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レガシーな舞台でスタートアップは何ができるのか エブリイ×リレーションズ

すごいぞ地方スーパー、鮮度抜群の店舗が始めるO2Oアプリ施策

2015年10月16日 07時00分更新

文● 北島幹雄/大江戸スタートアップ 撮影●青野文幸

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エブリイ独自の試みとは何か

 絶好調の要因は何か。エブリイの独自の取り組みはさまざまで、一見普通のスーパーと変わらないように見える店舗でもさまざまな仕掛けがこらされている。

・欠品を恐れない新鮮な売り切り品

 スーパー業界で販売機会を失う欠品はタブー。だがそれを逆手にとり、その日にしめたばかりの鶏肉が並ぶコーナーは、納品まで空っぽのまま。午前中に店舗を訪問すると、”商品の写真”が敷かれただけのからっぽのショーケースがある。店舗に並ぶ時間がわかっている目的買いの常連客に向けて、最も客が多い夕方の時間帯で売り切る形だ。売れ残りのコストがなくなるため、値段も安く提供できる。

・徹底したニーズへの対応

 その日にとれたばかりの新鮮な野菜や魚が並ぶのもエブリイの特徴だが、野菜や魚などの仕入れは、本部ではなく個店ごとのバイヤーに一任されている。魚をさばける高齢者が多い朝の時間帯は丸魚で販売。昼前に切身に加工してさばき、時間のない主婦向けに。夕方~夜には、総菜や刺身の形に加工して独身者に提供。大量仕入れを行っても、鮮度とニーズに合わせて提供することでロスを徹底して少なくしている。

・画一化ではない、個性を伸ばす“専門”展開

 総菜コーナーも、寿司や肉、さらにはできたてを提供するコーナーごとに「専門店化」。店舗内で直接加工を行う徹底化で、リードタイムを短縮。お好み焼きなどの総菜も開店に合わせて並べるのではなく、昼前に販売を開始することで、熱々のできたてを提供する。専門店化は、寿司、洋菓子、ワイン、輸入品にも及んでおり、それぞれの分野に精通した寿司職人やパティシエなどのトレーナーを外部から雇用している。

店舗で直接焼いた生地に、その場でクリームを詰めてくれる「カスターDo!シュークリーム」も好評。

通常のスーパーであればただの精肉コーナーだが、エブリイでは肉の専門店「肉匠たなか本舗」として、店舗内での個別コーナーにしている。ほかにはない独特の試みでは、和牛を一頭まるごと買い取って、イチボやザブトンなど普通のスーパーでは販売できないようなレアな部位を販売。さらに、スーパーマーケットで売りにくい部位はグループの飲食店で調理して提供する。

非効率な部分をあえて残す理由

 「朝採りの野菜や鶏肉、さらにはズワイガニといったものはエブリイの戦略商品。スーパーマーケット同士の競争が激化する一方、ドラッグストアやコンビニなど買い物の多様化も進んでおり、従来のように商品を置いているだけでは選んでいただけない。このような時代にエブリイが生き残るためには、他社・他業態には出しにくい独自の価値を提供していくことが重要」と語るのは、エブリイで情報システムと物流を担当する小林大作ゼネラルマネージャー。

エブリイ システム物流部 システム担当ゼネラルマネージャーの小林大作氏。エブリイグループのシステム開発・サポート事業を手がけるイーシステム取締役も兼任。

 売り場作りのポイントを聞くと、「当社では各店のバイヤーがその日の朝に市場に出向き、吟味した野菜や鮮魚を仕入れる。当日仕入れた野菜を売る店舗の平台売り場はバイヤーの個性が出る部分、毎朝市場に買い付けに行くことも含めて店舗活性化の意味がある。専門店化などの施策も、店舗オペレーションの面で当然コストがかかっているが、それ以上に店舗のエンターテイメント化という面で重要な部分。仕入れ一つを例にしても、自動発注といったローコストにできる部分と、一方であえて非効率な部分を残すそのバランスが重要」と小林氏は語る。

 「食を取り巻く環境に目を向けてみると農業就業者も高齢化しており、特に広島県では70歳代まで上昇している。このままでは今後、仕入れるべきモノも入ってこなくなってしまうことを懸念して、グループで産地開拓に取り組んでいる」

 エブリイは2014年8月に農業法人を設立し、1次産業への参入を果たした。さらに、鮮度追求の取り組みは、漁船1艘(そう)の水揚げを全量買い取る「1艘買い」(2015年4月)にまで広がりを見せている。

 新鮮さを追求しながら売り切る一方で、どうしても一定量の仕入れには規格外品などのロスがある。そのような店舗で使えないものは、グループ内の外食や工場での加工品として活用されているのだという。スーパーのほかに、「外食」「宅配」「通販」など多様な販売チャネルを持つ同社ならではの取り組みだ。

 例えば、スーパーでは扱えない珍しいクルマエビのようなものでも、グループ内に持つ料亭で付加価値をつけて提供できる。品質に問題なくとも、形で判断され廃棄される野菜も活用するため、農家の収入安定化にもつながっている。エブリイがグループに持つ居酒屋やバイキング型のレストラン「ワールドビュッフェ」では、スーパーで買い取った中の規格外品を活用することで、安価で新鮮な食材の提供ができる。

ワールドビュッフェの平日昼ランチバイキングは、小学生700円、3歳以下であれば400円と激安。土日になると家族連れで混雑するという。

 「鮮度のいいものなら外食でも通用するうえに、料理人がかかわることで価値が提供できる。単純に農業や加工業やっているだけではなく、お互いにコミュニケーションを取って喜びあっていける関係を目指している」(小林氏)

 規格や数量などを理由に市場流通しにくい野菜を受け入れ、提供する外食新業態「太陽と大地のイタリアンベジ ラソラ」は9月1日にオープンしたばかりだ。

 「業界には常識というもの、『スーパーはこういうものだ!』と思い込んでいる部分が必ずあるが、エブリイがこれまで変えてきたのは、そういう部分。例えば朝一番に100点満点の売り場をつくらないといけないとすると、温かいお総菜をお昼に出すことはできない。エブリイは、“鮮度・温度”、“おいしさ”にこだわり、売れ残って美味しさを損なった商品を並べるくらいなら欠品しても構わないという考え。“業界の常識”に捉われることなく、普通のスーパーとは違う発想に至れたのは大きい」

類人猿分類を活かしスタッフの関係構築を強化

チンパンジー、ゴリラ、オランウータン、ボノボの4種になぞらえた性格診断がベース。

 エブリイの独特さはこれだけではない。地方にあって独特な取り組みが、ユニークな人材活用と社内セミナー制度だ。

 心理カウンセラー指導のもと、スタッフの性格を類人猿の4タイプに分類。相手のタイプを分類することで、お互いのキャラクターに理解が深まることで、職場全体の雰囲気が良くなるというものだ。

 さらに、2年前より幹部候補生向けのコミュニケーション講座を実施。売り場での人間関係を重要視して、店長や幹部候補から落とし込み、社内への浸透を図っているという。先述の中村店長も第1期生だ。

 「日本に類のない人づくり企業になるという方針を持っている。たとえ鮮度が良くても、それを売っている人しだいで、商品は良くも悪くも見える。スタッフがイキイキ働ける環境づくりは不可欠だと考える」(小林氏)

 エブリイ既存店のパート従業員の30%が紹介で入ってきており、人が人を呼ぶ状態になっているという。

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