ハイレゾ化の過程、マスタリング次第で楽曲の印象にも変化が
野村 『TVアニメ「ガールズ&パンツァー」オリジナルサウンドトラック』。これは僕がちょっと詳しいところです(笑)。1曲選ぶならブリティッシュ・グレナディアーズ。それともカチューシャですか?
鳥居 そうですね。カチューシャから行ってみましょうか。
野村 積もる話があるんですが、まず金元さんの声がいいでしょ?
鳥居 がんばってますよね。巻き舌とか。
野村 ええ。CDでは結構ごまかせるのですが、ハイレゾではかなり片言のロシア語に聞こえるんじゃないかと。それが逆に“がんばって歌っている雰囲気”につながっていると思うんです。
カチューシャというキャラクターは、そもそもの設定が“ロシア好きの日本人”だから、それで構わないはず。この“本来はこう”ってのがよく感じられると思います。もうひとつ、ファンの方から「役としてこれでいいんです」という回答が得られたことにも後押しされました。つまり自分たちで役柄を想像して、空想や予想を広げられるアイテムにもなっている点が、この音源の素晴らしさじゃないかと。現場の収録はぶっつけに近い状況だったそうですが。
鳥居 それはまた、すごいですね。僕はロシア語が分からないからなおさらなんですが、ロシア語独特の発音というか、舌の巻き方なんかを相当練習してやったんだろうなって感じていました。
野村 もうひとつハイレゾ版について言うと、当初、マルチトラックを96kHz/24bitにアプコンして、ミックスダウンしなおすというアイデアがありました。いろいろな制約があって、結局はオリジナルの2ミックスを使いつつ、マスタリングをきちんとやり直すことになったんですが。
鳥居 エンジニアもCDとハイレゾで違うんですよね。
野村 CDもよく売れた作品だったんですが、クラシック色が強いマスタリングでした。ただ僕個人の感想として、ボーカル曲なんかはちょっと違うんじゃないかなと思う面もあって。結果的にマスタリングのエンジニアとして原田光晴さんに参加してもらえることもあるし、軍歌やマーチが多いこともあるから、ポップス寄りの雰囲気を出してもいいんじゃないかという話に落ち着いたんです。原田さん自身も「こういう楽曲はどうかな」と思っていたようですが、上手くまとめていましたね。やはり並みの腕じゃないんです。
ブリティッシュ・グレナディアーズを聴くとよくわかると思います。慣れてないと言いつつも、カリっとマーチとしての張り上げ感を出すところなんてさすがだなと。最初に聞いたのがこの曲でしたが、肩肘が張らず、メリハリがはっきりしたサウンドに仕上がっていた。2ミックスしたオリジナルマスターの音を知っているだけに、原田さんは“化け物か”と思いました。
鳥居 行進しながら演奏することが多い、ブラスバンドの感じがよく表現できていますね。パンツァー・リートという別の曲では、靴音を実際にやって録音している。だからたまに乱れているのだけど、それがハイレゾになると手に取るように分かって、臨場感が出てくる。
野村 人間がやってるぞと、感じさせるところがいいですよね。
鳥居 たぶん、ばらつきは録音している人は気づいていて、あえてOKを出しているんだと思います。きちんとやるならパーカッションの人がやったり、打ち込みにするなどいろいろと手があるでしょうし。
野村 (聴きながら)なるほど、この辺とか、ですね。
鳥居 そう。いろんなところでちょっと引っかかったりよれてる。人数の関係でちょっと物寂しい感じになっているのも味です。
野村 余談ですが、クラシックの演奏者って組合の規定で録音で1日に参加できる時間の上限があるそうです。4432の編成なら、低域から入って全員を録ってバンマスやパートリーダーが残って修正するといった段取りを組む必要があるし、バイオリンなんかは初見でスイスイ弾けないとレコーディングには参加できない。でもこのサントラはクラシックではなく、マーチングバンドなので、ガッツリやってくれたみたいなんですね。へろへろになるまで吹いたし、逆に気合が入ったという話も聞きました。
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