物理的空間の思考と、ICTの組み合わせ
樋口 これまでの地域活性化協働プログラムは、各自治体が抱える問題や課題を解決することが中心でしたが、愛媛県との取り組みは、前向きでポジティブな支援である点が違いました。それだけに、日本マイクロソフトのメンバーも、これまでとは違うような気持ちで取り組んだのではないでしょうか。地域活性化という点においては、日本マイクロソフトの自転車部も、参加させてもらいましたしね(笑)。
中村 愛媛県では、73歳の市町村の首長が、サイクリングスーツとヘルメットをかぶって走っていますよ。そして、みんなが伝道師になっている。サイクリング用スーツを着るのは若い人だけだと思っていている人が多いのですが、愛媛県では60歳以上の人のものだと思い始めていますよ(笑)。そうなると、今とはまったく違ったマーケットができる。
マラソンはわずか10年前までは一部の人だのものだったのが、現在では空前のマラソンブームであり、全国1500ヵ所で開催されている市民マラソンはいつも定員一杯の参加者で埋まります。これも、健康、生き甲斐、友情が生まれているからだと思います。
しかし日本では、まだ「自転車新文化」が定着するところまでいっていませんから、多くの努力が必要です。自転車は、マラソンよりも負荷が少なく、しかも遠くまで行ける楽しさがある。それが理解されると一気に広がると思っています。
愛媛県では、定価20万円、30万円のカーボンバイクがレンタルで借りられる日本で唯一のサービスがありますし、女性限定のサイクルイベントや、60歳以上限定のサイクル教室なども予定しています。
ただ、こうした取り組みをアナログの発想だけで考えるのではなく、デジタル的思考を組み合わせることで、新たな化学反応が起こせるのではないかと思っているんですよ。
例えば、参加型のサイトを運営して、GPS機能や、地図アプリ機能、さらにはそこにゲーム機能を持たせて、その楽しさをもとに、県内を回遊してもらう。そこにリアル店舗のサービスや割引をリンクさせるといったことも可能です。アナログにデジタルの発想を加えることで、今までにない観光振興策が生み出せると考えています。
樋口 物理的空間での思考に加えて、ICTによるサイバー空間の組み合わせが、経済発展のためには大事だと思います。物理的なエンターテインメント空間と、ゲーム要素を持ったサイバー空間とを組み合わせれば、より効果的な観光振興策やサービスが提供できそうですね。
「愛媛マルゴト自転車道サービスサイト」を支える
Azure、Dynamics CRM Online、Bing Map
日本マイクロソフトの支援を通じて愛媛県が開設した「愛媛マルゴト自転車道サービスサイト」サイトでは、愛媛マルゴト自転車道の全26コースの紹介だけに留まらない。県内、海外を含む県外から集まる初級者から上級者までのサイクリストを対象に、コースごとの全体図や高低図、走行動画、グルメ、景観ポイントなどのおすすめ情報を、地図情報サービスとして提供。サイクリストや県民からのフィードバック情報を、県が作成するブログやYouTube、Facebookなどのソーシャルメディアサイトへ自動的に再配信する利用者参加型情報サービスとした点が特徴だ。
中村 愛媛県は、県全体を「サイクリング・パラダイス」にすることを目指しています。そのためには的確な情報をタイムリーにサイクリストに届けることが必要です。愛媛マルゴト自転車道サービスサイトは、それを実現するための重要なサービスのひとつになりました。行政から一方通行の情報提供ではなく、サイクリストが投稿し、サイクリスト同士が情報を活発に交換する場にした点が特徴です。
樋口 この協業において、日本マイクロソフトは、Microsoft AzureおよびDynamics CRM Online、そして、Bing Mapを提供しました。また、サンフランシスコやロンドンで活用している住民連携サービスをもとにするなど、マイクロソフトがこれまでに構築した仕組みを、愛媛県向けにカスタマイズしたものともいえます。
サイトにどれぐらいアクセスが集中するのか、そして、それにあわせてどんなスピードでサイトを拡張するのか。そうしたことはなかなか事前には想定できません。わからない中で、新たに個別にサーバーを立てなくてはならないという状況は、新規サービスの創出に大きなハードルとなります。
しかし、クラウドを活用すれば、安価ですし、予想以上にアクセスが集中しても対応でき、セキュリティ面でも安心できる環境で構築できる。しかも、サービス開始までの時間は短くて済みますし、メインテナンスも楽です。企業でクラウドを活用することのメリットは事例でも紹介されていますが、地域をつなげていくという点でも、クラウドは最適ですね。
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