グリスより冷えるのか? 熱伝導シートの性能をチェック!

文●林 佑樹(@necamax) 編集●北村/ASCII.jp

2015年07月08日 23時42分

第2回は、情報の少ない熱伝導シートをチェックしていく。CPUグリスと比べるとどうなのかが気になるところだ。

メリットとしてはCPUグリスのように塗る必要がなく、CPUとCPUクーラーの間に挟むだけでOKというところだ。製品によっては繰り返し使用可能であったりもする。デメリットとしては、そのCPUにジャストサイズでないことで、その点から冷却性能について不安を覚えやすい。

製品によっては再利用も可能な熱伝導シート。半固形のCPUグリスと性能に違いはあるのだろうか?

熱伝導シートは、熱伝導率が20W/m・Kや90W/m・Kといったものもあり、性能表記によるスペックはCPUグリスより高いことが多い。では、実際どうなのかさっそく検証してみよう。

検証機材は第1回と同じく、AMD「A10-6800K」を使用し、BIOS放置で10分経過したところで、BIOS読みの温度とサーモグラフィー「FLIR E8」による計測を実行している。

FLIR製のサーモグラフィー「FLIR E8」で温度分布をチェック

テスト環境
CPU AMD「A10-6800K」(4.1GHz)
マザーボード MSI「FM2-A85XA-G65」(AMD A85X)
メモリー CORSAIR「CMD4GX3M2B1600C8」 4GB×2
SSD Samsung「MZ-7KE256B/IT」(850 PRO 256GB)
電源ユニット Thrmaltake「TP XT-850AH3CCB」(850W)

CPUに使うには分厚くて小さい気が……
高熱伝導性灰色ラムダ・ゲルシート

ワイドワークの「高熱伝導性灰色ラムダ・ゲルシート」(型番:COH-4000)。熱伝導率は6.5W/m・Kで、2枚入り。2枚を並べてカットして、CPUサイズに合わせたほうがいい感じ

分厚い熱伝導シートで、スペックは6.5W/m・Kとあるのだが、まず小さい。写真を見てもわかるように、CPUサイズを余裕もって下回る小ささだ。大丈夫なのかしら……と測定を開始してみたところ、BIOS読みで77度を記録し、サーモグラフィーでは35.8度になった。

左が使用前、右が使用後。潰れて微妙に大きくなっている。もともと分厚いためリサイクルは可能。サイズは25×25×1mm

CPUコアの温度が77度もあるのに、CPUクーラーの温度が35.8度と低すぎることから、CPUクーラーに熱がうまく伝わっていないことがわかる。どうもCPU向けではないようである。

いちおう熱を逃がしているが、BIOS読みで77度である。インテル系ローエンドCPUなら大丈夫かもしれない

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(→次ページヘ続く 「熱伝導シートは薄いほどいい?」)

半導体用だが、CPUにも使えるのか?
熱伝導両面テープ

アイネックスの「熱伝導両面テープ」(型番:PA-069)。製品は寺岡製作所製で、メモリーやビデオチップなど向けと記載されているが、いちおうCPUにも使えた

両面テープとあるように、確かにとても薄い。熱伝導率0.65W/m・Kとスペック表記があるため、期待できなさそうだったが、結果としてはBIOS読み57度、サーモグラフィーで38.5度と高熱伝導性灰色ラムダ・ゲルシートよりもいい成績を見せた。とはいえ、CPUに使うにはBIOS読みの温度がやや高いので、不安が残る結果といえよう。

CPUにに載せた状態。空気が入りやすいのでスマホの保護フィルムのように空気抜きを忘れずに。サイズは38×38×0.125mm

熱伝導シートは、薄いほうがいいのか……。本製品はCPUサイズよりも大きいため、カットすることになったが、そのあたりの加工も容易だった。意外と性能がいいので、スティックPCやルーターなどの冷却性能アップ用によさそうだ。

BIOS読みで57度と高いのだが、いちおう機能している

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安心の信越化学工業製、しかも薄い!
熱伝導フェイズチェンジシート

アイネックスの「熱伝導フェイズチェンジシート」(型番:HT-08A)。製品は信越化学工業製で、熱伝導率は3W/m・K

厚さ0.12mmで期待のできるもの。計測してみると、8分経過時点でまでは60度超えだったが、10分時点で52度にまで落ちた。そのため、しばらくなじませる必要があるものと思われる。実際、パッケージにも加熱・加圧により軟化・薄膜化すると記載されている。

サイズも35×35×0.12mmとイイ感じ。0.12mmと薄いので使用前・使用後での変化はほとんどない印象だった

さて、BIOS読みは52度だが、サーモグラフィーで37.5度。使用後にもとくにシートに変化はないため流用可能だが、結果からするとやはり低発熱のCPU向けだ。

計測では37.5度になった。薄くてそこそこの熱伝導率であればよさそう

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(→次ページヘ続く 「熱伝導率20W/m・K以上の高級シート」)

日本製“超”高熱伝導放熱シート
Thermo-TranzVL

ワイドワークの「Thermo-TranzVL」(型番:STT-VL)。熱伝導率は20W/m・K

0.5mmとそこそこ薄く、熱伝導率も20W/m・Kとこれまでのシートより驚異的に高いので、期待できそうだ。色はグレーではなくブラックで、CPUサイズよりもやや小さい。使用後を見ると、ある程度伸びていたので結果を見ても心配するほどではないだろう。

これまでのシートと比べると変形しやすい。手に持っただけで伸びるので、設置後にCPUサイズに合わせて伸ばすのもいいだろう。サイズは30×30×0.5mm。インテル製CPUならジャストサイズかもしれない

温度はBIOS読みで44度、サーモグラフィーで36.7度になっており、悪くはないものだ。第1回で計測した半固形状のグリスとさほど変わらない結果といえよう。また、サーモグラフィーでみると均等に熱が逃げているのも好感触だ。

他のシートに比べて熱が均等に逃げているような印象

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“黒鉛垂直配向”って、なんだかカッコイイ!
Vertical-Graphite Pro

ワイドワークの黒鉛垂直配向熱伝導シート「Vertical-Graphite Pro」。熱伝導率は驚異の90W/m・K。金色の袋に入ったいかにも高そうな製品で、実際2180円とかなり高額だ

「黒鉛垂直配向熱伝導シート」と銘打たれている。“黒鉛垂直配向”というのが、なんだかわからないが、ナノダイヤモンドに並ぶネームパワーがある。声に出してほしい、黒鉛垂直配合と。そして熱伝導率90W/m・Kだ。

(編注:“黒鉛垂直配合”とは、黒鉛粒子を軟質アクリルゴム中に垂直に配向しているもので、板厚方向の熱伝導率が高いのが特徴です。やっぱりよくわかりませんね。)

高級感漂う感じが大変よろしい。サイズは30×30×0.25mm

載せたところ。剛性が高めで形状変化はほとんどしない

結果はBIOS読みで41度、サーモグラフィーで36.4度と好成績になった。AMDの製のCPUサイズに対しては小さいので、ほどよいサイズ版を期待したいところ。

「Thermo-TranzVL」と同じく、均等に熱が逃げている印象の結果となった。TDP 65WのCPUであればこれでいいかもしれない

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熱伝導率が20W/m・K以上で
薄手であれば、十分CPUに使える!

第2回は以上のように熱伝導シートをチェックしてみた。シェアとしてはCPUグリスに押されているため、あまり種類を見ないが、薄くて熱伝導率の高いものを選べば、それなりの性能を見せてくれることがわかった。

また、検証して気がついた最大の利点は、手が汚れないことだ。グリスでパーツや手を汚したくない人には熱伝導シートが向いている。

次回はエクストリーム編に入る。CPUグリスが手元にない時どうする? 気になる生活雑貨はCPUグリスとして機能するのか? そんなところをチェックしていこう。

【機材協力】

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