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iOS 9の隠れた目玉機能、「広告ブロック」とは何か? - モバイルWeb広告における影響を考える

2015年09月22日 09時00分更新

文● 鈴木淳也(Junya Suzuki)、編集●ハイサイ比嘉

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「コンテンツブロッカー」は
Webの広告収益モデルを破壊するか?

 話はiOS 9が初めて正式発表された今年6月の開発者会議「WWDC 2015」に戻るが、AppleがiOSに広告ブロック機能搭載を明らかにした後、これが理由で携帯コンテンツを介した広告収入モデルに悪影響が出るのではないかと懸念され始めた。もし、ユーザーが広告モデルのおかげで無料または安価にコンテンツを楽しめていたというのであれば、iOSの広告ブロック機能が原因でコンテンツ市場が衰退してしまうのでは……と懸念されるのもわかる話だ。

 広告ブロック機能と付随して、iOS 9にはもうひとつ興味深い新機能がある。それが「Newsstand」改め「News」アプリだ。Apple謹製のこのアプリは、いわゆるコンテンツキュレーション型のサービスを提供するものであり、ユーザーの好みに応じてその日のヘッドラインから注目すべきニュースをピックアップして一覧表示する。ユーザーはすばやく好みのニュースを移動の合間などにチェックできるというわけだ。

AppleがiOS 9から提供を開始した「News」アプリ。カスタマイズして好きなメディアのヘッドラインを集められる

 だが、こうしたニュースコンテンツはWebや専用アプリ経由での配信も行なわれており、もしAppleがこれを乗っ取る形で「News」アプリを提供するのであれば、広告ブロック機能と合わせて「Appleは(広告ブロック機能で)コンテンツパートナーの収益機会を奪う一方で、自らが「News」という同等の機能を提供するアプリをリリースしている」という、ある意味で矛盾した行動に出ているという見解もある。

 だが実際のところ、この懸念は“現時点では”杞憂に終わるのではないかというのが筆者の見解だ。ひとつは、冒頭でも説明したように、広告ブロック機能こと「コンテンツブロッカー」を導入するには若干の手間とハードルがあり、多くの一般ユーザーに周知されるには時間がかかるだろう。

 一方で、すでに最新トレンドに敏感なユーザーはコンテンツブロッカーの導入に走っている。The Guardianなども紹介しているが、iOS 9公開から1日でApp Storeの「ユーティリティ」カテゴリでは「Peace」などのコンテンツブロッカーのアプリがダウンロードランキング上位に君臨している。

 これは象徴的な出来事だが、一方でこの手のユーティリティがランキング上位に居続けるかは難しいところだ。しばらくは、本稿をはじめとするコンテンツブロッキング機能紹介の記事が出てくる中で、実際に「iOS 9で最初にすべきこと」としてコンテンツブロッカー導入を試すユーザーが出てくると思うが、トレンドとしてはそれほど長続きしないのではと筆者は考えている。

 最初は、雨後の竹の子のように大量の“有料”版コンテンツブロッカーが登場してバブルのような状況を作り出すが、それほど時を置かずして、有名セキュリティスイートの一部といった形など人気アプリに話題が収束していくのだろうと予測する。

「Peace」が突然App Storeから消えた理由

 こうした中、先ほども紹介したように一時人気アプリトップに君臨していた「Peace」が突然App Storeから取り下げられて話題となった。

 公開36時間で有料アプリランキングトップに踊り出たことは作者のMarco Arment氏も「自身のキャリアでも特筆すべきこと」だと述べているが、「Peace」は無差別に広告そのものを除去すべく動作するため、「All or Nothing」の状態となり、これが及ぼす悪影響を憂慮したという。

「コンテンツブロッカー」が公開1日でいきなりカテゴリ別有料アプリのランキングでトップに踊り出るケースもみられる

 Wiredによれば、同氏は独立系出版社の友人から同アプリが及ぼす影響について懸念を述べられたことがきっかけのようだ。ただし、出版社の収益に悪影響を及ぼさないようにフィルタを通過できる広告を選別するようになると、複雑な仕組みを導入せざるを得ず、Arment氏がシンプルなiOSアプリとして導入可能な機能には限界があるとしている。そこで、アプリの登録そのものを見直す決断となったようだ。

コンテンツブロッカーに関する、さまざまな議論

 コンテンツブロッカーが及ぼす影響について、さまざまな見解がある。例えばMediaPostが紹介しているAdobeとPagefairが行った最新調査によれば、この種の広告ブロック機能により出版社は今年2015年だけで218億米ドルもの“損害”を受けていると報告している。

 現在、多くのメディアの収益源は単純なディスプレイ広告やテキスト広告だけに依存しているわけではないが、一方でページビューやそれに依存した広告表示による収入比率が高いメディアやコンテンツもあり、その影響は一様ではない。

 もし将来的に従来型の広告モデルに影響を及ぼすようなことが続くならば、今後は記事の体裁を採る記事広告や、あるいはネイティブ広告と呼ばれる、一見すると広告とはわかりにくい形での掲載など、広告手法にも変化が現れるかもしれない。

 コンテンツブロッキング機能を提供するアプリが、その立場を利用して悪意ある行動を採る可能性も指摘されている。前述のように、現在コンテンツブロッキング機能を提供するアプリは有料またはアプリ内課金を通した収益モデルを採用しているが、それとは別に「広告フィルタを通過するための“ホワイトリスト”への登録権を有料で販売している」ケースがあると、BGRはフランスのBlogサイトであるInfo iGenを引用して紹介している

 前述の通り、仕組み上は広告ブロック機能は完璧ではない。一般には参照URLなどの情報を基にフィルタをかけて広告を非表示にしているだけで、フィルタにかからない広告はそのまま表示させてしまう。これを利用して、例えばフィルタを通過するための「ホワイトリスト」に特定の広告URLを登録し、その見返りに報酬を受け取るというパターンだ。

 もっとも、これはこれで考えられるビジネスモデルではあるものの、よほどの寡占市場でもない限り、ユーザーの悪評につながる行動はマイナスにしかならず、結果としてアプリやサービスの寿命を縮めるだけにしかならない。その点での懸念は薄いだろう。

サイト解析やユーザーの消費行動分析への影響

 むしろより注視されるのは、広告の表示そのものよりも、ユーザーの行動を把握するためのツールが無効化されてしまうことかもしれない。

 Marketing Landが指摘しているが、Google Analyticsを含む複数の主要行動把握ツールを無効化してしまうiOS用コンテンツブロッカーがあり、これを利用してサイト解析やユーザーの消費行動分析を行なっていたマーケターやアナリストらが影響を受ける可能性が懸念されている。

 PCに比べ、これまで比較的ユーザー行動解析のネットワークを広げやすかったモバイルプラットフォームにおいて、iOS 9へのコンテンツブロッカー導入を機にトレンドが大きく変化してしまうのは、未知の影響を与える可能性がある。直近では影響が少ないものの、今後の最大の懸念はこの点なのかもしれない。

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