴えていますが、実際それが事業部門から求められてきて、情シスはその声に応えるためにクラウドを選択するという状況になっているわけですね。

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