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クラウド界隈を揺るがした青森県のコミュニティとはなんだったのか?

クラウドコミュニティと一心同体だった青森県庁の杉山さんの3年

2015年05月21日 07時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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青森県以外に門戸を開いたオープンなイベント

 杉山さんが進めた青森のIT振興施策で特にユニークなのは、他県や他のコミュニティに幅広く門戸を開放した点だ。「役所がお金を払う先としてコミュニティはありなのか?という議論はつねにあるのですが、最終的に青森をITで盛り上げれば、誰が来てもOKだと思った。『来るモノ拒まず、去る者追わず』で、とにかく外の人が来やすく、中の人は楽しく、田んぼの水路のように循環するサイクルを目指した」(杉山氏)。

 こうした経緯があり、青森県のITイベントには日本全国のクラウドエンジニアが数多く携わっている。介護とITの分野を切り開いているCUPAの竹下康平さんもその1人。2012年の2月に東京で行なわれたデータセンター系の誘致イベントで会ったのがきっかけだという。「青森県がクラウドやコミュニティというキーワードを持ち上げて活動してくれるのであれば、なにか違ったことができるんじゃないかと思った」と竹下さんは語る。

青森県出身でクラウドコミュニティの参加に一役買うCUPAの竹下康平さん

 CUPAとして竹下さんが抱えていた課題は、やはり首都圏と地方でのITコミュニティの格差だ。「長らくCUPAやJAWS-UGの活動をやってきて、クラウドの利活用が地方で全然進んでいないことに気づいていた。東名阪以外ではコミュニティにも人が集まらなかったし、活性化しないという事態は当時からあった」と竹下さんは語る。

 こうして2年目以降はクラウドコミュニティが運営側に参加するようになり、地元の経営者だけではなく、エンジニアが積極的に参加するようになった。実際、青森県では2年でAWSや網元(WordPress)、Microsoft Azure、ニフティクラウド、ビッグローブなど幅広くクラウドハンズオンを実施。コミュニティのリーダーになれる人を育成し、自立したコミュニティ運営が進むよう、インプットを続けてきたという。「アカウントを作るという行動自体にハードルがあったので、その障壁を取り去って、クラウド側に落とす作業をやりましたね。入ってみたら、膝より浅いぞみたいな(笑)」(竹下さん)。

クラウドコミュニティは同じ目標を持った仲間

 青森県に出張してのコミュニティ活動は、首都圏のエンジニアにとっても新鮮だったようだ。竹下さんは「青森公立大学でやったハッカソンでしびれたのは、まず会場で飯が食えて、しかも泊まれる(笑)。寝ないで開発漬けというハッカソンは、東京ではありえない」と語る。

青森公立大学の学食を使ったハッカソンの模様

 日程や会場などは青森県側が決めてくれるので、面倒な調整は不要で、コミュニティ側は企画に専念できる。「極論、1~2人でイベント内容が組めちゃう。舞台はすでに用意されているので、行って踊るだけ(笑)。こんな楽な話はないですよ」と竹下さん。杉山さんも「会場は公的な安いところを抑え、集客はコミュニティがあるので、そこに告知すればOK。あとは来た人に名物の味噌カレー牛乳ラーメン食べさせるだけ(笑)。うちも楽」とのことで、お互いの利害が一致している。

 このように行政に面倒なことを任せ、しかも自由度も高いというコミュニティにとって天国とも言える青森県。当初はいわゆる背広組でスタートしたイベントも、徐々にエンジニアが増えた。昨年は業界を騒然とさせた「温泉ハッカソン」を実施したほか、アプリ開発チームのハッカソンと同時にインフラ系のハッカソンも実施し、両者を連携させるという高いレベルまで進んだ。

 青森に来たクラウドコミュニティのメンバーは口々に東京と異なるコミュニティ本来の楽しさ、熱気に気がついたようだ。竹下さんは「会場にバイクで乗り付けたクラウドバイク部のベテランの方々は、会場の熱気に軒並み驚いていた。テクノロジーに溺れた東京と違って、青森では聞いたことをやってみて、とにかく楽しそうにトライアルしている」と語る。

 杉山さんにとって、一心同体で活動してきたクラウドコミュニティは特別な存在だ。「お前が変われ、お前がやれという役所と民間の対立関係ではなく、同じ課題に対して違う立場で突き進んできた仲間です。100%重ならないけど、お互いできることが話し合いで共有できれば、壁はなくなる」(杉山さん)。

「クラウドコミュニティは同じ課題に対して違う立場で突き進んできた仲間です」

(次ページ、「思いこみ」を外せば、役所と民間はもっといろいろやれる)


 

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