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立地産業に挑む「リネット」 ネットでクリーニングの勝算 (2/2)

2015年04月13日 11時08分更新

文●野本纏花

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新規参入はラクじゃない

「リネット」でクリーニングを申し込むと、10社ある提携工場へ自動的に振り分けられ、ヤマト運輸のドライバーが洗濯物を取りに来る。洗濯物は、直接工場へ届けられ、検品・クリーニングされた後、ふたたび宅急便で顧客のもとへ届けられる。

顧客でもっとも多いのは、都内に住む30代の女性。忙しいワーキングマザーに人気だそうだ。会員数は2015年1月に10万人を突破、人気俳優を起用したテレビCMを流し、2月にはYJキャピタルから4億円の資金調達も果たした。

もっとも利用者が多い30代女性にとって、クリーニングはおしゃれの一環だ。お気に入りの洋服がどのように扱われるのかを、詳しく記載して安心してもらう

一見、順風満帆そうに見える「リネット」だが、あるベンチャーキャピタルに「決算書から血の滲む努力が見られる」と言わしめたほどの苦労を重ねてきた。

既存の店舗型クリーニング店は、クリーニング代の3〜5割を家賃や人件費が占める。店舗をなくして、顧客と工場を直接繋げば、より高品質なサービスを低価格で提供できると考えて『リネット』を始めたものの、最初は提携してくれる工場がまったく見つからなかった。クリーニングは、プライドを持って何十年もアイロンがけをしている職人の世界。リネットのビジネスモデルを理解してもらえなかったのだ。

「『ネットで楽しやがって!』とお叱りを受けたこともありますよ」と斎藤氏

「どこへ行っても『クリーニングはサービス業。受付がすごく大事だから、ネットだけでやっても絶対にうまくいかない』といわれました。『ネットで楽しやがって!』とお叱りを受けたこともあります」

今となっては笑えることが創業時にはあったと斎藤氏は苦笑する。

リアルな現場で培ったノウハウで他社を寄せつけない

結局、顧客がネットで申し込んで宅配業者が回収、仕上がったら再び宅配業者が届ける「表」のスタイルは変えずに、裏工程に「一手間」入れることにした。工場へ洗濯物を届ける前にリネットでいったん受け取り、1つずつ検品。工場から戻ってきた商品もリネットで仕上がりをチェックして、自分たちの手で梱包してから配送した。もちろん、お客さまの問い合わせやクレームもすべて自分たちで対応した。「一手間」は3年間続いた。

この3年間を単に「大変」では終わらせなかった。「どうしたら、梱包する際にシワにならないか」「どうやってチェックすれば、効率良くミスが出ないか」と研究を続け、「一手間」をかけずに品質が維持できるように、すべてシステム化していったのだ。

「自分たちのノウハウを集約したシステムを作り、実現性の高い形を見せることで、ようやく提携工場が増えていきました」

最近では競合となるサービスも登場しているが、先行してクリーニングのEC化に取り組んできたリネットにはすでにノウハウが溜まっていて、他社とは大きな差を付けている。そのうえ、ネット化が遅れていたクリーニング業界には、ネットの集客ノウハウを持つ競合他社はなかった。結果として、創業当初から多くの顧客に利用されるサービスに育った。

「ただし、物販と違ってサービスECはネットで完結しません。オペレーションも見ながら、ちゃんとやり遂げる信念や志が求められるビジネスだと思います」

多くのビジネスから市場規模、タイミング、ビジネスモデルの観点から選び参入した市場でも、頭で考えていたほどラクにビジネスをさせてくれるわけではないのだ。

※ ※ ※

サービスECの運営で苦戦している人たちは、自社サービスを「信念」や「志」で見直してみるとよいかもしれない。次回は、システム化した工場のオペレーションや「リネット」流のお客さまサービスについて、さらに詳しく紹介していく。

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